新しい街
バースの街についた。行商人たちの顔馴染がいるということで、その人んちの庭に馬車と荷物を出しておく。なにかお礼をということだったが、有意義な話が色々聞けたし、美味しいご飯もごちそうになったのでそれでチャラということにしておいた。
この街から北へ向かった先にある街の近くに、ダンジョンがあるらしい。今まで聞いたことなかったのだが、そのダンジョンはあまり人気がないらしい。
ダンジョンというのは、この世界でも一等不思議なものとして捉えられている。曰く『神の試練』『神々の遊戯場』『超古代文明のなにか』等々。
俺からすれば、まるっきりゲームだ。倒した魔物はアイテム化し、各層の様相が変わり、宝箱があり、ボスがいる。正直今の戦力では難しいかもしれないが、ちょこっと覗いてみたい場所だ。
それはさておき、ラダが冒険者登録することになった。早々に音を上げると思っていたのだが、意外と平気そうについてくる。最近では気絶することもなく、解体も頑張っている。離れる気もなさそうなので、登録してパーティーを組むことになった。
冒険者ギルドへと向かう。さてさて、ここのギルドはどういう傾向だろうか。今までの経験上、良し悪しはギルドマスター次第なのではと思っている。
「あれ、なんでこんなところに子供が?」
不意に背後から声が上がった。左右には誰もいない。俺にかけられた言葉だろう。ちょっとは伸びたんだよ、これでも。マントが縮んでなければ、伸びているはずだ。
コクシンはラダの登録に付き添っている。正確に言えば、俺が途中で「ちょっと掲示板見てくる」と抜け出した。終わるまで待てと言われたのだが、すぐ戻るつもりだったのだ。このままでは、それ見たことかと言われてしまう。
「お嬢ちゃん、こっちおいで。迷子かなぁ?」
振り返り声の主を見上げると、上にも横にも大きい男だった。そして、頭上にぴょこっと笹の葉みたいな耳がある。うむ。足元にいたら、たしかに蹴飛ばされそうだな。じゃなくて。
「お嬢ちゃんでも迷子でもない」
タグを引っ張り出して見せる。結局改造はできなかった。まぁ困ってはないからいいだろう。
大きな男は身を屈めながらタグを見、「同業だったのか」とニカッと笑った。片手に桶を抱えていて、その桶から骨付き肉を取り出しむしゃむしゃしている。行儀が悪いとかいう前に、どれだけ食うんだこいつ。見えてる骨の数が半端ない。
「ん? いるか?」
「あ、いえ」
首を横に振る。男は残念そうな顔をすることもなく、「そうか」と次の肉を手にした。
「おい、ジノイド。いつまで食ってるんだ、行くぞ!」
肉を抱えた男が振り返る。女2人、男1人がギルドの入り口で止まっていた。見栄え優先なんだろうか、ちょっと派手目な装備を着込んでいる。「ああ」と男が俺に背を向けた。その背には亀の甲羅のような丸い大きな盾があった。そしてその下から伸びる、太くて長い尻尾。なんだっけな、あれだ、カンガルーの尻尾だ。
パーティーメンバーだろうが、なんとなく上下関係がある感じがした。リーダーらしい男の表情が半笑いで嫌な感じがする。女2人に挟まれた男の後ろを、大きな男がついて歩いていく。
胸糞悪いものを見た。そんな気がして小さく息をついた。
パーティーといっても、いろんな構成がある。仲良しで組んでいるものもあれば、完全にビジネスライクなところもある。奴隷を使ってるやつもいるし、ハーレムもある。周りが口を出すことではないと思うが。
「レイト、終わったよ。どうした?」
コクシンとラダがやってきた。「ううん」と首を振る。ふと、俺たちも歪に見えるんだろうかと思った。喋らなきゃ俺のお守りをしてる2人だもんな。
時間が中途半端だが、簡単なものなら受けられるだろうと、揃って掲示板を見上げる。ラダは問題なく冒険者になれたらしい。その割にはなんだか疲れている。
「薬を作ってるって言ったら、安く卸してくれってしつこく言われてさ…。コクシンが割って入ってくれたんだけど」
コクシンも肩をすくめた。
「リーダーの許可が必要だって言っておいた」
「リーダー…」
2人して俺を見ている。あー、俺のことね。はいはい。もういいですよ、リーダーで。
「うん。売らなくていいよ。地元の店に睨まれるのも嫌だし」
緊急時、例えばスタンピードの時とか、一度に大量に必要になるときだけにするつもりだ。頭から値切ってくるやつになんか売りませんよ。まぁ、理由があるなら聞くけども。それもなかったみたいだし。
簡単な薬草類の採取の依頼を受けて外に出る。なにか期待するような目を職員さんから向けられたが、これはこの街の薬師が出した依頼でしょうが。余分に採った分はもちろん売らないし、それで作ったものも売らないよ。
「ここのギルドは、いまいちだな」
コクシンの印象もあまり良くないらしい。ちらっと見ると、憮然とした顔をしていた。ラダを見ると、苦笑する。
「口説かれてた」
「あー…」
あそこ女性の職員さんばっかりだったもんね。流石にフードを被ったまま話すのは失礼かと、コクシンがフードを外したら「きゃー」ってなってたもんね。あからさまに胸寄せてた子いたもんね。
「さっさと次の街行こうか」
馬での移動なので、なりたてのラダでも失効する前には着けるだろう。確か10日で失効だったはずだ。とすれば、今日は宿に泊まるか、野営だな。満場一致で野営になった。このまま外で泊まって、明日朝依頼達成して街を出る。
程よく街から離れた場所で、俺は野営の準備を始めていた。2人は採取をしている。俺は馬たちとお留守番だ。途中で見つけて獲ったロットクロウを捌く。今日は時間があるから、ミンチとかしてみようかな。二刀流でトトトっと細切れにしていく。塩漬けの肉もちょっと混ぜておく。これ俺あまり好きじゃない。貰い物だから仕方ない。
「ただいまー」
捏ねたものを寝かせている間に、2人が戻ってきた。俺はかまどを制作中だ。
「おかえり。成果はどう?」
俺が魔法鞄を持ったままだったので、2人は麻袋を抱えていた。成果は上々らしく、ラダはニコニコとあれがあったこれがあったと報告してくる。コクシンは何も言わずに薪になるものを取りに行ってくれた。
「これは違うね。あ、これよく見つけたね!」
スープを作りつつ、採取物のチェック。ラダは依頼のもの以外も採って来ている。出会った頃に比べれば随分見分けがつくようになった。俺でも見落とすような小さなものまで見つけてくる。
「んふふ。見てこれ!」
別に分けていたらしい袋からラダが取り出したのは、黄金色をした蜜がいっぱい詰まった蜂の巣だった。
「すごいじゃん。わざわざ取ってきたのか? 刺されなかった?」
ポタポタしてるのがもったいないと、慌てて器に取る。遠心分離機とかないから、普通に自重で落ちるのを待つ。
「煙で燻したから大丈夫。本当に大人しくなるんだねぇ」
そういえば以前そんな話もしたっけ。馬の世話を済ませたコクシンが戻ってくる。
「特に問題はなかった?」
聞くと、小首を傾げてから「まぁ」と答えた。どうも採取に集中するあまり、周囲の警戒がおろそかになる傾向があるらしい。俺も経験があるので強くは言えないが、注意はしておく。まぁ、ラダがソロで採取や討伐に出ることはないだろう。
「で、これ何?」
フライパンの中でジュ~っといい音を立てている、3つの肉の塊。見た目いい感じに仕上がっている。ソースとかないけど、味濃いめだから大丈夫なはず。串を刺して焼き具合を確認。
「鳥肉をミンチにして焼いたものだよ。ハンバーグといいます」
「ほう」
目を輝かせ、コクシンが皿に盛られたハンバーグを見つめる。コクシンもラダも俺と旅をするようになるまで、自分で料理をしたことがない。なのでこの世界にないものを作っても、すんなり受け入れてしまっている。まぁ、世界は広いし何とでもごまかせる。
「いただきまーす」
ぱくり。鳥肉にしてはしっかりした歯ごたえと、ジューシー感。豚でも牛でもないけど、これはこれで美味い。2人は…うん、聞くまでもないな。見る見るハンバーグが小さくなっていく。
「「おかわり!」」
「ありません」
「「!?」」
こんなことで絶望の表情浮かべるんじゃないよ。フライパンに3つしかなかったでしょうが。わか、分かったから! 無言の圧を掛けるな。今度はボアで作ろうね。




