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Bランクだった


 快適な空の旅はあっという間だった。


 パンサーはすちゃっと街の門の前に着地した。こちらが指示を出さずとも、街中にいきなり入り込んじゃいけないことは理解しているようだ。


「うぉ、びっくりした! Bランクのマイディーちゃんの従魔のモウじゃないか。君たちは?」


 教えてくれてありがとうございます。駆け寄ってきた衛兵さんが、ご丁寧に1人と1匹の名前を口にした。妙に説明口調の人とかよくラノベとかゲームに出てくるけど、実際出くわすとは。っていうか、Bランクとな。


 コクシンが説明してくれている間に、俺は一足先にパンサーから飛び降りる。しかし、モウちゃんとは。偶然なのか牛柄から来ているのか。いや、この世界に白黒斑でモウと鳴く牛がいるのか、疑問はそこからだな。牛乳とかチーズ買いに行ったとき見たやつは、茶色い水牛っぽかったし。


 太めの尻尾がゆらゆらしている。こっちも白黒斑だな。やべぇ。もふりてぇ。そっと触ろうとしたら、ヒョイッと尻尾が逃げた。モウちゃんが振り向く。そっと牙を見せた。あ、ごめんなさい、触りません。慌てて手を後ろにやる。


「レイト? 何やってるんだ、行くよ?」


 いつの間にか話は終わっていた。コクシンはパンサーから降りていて、女の子マイディーちゃんは担架に乗せられていた。未だぐったりしている。


「大丈夫そう?」


 聞くとコクシンは頷いた。衛兵さんがマイディーちゃんを運んでいく。その後ろをパンサーが付いていき、その後を俺たちが追う。


「多分、いつもの魔力枯渇だと思うよ」


 答えてくれたのは、最初に声をかけてきた衛兵さんだった。横並びに俺たちと歩いている。


「いつもの?」


「ああ。彼女はあの年でソロでBランク、水と風の魔法を使いこなす有望株なんだよ。従えているキングパンサーは強力だしね」


 そこで苦笑する。


「ただ、たびたび魔力枯渇してぶっ倒れる」


「え、それ危ないですよね」


「もちろん。起きるまで従魔が守ってるらしいんだが、それだって限界はあるだろう。せめて、パーティーを組んでほしいんだけどね」


「ソロに理由はあるんですか?」


 聞くと、彼は肩をすくめた。


「1人のほうが気が楽だから、と言っていたよ。他にも理由はあるんだろうけどね」


 他人事ではないので、その辺はなんとも言えないが。


 衛兵さんが俺とコクシンを見やって、ニヤッとした。


「パーティーメンバーに誘ってみたらどうだい?」


「ランク違うし、無理ですよ」


 冗談ではない。これ以上手の掛かる人間が増えてたまるか。もっふもふには興味はあるが、メンバー募集はしてないよ!


 冒険者ギルドに着いた。ここでも彼女は有名らしく、あっという間に医務室へと運ばれていった。どれだけの頻度で倒れてんだ。パンサーは屋外待機。と思ったら、すすっと自分で医務室側の窓へ向かった。そこでお座りして外から中を覗き込んでいる。


 毎回ここまで心配させといて、魔力枯渇を繰り返すマイディーちゃんとやらに、ちょっと腹が立つ。というか、健気すぎるだろう、なんちゃらパンサーくん。


「ああ、またお前たちか」


 ギルドマスターが出てきた。問題児みたいに言わんでくれ。俺たちは大人しく依頼こなしてただけだよ。


「で、救出したあたりを聞きたいんだが」


 別室に連れて行かれた。あ、そうだ。ピヨコンカのことも言っとかないと。


「……」


「……」


「…?」


 コクシンを見上げると、こっちをじっと見ていた。いや、さっき衛兵さんにしてくれてたじゃない説明。なんでギルドマスター相手だとだんまりなのよ。衛兵さんと一緒、同じ人間よ?


「あー、レイトだったか。お前から説明してもらえるか?」


 俺とコクシンを見比べ、マスターが促してくる。


「えー、ピヨコンカ討伐で山の麓まで行きました。ちょっとその時のことで後でお話ししたいことがあるんですけど、置いといて。突然、あのパンサーがやって来て俺たちを誘導。岩の隙間で倒れている女の子を発見、救出。3人乗りで空から戻ってきました」


「なるほど。前半何やら不穏な言葉が聞こえたが、置いとこう。マイディーは隙間にいたのか? 怪我は?」


 マスターちょっと額を抑えてるけど、そんなに面倒な話ではないよ、多分。


「そうですね。クラックに挟まってた感じ。怪我は見た感じなかったけど、意識はなかったです。魔力枯渇だろうって、さっき聞いたんですけど」


「はー。そうなんだ。彼女は魔力自体多い方なんだが、どうもぶっ放すのが好きらしくてなぁ。たびたび担ぎ込まれるんだよ」


 おぉう。危険人物に認定しよう。


「あの従魔が飛べるし、付近のいろんな街で活躍はしてるんだ。あの癖さえ治れば、ソロでAランクさえ見えてくるってのに」


「ソロに拘りがあるんですかね?」


「なんだろうな。パーティー薦めてるんだがなぁ。そうだ、お前らどうだ?」


「それさっきも言われましたよ。うちでは無理です。それより、もう少しキツく言ったほうがいいんじゃないんですか? それとも、自分の魔力がつかめないとかなんです?」


 結果的に助かってしまうから、危機感がないんじゃないんだろうか。マスターだってしょうがないなぁ程度にしか思っていなさそうだ。


 自分の魔力が測れないなら、より問題は大きい。普通は魔力切れになってくると、頭痛や吐き気に襲われる。それがなくていきなりプツッとなるなら、ストッパーがないってことだ。単純に命に関わってくると思うんだけど。


「まぁ、な。なまじ実力があって、山の上とか面倒な依頼を受けてくれるもんだから、あまりな…」


 歯切れ悪くマスターが頬を掻く。


「まぁ、いいです。俺は関わる気ないですし。それより、質問はそれだけですか? なら、こっちの話していいです?」


 「またか」で済むんならいいんじゃないんですかね。そのうち「とうとう」になっちゃうだけで。


「あ、ああ。なにか話があるんだったな」


 話を切り上げた俺を面食らったようにマスターが見る。


「ピヨコンカを討伐した際、中に人の白骨死体が入ってました。冒険者と思われます。持ち帰ってきましたので、どこかに出させてください」


 ポンポンと魔法鞄を叩きつつ言うと、マスターの顔が引き締まった。


「分かった。奥の解体小屋を開けよう。行くぞ」


 2階から1階に降り、中庭を抜けた先にある小屋に向かう。大型の魔物を解体するときに使う小屋なのだそうな。シートを引いた指定された場所に、解体途中のピヨコンカを出す。


「…人骨だけじゃないのか」


「だって、裂いたらいろいろ出て来ちゃうじゃないですか」


「お前…。はぁ、分かった。処理はこっちでしよう。おーい、解体出来るやつ何人か呼んでくれ! お前らは帰っていいぞ。明日にでもまた顔出してくれ」


「了解でーす」


 頭を下げ、忘れずに受付で今日の成果を出しておく。1匹分だけど。あ、大量のネズミ入ってるの忘れてた。今から戻ってついでにやっといてとか言ったら、キレられるな。家でするか。


 ところでコクシン。なぜギルドではだんまりなのかね。


「リーダーが話すべきだと思う」


え、じゃあ、門で話してくれてたのは?


「レイトが寝てると思ってたから」


着地したとき俺がおとなしかったんで、寝ていると思ったんだそうだ。いや、流石に空の上では寝ないよ。ウトウトはしてたかもだけど。話し出してすぐ俺が飛び降りたんで、しまったと思ったとかなんとか。今度から狸寝入りしてやろうかな。



 女の子はまだ起きていないらしい。路地一杯を使ってたたずむキングパンサーの姿が変わらずあった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] マイディーちゃんはこのまま自重しないなら近いうちに死ぬだろうけど自業自得だし、なあなあにしてた周りがどう思おうと知ったこっちゃないよなぁ
[一言] これ以上手がかかる子の面倒みる事になるかもしれないのは流石に気の毒というかなんというか
[一言] まだ女の子が起きてない状態だけど周りの受け止めとレイトの意見から、この子がパーティーに…ちょっとないなぁと。今話の時点では。 でも男だらけのなかにもふ付き女子とか希少な潤い…… 読んでてラダ…
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