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狂人よこんにちは 上

 この物語はフィクションです。

 登場人物、団体、事件は実在のものとは一切関係ありません。

 作中では危険行為、犯罪、人体改造、法律の独自解釈がありますが、作者が取材や実験をろくにしていません。間違っている可能性があり、大変危険で捕まるので絶対にマネしないでください。


『世の中には古い常識に囚われた馬鹿が多くいる。

 火のない所に煙は立たないと言うが、立てる方法はある。

 良薬は口に苦いと言って苦痛を美徳とするが、オブラートに包めば苦くない。


 どんなことにもズルはある。

 しかし、煙が立てば確認すべきであり、薬にはオブラートに包まない方がいいのもある。

 目的を果たすのにイカサマは必ずあるが、それを使う時を見極めなければならない』

 (詐欺師、佐倉本地(さくらほんじ)の証言 より引用)


 佐倉家の屋敷の地下室にて


 親ガチャという言葉がある。

 親によって子の人生が決まってしまう、努力では挽回できないものがあることを運の要素が強いガチャガチャに例えたものだ。


「親ガチャ大外れだよな」

 と、僕こと佐倉夏木(さくらなつき)はつぶやく。


 幼い時に僕の母は亡くなった。

 それ以来、父と2人暮らしをしていた。

 父は貧乏ではないし、虐待はしていない。


 だが、育児放棄をしている。

 そして犯罪者だ。

 世界的に有名な詐欺師だ。

 多くの人間から恨みと殺意を買い、その首には巨額の賞金が掛けられている。


 ある日、父は「旅に出る」と言い残して行方不明になった。

 大物の賞金首が行方不明であり、唯一の肉親である息子は存在している。

 結果、息子の僕は狙われる。


 情報が欲しいマスコミ、賞金稼ぎ、怪しい奴、犯罪者。

 命を狙われることだってある。

 親のせいでまともな人生をおくれない。


「マジでクソ親父だろ」

 坊主憎けりゃケサまで憎いということわざがある。

 犯罪者の息子である僕は憎まれる。


 せめて、僕が成人していれば……。

 こんな屋敷は捨てて引越しをする。そして、どこかで職を見つけてひっそりと暮らす。

 だが、僕は中学生だ。

 せめて中学は卒業しておきたい。


「生きるって難しいな」 

 今まではなんとか生きてこられたのだ。

 朝起きて、ご飯を食べる。中学に行き、帰ったら洗濯と掃除と勉強をする。

 嫌がらせは多かったが、なんとかできていた。


 だが、それも終わりのようだ。

 終わりの手紙が来た。

 

『佐倉夏木様へ

 私はあなたの父、佐倉本地に莫大なお金を奪われました。

 そして、地位と信頼も失いました。

 だから、殺し屋を雇いました。

 あなたの命をもって、この恨みを晴らします。

 一瞬で終わらせるのは味気ないので、段々と激化させます』


 今までも嫌がらせの手紙はよく来ていた。

 だが、セキュリティが万全な屋敷の中のテーブルの上に手紙が置かれたのは初めてのことだ。


 屋敷の防犯システムをものともしない、一流の犯罪者に命を狙われている。

 警察に相談したが、定期的に巡回をしてくれると言われるだけだった。


 そして今日。

 中学校から帰るときに歩道橋の階段から突き落とされた。


 人通りがなくて、カメラもないところ。

 まったく気配を感じさせないプロの犯行。

 犯人の後ろ姿しか見れなかった。


 僕は両手に大きな擦り傷を負った。

 警察に通報したが、真剣に取り合ってくれなかった。

 事故でこけたのだろう、と。


『段々と激化させます』

 手紙にはそう書かれていた。


「お金があれば…」

 お金があれば、ボディーガードを雇えるのに。

 そんな大金はない。


 だから、僕は地下室に引きこもることにした。

 地下室のセキュリティは信頼できる。食料も半年分はある。

 食料が足りなくなれば、配達サービスを頼む。


 殺し屋が怖ければ、引きこもって生きていくしかない。

(……僕は逃げたわけじゃない)

 そう、一時的に撤退しただけだ。


 体を鍛え続け大人になれば殺し屋にも勝てるはずだ。

 それにもし親父が逮捕されれば僕は狙われなくなり、大人になる前に外に出られる。

「……」

仕方のないことだ。今は勝てない。生きているだけで幸せだ。僕より不幸な奴はたくさんいる。仕方のない……。


「くそっ!」

 壁を力強く殴った。

 皮膚が裂け、こぶしが血に滲んだ。


 いいのかそれで!

 自分の意思で引きこもるならまだしも、他者に強要されたものに従ってなんになる!

 いつだ! いつになれば自分は外の世界に出るのだ!


 十八歳か、二十歳か。

 その年齢に達したとき、恐れを捨てて殺し屋と戦えるか。

 まだだ、まだだと言い続けて引きこもるのではないのか。


「僕は殺されるほど悪いことなんかしていない!」

 それなのに恐怖に怯えながら生きるのか!


「くそっ……ちくしょう」

 怒るのは良くない。

 怒りはよくない結論を出してしまう。

 落ち着くべきだ。


「気分転換でもするか」

 僕はパソコンの電源を入れ、オンラインゲームを始めることにした。


 複数のプレイヤーが企業を動かし、カードやお金を使い、時には妨害しながら一緒に火星を開拓していくボードゲーム。

 複雑で考えることが多いゲームで2時間はかかる。


「あっ、間違えた」

 このカードは今使うべきではなかった。

 2回目の行動をしたので強制的に手番が次に移る。


 案の定、次のプレイヤーが僕のミスに便乗した行動をして、ボーナスポイントを取られた。

「まあ、ミスするのもゲームの醍醐味だ……なんだ?」

 自分宛てににメッセージが来ている。

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