思わぬ言葉
頭を下げて
「よろしくお願いします!」と言ったピントに、
ロインは気怠げに答えた。
「あー、ロインと言います。よろしく」
そしてベッドに腰かけ、
居住まいを正すとキリッとした顔で言った。
「そちらのミザリー姉ちゃんの弟ですッ」
「違う」
間髪入れずに否定した
ミザリーはため息をついた。
「貴様、何度言えばわかるのだ?」
「うーん…冗談じゃないとわかったら?」
「あれだけ言ってなお理解していないのか!?」
「だって冗談でしょ?
実は私はお前の姉じゃないのだーッて昔はよく泣かされたし!」
「……恨むぞ貴様の姉……」
眉間にしわを寄せたミザリーに、
ロインは心配そうに立ち上がって寄り添った。
「むほほ、仲の良いご姉弟でございますなァ~ッ?」
「違うぞっ!?」
「そう思いますッ!? いい人だあんた!」
にっこりと笑うピントに2人は正反対の答えで返し、
ピントはおおう、とたじろいだ。
「でもですよッ?
他人同士だったとしたらそこまで仲がよろしいのは、
相当気心知れた仲って
ぐらいにはいい感じですよ?
そんな人そうはいないですッて!
いやうちの町にも似た感じの
ご姉弟いました!
もう仲睦まじいフリカッセ家のお2人が─」
再び1人で話し始めてしまったピントを前に、
ミザリーは首を傾げた。
「むぅ……
なぜ初対面のものからも
こやつの姉と間違われるのだろうか…。
そんなにも余とこやつは似ているのだろうか?」
「うーん。
姉ちゃんは母さん似で、
俺とは別だと思うよ?」
ロインの答えにミザリーは疑問符を頭に浮かべた。
「俺は親父にそッくりだッて村でよく言われてたけど、
姉ちゃんが言われたことは一度も無かッたからね」
「ではなぜ姉弟と間違われる?」
再び疑問を繰り返すと、
ロインはうーんと唸って一言をひねり出す。
「……根本が似てる、とか?」
「……」
ミザリーは絶句した。
こやつと自分がいわゆる〝似た者同士〟であり、
それがこやつの姉と間違われる理由であるならば。
甘えん坊のように抱き着く姿を──
理解の及ばない言動をする姿を──
──ミザリーは自分自身がそうであるように想像してしまった。
「いやだぁぁあああっ、
っうわあ、わああああー!!!」
「姉ちゃん!? どうしたのッ!!?」
「そんなのは余ではぁ、うわあぁーっ!!」
「姉ちゃァァァん!!?」
しばらく部屋の中には2人の悲鳴と
大きな独り言があふれ、
混沌とした場となった。
しばらくしてミザリーは落ち着き、
肩で息をしながら手の甲で汗を拭う。
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫姉ちゃん?おいあんた、水か何かないかな!?」
「──だッたんですよ! いやァ協会の人たちに話聞くのが大変……
えッ? あ、はい、水ですか?」
なおもしゃべり続けていたらしいピントは、
ロインの声に慌てて水差しから
水をカップに1杯入れて差し出した。
「どうぞ!」
ロインが受け取って差し出すと、
ミザリーは手に取って一気にあおった。
乾いた喉を水が潤していき、
大きく息を吐いたミザリーは何度か首を縦に振った。
「……すまない、もう大丈夫だ」
「よかッた……!]
ホッとした様子のロインを見て、ピントが不思議そうにのぞき込んでくる。
「あの……何があッたんですか?」
「……マジで気付かなかッたのか?」
「まぁ……それはもういいだろう」
追求しようとする気配を察知したミザリーは、
ロインの発言を遮り話を終わらせる。
自分が勝手に想像して勝手に恐慌状態になったのだから、
迷惑をかけるわけにはいかない。
介抱してくれた恩人であるというのなら
尚更である。
「うん、姉ちゃんがそういうなら」
「えと、いいんですか?でしたら、まァ、ハイ」
怪訝な顔をしながらもピントは納得してくれた。
それにしても、正直ロインがすんなり言う事を
聞き入れてくれたのは意外だった。
ミザリーは突然の発狂に
当然根掘り葉掘り聞かれると思っていたのだ。
「えー、じャあとにかくです!
先ほどから聞きたかッたことなので、
今言ッちャいますね!」
『?』
コホン、と咳払いをしたピントは声を潜めてこう言った。
「お2人って…
〝この世界〟の方なんでしょうか!?」
『……なに?』
ミザリーたちは思いもしない質問に目を丸くした。
それはどういう意味だろうか。
ピントは窓の外をのぞくと、
再びこちらに戻って
さらに体を2人に寄せ、
小さな声でこう言った。
「実は自分、
昔会ッたことがあるんですよ。
お2人みたいな不思議な格好をして、
その人は言ッたんです……」
ごくりとミザリーは固唾を飲み、
続く言葉を待つ。
そしてピントは、
にわかには信じがたい言葉を口にした。
「〝私は異世界から来たものなんです〟ッて……」




