衝突、ピント戦
ロインは目の前の存在を敵と認識し、
ダニエルから聞いた武器にも目を配る。
あの筒状の何かが〝じゅう〟とやらなのだろうが、
しかしその形状で矢を飛ばすとなると
ロインには吹き矢しか想像ができない。
それでもダニエルの警告を思い出す。
射られるときは強い光が出る、
決して直視はするな。
すさまじい音で耳を奪われかねない、
絶対に近くによってはいけない。
なぜダニエルは最期に
ロインへと助言したのか、
その理由はわからずじまいだったが
今はその言葉を信じて対処するしかない。
「さてと、
ここまで来てくれたロインさんには
丁重におもてなししたい
ところなんですが……」
ピントはじりじりと
ミザリーの元へと歩み寄っていく。
ロインはそれを阻止するべく
駆け寄ろうとした──
「はい、そこまでです!」
ピントが筒をこちらに向けたかと思うと、
耳をつんざくような轟音と
目を焼くような閃光が走り、
ロインの足元に小石ほどの穴が開いていた。
「なッ……
矢が見えなかった……ッ!?」
「それが銃の利点ですね~!
飛んでくる弾が見えないので、
撃たれてから避けるのは
それこそ超人的な身体能力が
必要なんですよ?」
ロインは内心焦っていた。
弓のようなものだと言われていたので
遠くから射られればまだ避ける余地は
あると思っていたのだ。
「マジかよ……」
「むほほーッ!!
心底驚いたという顔をしてますね?
そういう顔を見ると
うれしくなッちャいますねェ!!
『自分の方が上だと思っていたのに、
相手の方がはるかに格上で
打ちのめされる』だなんて、
最高のごちそうですよ!!」
ピントはゆがんだ笑みを浮かべてロインを見つめ、
ミザリーのそばへとたどり着くと──
懐からナイフを取り出して、
縛り上げられた手を斬りつけた。
ロインは体中の血液が沸騰するような感覚に陥る。
今自分は何をしていた?
目の前にミザリーがいるにもかかわらず
自分の保身のために二の足を踏み、
結果ミザリーが傷つけられるのを
黙って見ていた。
ロインは腰から提げていたナイフを手に取ると
そのままとびかかろうと構える。
──しかし寸でのところでそれを耐えたロインは
武器を構えたままピントを挑発した。
「……こッちに来やがれボケなすが。
それともその武器に頼らねェと
俺と戦うことすらできねェか?」
「おんやァ~?
ロインさんこそかかッてこないなんて
ビビッちャいましたかァ~?」
ピントもミザリーが人質であることを
当然認識しており、
離れるつもりはないらしい。
ダニエルが言っていた武器の特徴が
現実だった以上、
ミザリーの近くで戦うことは断じて
避けなければならない。
「それにしてもミザリーさんは
静かですよね~ェ?」
「あ?」
ピントが世間話でもするかのように
話し始めたことに、
ロインは警戒心をあらわにする。
ミザリーがどうしたというのか、
傷をつけられてさぞ痛い思いを
したのだ、
その顔は苦痛に歪んで──
そこまで考えてから、
ミザリーはあの時悲鳴を上げなかったことに
ロインは今気が付いた。
即座にミザリーへと目を向けると
その顔は首でも絞められたかのように紅潮し、
酸欠の魚のように口をパクパクとさせている。
なぜそのことに自分は気が付かなかったのか。
頭に血が上っていたとはいえ
姉の異常事態に気付くことができなかった
自分をロインは呪った。
「あ~らら~
かわいそうにミザリーさん、
ロインさんに今の状況気付いてもらえて
なかッたみたいですよォ~?
なんで喋らないんでしョうか、
もしかして~……」
ピントは吐き気がするほどに
顔を愉悦の色に染めて言った。
「喋らないんじャなくてェ、
喋れなくされちャッたんでしょうかァ?」
「ッ!!!」
ロインは今すぐにでもとびかかって
ピントの喉笛を斬り裂いてやりたいと思った。
しかし〝じゅう〟を持ってミザリーのそばに
いる以上、それは許されないことだった。
「あァ~なんて!
なんてかわいそうなんでしョうかミザリーさん!
こんなに苦しそうな目に合ッてるのに、
目の前の弟さんは助けようとすらしてくれないなんて!
いッたい誰がこんなひどいことを?」
ピントはそこでもったいぶるように
ロインに背を向けると、
くるりと愛嬌を見せつつ振り向いて見せた。
「まァ、自分なんですけどね?」
堪忍袋の緒など当の昔に切れている、
それでも袋そのものが破ける音がしたのは
ロインも初めての経験だった。
形容し難い絶叫を上げながら
ロインはピントに向かってとびかかる。
ピントは〝じゅう〟を掲げてロインに狙いを定め──
そのまま何もすることなく、
そのまま腕をナイフに貫かれた。
「ァァ……ァあ?」
ロインが明らかな異常に気が付いた時には
ピントは大きく距離を取り
腕を押さえていた。
「あ痛ァ……
これ想像よりもはるかに痛いですね。
むほほ……アズさんはこれを心臓にですか、
大した人ですねェ……」
「ァ……待ちやがれ、
なんでてめェがその状況を知ッてやがる……」
ロインは急速に頭から血が引いていくのを感じた。
この光景、つい最近似たような光景を目にしている、
そして、この後に何が起きたのかも目に焼き付いている。
「てめェら……
いったい何モンだ……!」
「むほほ……
いいんですか、自分なんかに気を取られて……
ミザリーさんが大変なんですよ?」
ロインはハッとしてミザリーへと目を向ける。
ミザリーはいまだに顔を赤くしたまま
何かを喋ろうとしている。
「悪いけど姉ちゃん、体触るよ!!」
もしやどこかの骨を折られているのではないか、
そう思って体中を触ってみるが
どこを押しても変な感触もなく、
ミザリーは相変わらず表情を変えていない。
「まさか毒を盛られて……ッ!?」
ロインが口の中を覗き込むと
ミザリーの口の中は真っ赤になっている。
やはり毒を飲まされたのか、
ロインが青くなって腰の袋の中に
解毒剤が入っていなかったかとまさぐると
ミザリーの声がかすかに聞こえてくる。
「姉ちゃん!?
待ッてて、今解毒剤がないか──」
「─ず……」
ロインはかすかにだが聞こえたミザリーの声が
消えないようにと願いながら袋を探る。
「あッた!!
練粉のやつだけど、姉ちゃん!
口開けて──」
「辛ひ……み、水ぅ……」
口の中がただれているのだろうか、
ならば口に入れられたのはカエンタケの類か。
「そんな……姉ちゃん……ッ」
「これぇ……鷹の爪ぇ……!」
「毒が鷹の爪なんてッ……鷹の爪?」
ロインは聞き間違いかとミザリーの口元に
耳を寄せる。
しかし確かにミザリーは鷹の爪──
唐辛子で口が辛いとひたすらつぶやいている。
「……確かに唐辛子なの?」
「匂いが……完全にそうだ……
だからぁ、水ぅ……」
「み、水だね!!
俺持ッてたッけ……?」
ロインがそう考えると、
何かが頭に投げつけられた。
「痛ッ!?
なんだいったい……?」
何がぶつかってきたのかと
ロインが足元を見ると、
そこには皮袋の水筒のようなものが落ちており
飲み口部分がぶつかったようだった。
「なんだ、誰が投げやがッた……?」
「それ、水筒か……?
頼むから一口ぃ……」
ミザリーがねだるように舌を突き出してくるが、
何が入っているのかわかったものではない。
ロインが口を開いて手に出してみると、
無色透明の水のように思える。
試しになめてみても問題はないように感じ、
少しためらいながらも
ロインはミザリーに水筒から水と思われるものを飲ませた。
こくこくと喉を鳴らして飲んだミザリーは、
ほぅっと息を吐つ。
「ようやく、落ち着いた……
よく来てくれたな……」
「当然だよ姉ちゃん!!
俺は姉ちゃんがいるところなら
地獄の果てまでついていくからね!!」
ロインは笑いながらミザリーの手に絡みついている
鎖をほどこうと手をかけると、
耳をつんざくような音が轟くと同時に
ロインの手のそばを熱い何かが通り過ぎた。
「えらく余裕な態度を取りますねェ……
まだ自分は健在なのに、
まるで全部終わったような態度をとるなんて……」
「まだ居やがッたのかてめェ、
何も聞こえてこねェから
とんずらしたんだと思ッてたが……」
ロインはミザリーを守るように立ちはだかり、
ピントはそれを不敵な笑みでにらんでいる。
「ちョッと休憩してたんですよ。
いやァ早くしてくれないかなッて
おやつでもつまもうかと思った
ところです……いてて……」
「それじゃ最後の晩餐を楽しみ損ねたことを
後悔しながら死にやがれ。
いるならいるでぶちコロすだけだ」
ミザリーを助けようとする度に
ピントは攻撃してくるだろう。
ならば先に倒しておくしかない。
先ほどなぜ攻撃をそのまま受けたのかはわからない、
だが何か行動を起こすのなら、
その前に仕留めるしかない。
「そういやてめェは一発殴ると
決めてたからな。
渾身の一発決めてやるよ」
「それならこッちも全力で
抵抗しましョうか……
へなちョこパンチは全部さばききッて
脳天に一発撃ちこんであげますよ」
異世界で初めて出会った者が
最後に立ちはだかる敵となる、
読み物だったとしたら笑い話に違いないと
ロインはナイフを構えた。
ミザリー「余はいつまで吊られたままなのだ……?」




