今度こそ買おう
「あー、うん。あの親父かぁ。腕はいいんだけどね」
冒険者ギルドの購買、職員さんが苦笑した。
「どうも素材を注ぎ込みたがる人でね、たびたび注文外のもの入れて値を上げてしまって、買い取り拒否されてるんだ。値段なりの出来ではあるんだけどね」
「なにか飲んだくれてましたけど」
「仕事になったら酒は抜くみたいだよ。ほんとにね、あの性分でなけりゃもっといいものたくさん作れるだろうに。息子さんもねぇ、やり繰りしてた反動か、妙に守銭奴で。それでも、金に糸目をつけない貴族と、金に糸目をつけない高ランク冒険者には人気があるんだよ?」
「うへぇ」
結局金かい。そりゃお金出せばいいもの買えるのは世の常識だよ。でも、だからってゴテゴテにされるのはな。武器だよりになるのも困るしな。
「さて、ご要望に合いそうなものはこの3本だね」
コクシンの前に3本の剣が並べられた。真剣な顔で説明を聞き始めるコクシンを、ちょっと離れて見守る。今回は上限を決めてから、好きなのを選んでもらうことにした。そこまでするのも…とは思うが、ほっとくと勧められるままに不必要なの買っちゃいそうだからね。
ラダは棚に並んだポーション類を眺めている。
ここはきれいに棚に置かれた状態で販売されていた。値札も付いていて親切だ。職員さんに頼めば、条件に合うのを揃えてくれるところは同じだけど。やっぱり地面に直置きはあそこだけだったんだろうか。
弓があった。まだ俺には大きいけど、白くて目を引くきれいな弓だった。きれいだけど、俺には上品すぎるかな。
「買うの?」
じっと弓を見ている俺に気づいたのか、ラダが寄ってきた。
「いや。今ほとんど弓使ってないし。買い替えるとしても、俺がもっと大きくなってからかな」
「大きく…」
そこで首傾げないで。
「ねぇ、ラダ。身長伸ばす薬ないかな?」
「ないよ。そんなの」
いつになくきっぱり言われた! いや、あるでしょ!? 頭髪自由にできるんだ。腕や足生えるじゃん。身長くらい…。
「大丈夫だよ。僕まだ伸びてるし」
ラダは伸びなくていいと思う。
「レイト。これにしようと思う」
コクシンの声に振り向く。刃に稲妻のようなミント色の模様が入った剣だった。
「え、なにそれ。めっちゃカッコイイんですけど」
「ですよね! 風の魔石で付与されてるんです。ここのラインがですね、ただのデザインじゃなくて強度と鋭さを上げる付与でして、魔力の通りもピカイチなんです!」
いきなり職員さんのテンションが上がった。武器好きなんですね。好みが合いそうで嬉しい。俺のも選んでほしいところだが、今ので不満はないからね。
「いいんじゃない。予算内なんでしょ。コクシンと相性良さそうだし」
コクシンがコクリと頷く。
「持った瞬間、これだと思ったんだ」
「ふふ。お客さん、気に入られたね」
職員さんが嬉しそうだ。
「妙に手に馴染むとか、手足のように振るえるようになったとか、スキルと相性がいい武器を手にするとそう感じるらしいよ」
「そうか。大事にさせてもらおう」
コクシンも嬉しそうだ。剣に気に入られたんだ。ますます活躍してくれることだろう。代金を払い、腰に下げると随分様になった。鞘は黒いシンプルなものなのに。
「えー、いいなぁ。俺も欲しい」
つい本音が出た。色々理由つけないと買っちゃいそうなくらい欲しい。あ、よく見ると鞘の先端にミント色のライン入ってる。このさり気なさがいいよね。
「レイトも買えばいいだろう?」
コクシンが当たり前のように言う。
「んーん。必要ではないから買わない。言ってみただけだよ」
「資金はまだあるんだろう? 不安なら私のを使っても」
「いや、お金の問題じゃなくてね。弓最近使ってないしさ」
いかんせん、土魔法でカバーできちゃってるんだよなぁ。どうしたら弓に活躍の場ができるんだろう。
コクシンが首を傾げた。
「別に弓とは言ってない。防具は? ナイフでもいいし」
「そ、それは」
魅力的なお言葉。いや、でもなぁ、それこそ別に傷んでないし、今ので事足りてるし。
「あ。こんなのありますよ?」
目をキランっとさせた職員さんが、奥からなにか引っ張り出してきた。
「とあるお貴族様が自分の子供のために作らせたものです。可愛らしい見た目ですが、防御力はバッチリですよ!」
「却下」
「似合いそうなのに…」
がっかりしないで。お兄さんが持ってるの、どう見てもワンピースだよね!? ひらひらリボンついてますけど? スカートに興味はないんで!
「じゃあ、こちらはどうでしょう?」
「ん、んぐっ」
次に見せてくれたのは、弓懸だった。弓を取り扱うときに、手を守るためにはめるものだ。前世で見たことあるのより、手袋感が強いけど。
「丁寧に鞣された魔鹿革です。肌触り、耐久力ともに折り紙付きですよ。何よりこのデザイン! 実は付与でして、防御力を高めてるんです」
めっちゃ欲しい。はい、と、渡された弓懸が「俺が守ってやるぜ!」と言ってる気がする。柔らかい肌触りで、何より俺の手に合うサイズ!
「で、でもなー」
なんで緑色なのかな。なんで目玉ついてんのかな。なんで目玉動くのかな。なんで…カエルなの?
手の中にディフォルメされた愛らしいカエルがいる。大きな目玉は中の黒目が動くようになっているという、無駄に高級仕様。しかもそれが動きを邪魔しない。弦を引くと、カエルが銜えているようにみえる。このデザインが防御力を高めていると?
俺の鎧にもカエルがいる。正確に言えば魔物のカエルの革が使われている。当然緑だ。
カエル推しなの? いや、嫌いじゃないけども。
「こちらもありますけど」
見せてくれたのは真っ白なフワモコのウサギちゃんだった。握ると「きゅっ」と鳴くいらない仕様。
「いいんじゃないか? 邪魔にならないなら、両方はめとくとか…」
「いやいやいや。コクシン何言ってんの? 俺アホみたいよ?」
「可愛いと思うが」
隣でラダがうんうん頷く。
「可愛さは求めてないんだよ。男らしさを追求したいんだよ」
3人で遠い目をするんじゃないよ。
「しかし、なんだってこんな装備があるんですか? 小さいサイズなんてそうそうないはずなんだけど」
聞くと、どうもとあるお貴族様が自分の双子の子供のために作らせたものらしい。自分が鷹狩とか好きで、それについてくる双子のためにあれこれ作りまくったらしい。実際弓とか持たせたわけじゃない。格好だけだ。なのにあれこれ付与に凝った末できたのが、これら。伝手があって、もう使わないこれらを手に入れることができたらしい。
ちなみに鷹狩の鷹は、全長3メートルだそうです。なに狩ってくるんだろう。
「は。ってことは、男の子用の装備もあるんじゃ!?」
「あ、双子の女の子です」
もう一着はこちら。と、見せてくれたのはさっきのワンピースの色違いだった。
「しょぼーん」
そっか。そうだよね。男女とは言ってないね。
「どうするんだ?」
コクシンがウサギをニギニギしている。きゅきゅきゅ。気に入ったの? 面白いだけ? 見た目ウサギの首絞めてるからやめなさいよ。
「うーん。せっかくだから買おうかな」
正直俺の手サイズなんて、オーダーメイドになる。未使用も同然だし、付与はありがたい。
「では。こちらお2つで」
「カエルの方だけで」
「…お安くしておきますよ?」
「か、カエルだけで…」
「今なら革用クリームもお付けしますよ?」
持て余してるんじゃねーか!
「お買い上げ、ありがとうございました」
右手にカエル、左手にウサギを装着した、俺爆誕!




