鉄砲つおい
夜は何事もなく過ぎた。途中、遠くに聞こえる狼の遠吠えにクソガキがビビり散らかしてたけど。護衛で夜番もしてくれている冒険者達は声の方に顔を向けただけだった。距離と方向から、こっちには来ないと分かってたんだろう。俺もそれぐらいは分かる。
朝、少しだけ昨日の疲れが残っているような気がした。主に腰と尻のだが。背筋を伸ばし、ラジオ体操もどきで体をほぐす。朝食は昨日の残りの肉をほぐし、パンに詰め込んでいただきます。ソースが欲しい。
クソガキの寝癖が凄いことになっていた。なんで頭押さえてるのかと思ったら、片側が逆立ってた。
「く、この、笑うなぁ!」
ごめん。我慢できんかった。
いい人だったらお湯作って直してあげても良かったんだけど、坊っちゃんだし、放置でいいや。
しかし、馬車が揺れるたびに、ふよふよ揺れる。さらさらヘアーがおいでおいでしている。見ると笑ってしまうので、みんな顔を背けていた。
本人も思うところがあるのか、今日は大人しい。いいことだ。
昼食兼休憩のために馬車が止まる。
「レイト」
冒険者リーダーのハイターが声を掛けてきた。昨日の一件で、それなりに仲良くなった、と思う。
「あそこ。あれ見えるか?」
何事かと思ったが、緊急の用ではなさそうだ。気軽な様子でどこかを指差す。指す方を見ると、頭ひとつ抜け出ている木に、鳥が止まっているのが見えた。
「鳥?」
「そう。お前あれ弓で狙えるか?」
そう言われて目測で距離を測る。
「ここからは難しいかなぁ。俺の弓距離出ないから。あれ、魔物なの?」
自作の子供が引ける弓じゃ、木の上を狙うのは難しい。
鳥はこっちを警戒はしておらず、羽繕いをしていた。距離さえ出れば十分狙えると思うけど。
「魔物だ。ロットクロウって言ってな、美味いんだ」
ニヤリと笑う。なるほど。食いたいと。
「んー」
休憩は1時間ほど取る。獲ることはできても、捌いて焼くのは時間かかりそうだ。鳥は羽を毟んないといけないし。
「夜用でもいいなら、狙ってみるけど」
「おぉ! 期待してるぜ!」
ハイターがゴーサインを出す。
ちなみに冒険者同士は敬語なしで良いそうなので、俺もまだなってないけどそうさせてもらっている。
さて。弓では届かないので、土魔法でやってみようと思う。
距離、200…250かな。狙いやすいように、人差し指をロットクロウに向け、手鉄砲の形を取る。撃ち出すのは硬い石の弾。銃弾をイメージ…と。狙うは首だ。
ちゅんっ!
思ったよりスピードが出たのか、高い音が耳に届いた。時速とかまで意識してなかったけど、弾道が見えなかった。ちょっとヤベー。
ロットクロウがぐらりと後ろへと落ちる。それを確認して林の中に駆け込んだ。もちろん警戒は怠らない。横取りするようなやつが居ないとも限らない。
ほどなくグッタリと横たわったロットクロウを見つけた。拾い上げると、完全に事切れている。首を狙ったつもりだったが、羽ごと腹の辺りをぶち抜いていた。その場で血抜きをして、腸も引き摺り出しておく。
ばささっ
羽音に振り仰ぐと、鋭い眼光が俺を睨んでいた。手にしているのと同じロットクロウだ。もしかして番とかだったろうか。くえー!!と大きな声を上げて飛び掛かってきた。手鉄砲を向ける。
ズバン!
焦っていたのか、イメージがしきれずこぶし大の石が命中した。死にきれずバサバサしている鳥の首を掻っ切る。
「レイト!」
ハイターが駆け込んできた。俺の足元に転がる2羽を見てほっと肩を下ろす。追加で来たロットクロウに慌てて駆けつけてくれたらしい。
「心配はいらんかったか」
「いや、ありがとうございます。ちょっと焦った。ついでに持ってくれると嬉しい」
鶏サイズの鳥2羽は重い。
ハイターが2羽とも持ってくれた。
「それにしても、鮮やかなお手並みだなぁ」
「でもこれ以上のサイズのはまだ倒したことないから。冒険者としては全然でしょ」
「いやいや、成人したばっかだろう。凄いもんだと思うぞ」
「そうかなぁ。でもパーティーにも魔法使いいるんじゃないの?」
弓を持っている人が居ないのは知ってるけど、前衛しか居ないってことはないだろう。
「魔法か。リリーが使えるが、多分跡形も残らねーな」
「あー」
威力があり過ぎるってことだろうか。
「じゃあ、討伐証明はどうするの?」
聞きかじっただけだが、討伐系の依頼を受けたときは、耳とか牙とか、証明できるものを提出するんじゃなかったか。
「それな。だからまぁ、リリーが魔法使うときは、部位証明がいらんやつだけだ。ゴブリンの群れとか、ゾンビ系とか。魔石は残るからな」
「なるほどー」
魔石は魔法ぶち当てても残るのか。あれ?
「ロットクロウにも魔石ある?」
「おーあるぞ。まぁ小さいんで大した金にはならん」
なるほど。捌くときに気を付けないと。魔石って食べられるんだろうか。いや、消化できないよな。変なこと考えた。危ない危ない。