殴りこみ
「頼もーぅ!!」
客車中に響き渡る大声でミザリーが叫ぶと、
客車の奥に座り込んでいた人物が
立ち上がりこちらを振り向いた。
「うるっせーなぁッッ!!
俺は今気が立ってるんだぜ、
妹分が役目をはたして
戻ってこねぇってことでなッッ!!」
その人物はローブを脱ぎ去り、
素顔をさらす。
その顔にもミザリーは見覚えがあり、
ピントに剣を向けていた男だったと
思い出した。
「そなたも見た覚えがあるな。
〝ぶるーまん・しょっぷ〟の帰りに
襲ってきたやつだろう?」
「覚えてもらっててうれしいねッッ!
だがそんなことは今はどうでもいいんだぜ、
てめぇらを追いかけていった妹分が
なんで帰ってこねぇんだッッ!!
理由はひとつだろう……
てめぇらに倒されたってことだろうなッッ!!」
男は叫ぶや否や
ミザリーに向かってとびかかってきた。
腰の剣を抜き、
もはや言葉を交わすこともないとばかりに
襲い掛かってきた男に、
しかしミザリーはゼクルヴィッスの時と比べれば
冷静になることができた。
突っ込んでくる男の位置を考えて
一歩横にずれると、
そのまま相手の服を掴んで
床に引きずり落す。
「あばーーーーッッ!!」
男は顔面を床にこすりつけるようにして落ち、
すさまじい悲鳴を上げる。
「そんなにことを急ぐな。
余はそなたと話し合いをするために来たのだ」
ミザリーが男を助け起こしながら
話しかけると、
男は剣をふるおうと腕を上げるそぶりを見せる。
ミザリーはその様子にいち早く気付くと、
その腕を抑え込みにかかった。
ゼクルヴィッスの時を考えて
強めに行くべきかと思い
それなりに力を込めるようにすると、
男の腕はあっさりとミザリーの腕の中で止まり
むしろ痛みに身をよじらせていた。
「い、痛ぁーーーーッッ!!
おいてめぇッッ!!
これのどこが話し合いだ、
確実に俺のこと殺しに来てるだろうがッッ!!」
「あびゃっ!?
いや、そんなつもりで
力を込めたわけではないのだが……」
どうにもおかしい。
ゼクルヴィッスに拳を叩きつけた時には
まるで鋼を叩いたかのような衝撃に
こちらの方が傷を負ったのだが、
まるで状況が逆である。
ローブの者たちはそこまで強くはないのだろうか?
そういえばピントにもあっさり側面に
回り込まれていた、と思い出し
抑え込む力を弱めてやった。
「そなたの妹は余らが保護している。
投降するのなら初めの客車に戻って
引き合わせると約束しよう。
……とは言ったが、
なんだかそなたは
信用してはくれそうにないと思った」
「当たり前だろうがッッ!!
なんでてめぇらの言うことを
全部信じなきゃならねぇッッ!!」
案の定こちらの言うことに耳を貸さないな、と
ミザリーは嘆息すると、
扉の近くに座り込んだまま動かない
2人組に注意しながら
ロインに指示を出す。
「お前、そこの扉と先ほどの客車の扉
両方を開けてくれ。
そうすればこの男も
こちらの言うことを信じてくれるだろう」
「なるほど確かに!!
ちョッと開けてくるね!」
ロインが駆け足で扉を開き
最初の客車の扉も開くと、
そこにはトルションとキヅクの姿があった。
「兄貴ぃっ!!」
「お前ッッ……」
男はキヅクをにらみつけるような目で見ると──
怒号を浴びせた。
「何やってんだお前ぇーーッッ!!
ここで結果を出さなきゃ俺たちは
もうおしまいなんだぞぉーッッ!!
そんなとこで何やってんだぁッッ!!
この役立たずッッ!!」
「兄貴……」
「おい待て、
それは一体どういうこと──」
ミザリーがどういうことかと
聞こうとした瞬間、
男の体がほんのりと光ったかと思うと
男がことさら大きく叫んだ。
「〝痛み分け〟!!」
ミザリーは座っている者たちから
不意打ちを受けたのかと思った。
腕に突然強い痛みが走り
何かに掴まれている感覚がしたのだ。
ミザリーが座っている2人組に目を向けると、
しかし二人は微動だにしていない。
何が起きているのかと
自分の腕に目を向けると、
腕にくっきりと手でつかまれているような
形が浮かび上がっており
目に見えない何者かに掴まれているようだった。
「な、なんだこれ、は……!」
「姉ちゃん!?
どうしたのその腕!?
てめェらか!!
いッたい何しやがッた──」
ロインが椅子に座り込んでいる
2人組に掴みかかると、
大きく揺さぶった後に黙り込んだ。
「なんだいったい!?
お前、いったいどうし──」
「姉ちゃん……」
ロインは無表情のままこちらを向いて、
言った。
「こいつら……死んでる……」
「な、にっ……!?」
想像だにしていなかった答えに
ミザリーは固まった。
ではこの手についている手形は、
まさか〝死んだ者たちが掴んでいる〟とでも
言うのだろうか?
それが事実だとしたら、と考え
ミザリーは顔から血の気が引いていくのを感じた。
「あびゃあああ!?」
思わず男から手を離し
両手を振り回して、
いるかもしれない霊を
追い払おうと暴れる。
祟らないでくれ、
成仏してくれ……!
そう叫びながら目をつむっていると、
ロインがミザリーに叫んだ。
「姉ちゃん、腕、腕見て!!
もうなくなッてるよ!!」
「あびゃあああ……あ?
本当に?」
そう言われて腕を見ると、
確かにもう掴まれているような跡はない。
どうやら離れてくれたようだと
ほっとしていると、
男が何やらぶつぶつとつぶやき続けていた。
「──……」
「なんだてめェ?
さッきから姉ちゃんを脅かしたり
妙なこと口走ッたりよォ……」
ロインが問い詰めると、
男は顔を上げて──
大声で笑いはじめた。
「ぶぁーっはっはっはっはぁーッッ!!
今のが死人が襲ってきたように見えるのかッッ!?
そんなこともわからないとは、
だから異世界人はアホだというのだッッ!!
俺が口にした言葉と照らし合わせれば
これが俺の能力だということがわかるだろうがッッ!!」
男はミザリーたちを嗤いながら自身の右手を
左手でぎゅっとつまんで見せる。
「痛っ……!!」
するとミザリーは男と同じ右手に
痛みが走るのを感じ、
そこを見ると同じ場所がまるで何者かに
つままれているように引きつっていた。
「これが俺の異能、〝痛み分け〟ッッ!!
俺が指定した相手に対し、
俺が受けたダメージを相手も同様に受けるッッ!!
指定範囲は〝俺の視界にいるすべての敵〟ッッ!!
つまり敵判定したてめぇら全員にダメージは
返っていくのさッッ!!」
「なんてことしやがるてめェ……!!
てめェを殴るのは姉ちゃんを殴るのも
同然……!!
ぶちコロしてェのにできねェ……ッ!!」
「待てお前。
余は話し合いをするために来たと
言ったではないか」
ミザリーはロインをたしなめると、
男に向かって歩いていく。
「なんだ、
俺に攻撃しようってかッッ?
いいともッッ
その代わりお前も同じ痛みを
受けるんだぞッッ!!」
「なるほどな」
ミザリーは言い終えるなり、
男の左頬めがけて拳をふるった。
拳がそのまま男の顔にめり込むと、
ミザリーの左頬にも強い衝撃が走り
口の中に鉄の味が広がった。
「あばーーーーーッッ!!?」
男はそのままの勢いで吹っ飛び、
床を滑っていく。
ミザリーは男の後を追うように歩いていき、
追いつくとその胸ぐらを掴み上げた。
「ぶぁッッ!!?
て、てめェ……
俺の話聞いてなかったのかッッ……!?
俺が受けるダメージはてめぇにも──」
ミザリーは男の言葉を遮るように
その腹めがけて拳を見舞う。
突き刺さった拳に男は苦悶の声を上げ、
ミザリーも腹に激痛が走った。
「あばッッ……
な、何考えてやがる……」
「そなたのために、
キヅク殿は余らに向かっていったのだぞ?
そんな状況に追い込まれるまで
なぜそなたは手を打たなかった。
余らを初めに襲ってきたときにも、
キヅク殿は余らを傷つけるよりも
そなたらを助けることを優先したのだ。
なぜそんな彼女が先鋒にされなければならない?」
男は信じられないものを見る目で
ミザリーをにらみつける。
「なんだ、なんなんだてめぇは……!!?」
「余の名はミザリー。
魔王である」
その言葉に男はひるんだのか、
ひぃっとか細い悲鳴を上げた。
「キヅク殿のために
血を流さずに済ませようと思ったのだが、
貴様がそう出るのならば仕方がないな。
貴様がキヅク殿を助け、
その言葉に耳を貸すまで──」
ミザリーは手のひらをぎり、と握りしめた。
「この拳で、語り掛けることにしよう」
ロイン「大丈夫姉ちゃん!?」
ミザリー「この程度なんてことはない」




