ピヨコンカ
夜中にさ、めっちゃいいと思ってポチったやつがさ、届いたときなんでこんなものポチったんだろうって、なるときあるじゃない? そんな感じな俺。
鏡がないから客観的に自分の姿を見れないのが残念だ。コクシンのイロモノ化を否定しといて、俺がなるってどうなのよ。こんなパペットみたいなの着けてる7歳児(小さめ)。ショートコントでもしろというのか。この世界にショタなんて言葉がないことを祈るよ。
でも性能はすごいんだよ! 弓が力強く引けるし、軽い攻撃なら受け流せる。なんなら、グーパンできる。全然痛くない。あったかいし、汚れにも強い。
普段はマントの中だし、いっかぁと納得しといた。
「ふ…ふふ…ふふふ」
ところで、コクシンが怖いんだが。
今日は剣の使い勝手を確かめるついでに、冒険者ギルドで討伐依頼を受けてきた。ヴォラーレの西側は切り立った山なのだが、その麓にいる。
討伐対象は『ピヨコンカ』。可愛らしい名前なのだが、実態は可愛くない。簡単に言えば、チョウチンアンコウタイプ。頭の上に疑似餌をつけた、デカいワームといえばいいんだろうか。普段は地中に潜っていて、疑似餌に食いついたところでぐわって大きな口を開けて出てくるのだ。
まぁ、そいつは置いといて。今コクシンが相手しているのは、デカいネズミの魔物だ。ピヨコンカを倒したら、その穴からこいつらがわんさか出てきた。それをコクシンが笑いながら、バッサバッサと切り捨てている。
「ふふふ。いいぞ。斬れる、斬れるぞ!」
少ない動作で剣を振り回している。流れるような動きで、時折俺の目からコクシンの姿が消えるようになった。どれだけ速く動いてんだ。ていうか、武器変えただけでここまで変わるのっ!? 付与スゲぇな。
ミント色のラインが、ほのかに光って見える。それが残像になったりして、きれいだ。これ暗いところでやったら、めっちゃ映えそう。
対して俺はというと、パペマ…例の装備で弓を引いている。見た目はあれだが、命中率が上がる優れもの。すっと撃ちたいところで手が止まるのが不思議。ブレないし。
そんな弓懸たちの鑑定結果がこちら。
『アニマル弓懸 カエル/ウサギ
とある貴族の子どもたちのために作られた弓懸。可愛らしい見た目と裏腹に高性能。カエルがトランちゃん。ウサギがメリちゃん。
付与:耐久力、防御力、命中率上昇・汚染防止』
なんと、名前が付いていた。こっそり呼んでみたけど特に何も起らなかったので、見なかったことにしようと思う。病んできたら、トランちゃんとメリちゃんと俺でお話してるかもしれないけど。
あぶれたやつを狙っていると、そのうちコクシンの動きが止まった。きゅいぎゅいと響いていた鳴き声もいつの間にか聞こえなくなった。辺りは死屍累々だ。
「ようやく出尽くしたかな。コクシン怪我は?」
コクシンが振り返る。返り血を浴びた顔で笑わないでください。キャラ変わってんぞ。妖刀とか言わないだろうな、それ。あ、妖剣?
「ん。大丈夫だ。レイトは?」
「俺も平気。というかほとんどコクシンが倒しちゃったからね。使い心地は…て、聞くまでもなさそうだけど」
「ああ。ずっと長い間使っていたかのように手に馴染む。魔力の通りがいいと言っていたが、すっと斬撃が出る。調節もしやすいし、とても軽い」
「おお、べた褒めだね」
よかったよかった。
今まで手入れはちゃんとするけど、愛着みたいなものは感じられなかったのに、今は愛おしそうに血に塗れた剣を見つめている。絵面が怖いぞ。
「レイトのは?」
逆に聞いてくるコクシン。いつものテンションに戻ったっぽい。
「命中率は実感あるよ。装飾も邪魔にならないし。見た目以外は問題ないね」
にぎにぎすると、ウサギがきゅっと鳴いた。
「そうか。見た目も問題ないと思うぞ」
一緒にいる率が高いコクシンがそれでいいならいいんだけどね。俺もそれなりに気に入ったし。
「それより、この惨状どうしようね」
「討伐部位はどこ?」
「えー、ネズミは魔石。他は破棄。ピヨコンカは疑似餌部分。魔石と内臓の一部」
メモを見ながら答える。倒せる数が増えてきたら、覚えるのが大変になってきた。まぁ魔法鞄に放り込めばいいんだが。
「内臓?」
「見たら分かるって言ってたけど。疑似餌を生成する器官があるんだって」
疑似餌は千切られたりしても、また生やすことができるんだそうだ。ちなみに疑似餌はバスケットボールサイズのヒヨコだ。
「とりあえず、ネズミは持って帰ってから処理しようか。数が多いし。ピヨコンカは大きいから、ここで捌こう」
「分かった」
正直触りたくない。だってデカいミミズみたいなんだもん。ヌメヌメしてないだけましだな。ネズミを収納してから、ピヨコンカの腹を割いて内臓を探す。魔石があった。アンバーに似てきれいなのがちょっと納得いかない。
「ん、これか」
疑似餌を切り取ったあと、口の辺りをゴソゴソしていたコクシンが、巾着袋みたいなのを引きずり出した。
「中の液体がなにかに使えるらしいよ。こぼれないように縛っておいてね」
「分かった」
コクシンが手早く巾着の口の部分を縛る。しかし、ヒヨコっぽい見た目の内臓って、どうなの。それだけが黄色い器官だから、たしかにすぐ分かる。っていうか、この液体からどうやって疑似餌が作られてんだろう。
「…何か色々入ってるな」
消化器官にいろんなものが詰まっているのが透けて見えた。基本丸呑みだからな、こいつ。大きい個体だと、馬車ごと飲み込んでしまうそうだ。
「…レイト。それ人入ってないか?」
「やっぱり、そう見えるよね」
ちょっと目を逸らしたかったんだけど、そうもいかないようだ。ふたりとも慌てていないのは、すでに白骨化しているからだ。防具らしきものをつけているから、冒険者だろうか。とりあえず。
しゅぱっ。
ピヨコンカごと収納しといた。収納できるってことは、生きていないってことだ。確認するまでもないけど、一応ね。周辺を探してみたが、遺留品らしきものはなかった。ピヨコンカは結構移動するらしいから、他の場所で食われてしまったのかもしれない。
「もう少し狩っときたいところだけど、今日はもう帰ろう」
「そうだな」
早く出してあげたいし、遺体を入れとくのもなんか嫌だし。
って、急いで帰ろうとしたときに限って、何かが走る音を拾った。四足歩行で足は速い。あっという間に近づいてきた。チラッとコクシンの方を見ると、彼も気づいていたのか柄に手をかけている。
カラカラ…。
小石が転がる乾いた音。
「そんな!」
思わず声に出た。岩の上に跳び乗るように登場したそれは、ここいらには生息しているはずのない、魔物だった。
 




