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美味しい方がいいじゃない

 なんですかね。肉ですか? それとも俺の行動が変なんですかね。見てないでなんとか言ってくれませんかね。

 無言の攻防。

 最初に切り出したのは、スクローさんだった。


「パンと1本交換してくれないかい?」


 それを皮切りに、俺も私もと皆が手を挙げる。何故に人気。みんなも温かいの食べたかったの?


「いや、普通に欲しい人には差し上げますけど」


「しかし、それではな…。君の成果だし」


 ちゃっかり手を上げていたリーダーが渋る。成果って、そんな大したもんでもないんだけど。


 じゅーっと肉が音を立て始めた。まんべんなく焼けるように、くるりと回していく。ウサギのくせに脂が乗ってる。胡椒があったらなぁ、異世界あるある的にこの世界も高いんだよ、胡椒。


 ゴクリと誰かが生唾を飲んだ。


「あの、こうやって旅先で肉を焼くのって、珍しいんですか?」


「いや、そんなことはないよ。俺たちは元々誰も料理しないから、外では干し肉だけど。簡単なスープぐらいなら作るやつもいる」


 リーダーの言葉に、乗客の冒険者がウンウンと頷く。


「獲った肉を焼くやつもいるけどさ、君のはなんていうか、違うんだよね」


「? 普通に焼いてるだけですけど」


 えー、どこに引っかかってんの?


「そう。まず肉の色が違うよね」


 スクローさんの言葉に「あー」となんとなく思い当たる。この世界、俺が知る限りは血抜きが甘いんだよな。昨日の宿屋で出た肉も、野性味溢れてたし。狩りに付いてきてくれたばぁちゃんも、その場で血抜きを始めた俺に「何やってんだい」って怒ってたっけ。


 あー、醤油が欲しい。米が欲しい。

 脂が滴り始めた串肉に、俺の腹が鳴る。コップに水を入れて、スタンバイオーケー。あ、お茶っ葉も欲しい。


「ま、まだか?」


 リーダー意外と食いしん坊ですね。見回りしてる他のメンバーが凄い目で見てますけど。


「もう少しですかねー」


 炭で焼いたら、もっと美味しいだろうな。炭あるのかな。町では見なかったな。


 ジリジリとみんなの輪が小さくなってきた。手にそれぞれ交換物を持って。タダでいいんだけどな。まぁもらえるもんはもらっとくけど。


「ふ、ふん! たかがウサギの肉に何大騒ぎしてるんだか。俺なんかゴールデンクロスコッコを食べたことがあるんだぞ! 金貨10枚はする高級肉だぞ!」


 ただし商人ズは輪に入っていない。2人離れたところで干し肉をかじっていた。クソガキが立ち上がって「すごーく美味かったんだぞ!」と胸を張っている。


「へーそりゃすごいですねー。そうですよねー、こんなお肉いりませんよねー。美味しい干し肉かじってますもんねー。気にせず食べててくださーい」


 なんだゴールデンクロスコッコって。ニワトリか? 割り込んでくるな。かまってちゃんか。

 俺の棒読みの言葉に、誰かがふすりと笑った。

 坊っちゃんがまたムググと歯ぎしりしている。いらんというやつにはやらんよ。


「もういいかな」


 いい感じに焦げ目が付き、余分な脂を落としたお肉様が、さぁお食べと呼んでいる。

 地面に挿していた串を抜き、ヨダレを垂らさんばかりのリーダーに差し出す。はっと我に返ったリーダーが、何故か回れ右して荷物の方にダッシュした。すぐに返ってくる。


「ほら。これと交換だ」


 差し出されたのは、何かの紙切れだった。わけも分からずとりあえず受け取る。あとが支えてるからね。即席の交換会が始まる。パンやお菓子、回復薬と交換もあった。いや、いいのか? もらうけどさ。

 こうして商人ズ以外の人達と串肉を分け合った。ははは。ぎりぎりしてる。やらんよ。


 では実食。

 かぶり付くとじゅわっと脂が出てくる。ウサギ肉って鶏肉っぽいと聞くけど、ここのは淡白ながらも脂が乗ってるなぁ。僅かな塩味が旨味を引き立てる。遠火で焼いたので、固くはない。

 つまり美味い!


「う、うおぉー!? これがウサギっ」


「美味しい! 香ばしくて癖がないのがいいわね」


「もぐもぐ。もうない…」


 みんなにも好評なようで良かった。串には大きめの一口大の肉が4つくらい刺さってるから、これとパンだけで結構腹がふくれる。あ、護衛のみんなにもちゃんと配ったよ。リーダーが闇討ちされたらかわいそうだし。


 1本残ったけど、これは朝食においておこう。冷ました肉を葉っぱでくるみ、鞄にないないしておく。貰い物で荷物が増えた。まぁ、街で斜めがけの鞄買ったから入るけど。


 そういえば、リーダーがくれた紙って何だったんだろう。


 ぺらりとした手のひらサイズの紙。何かの模様が描いてある。じっとそれを見ている俺に気づいたのか、リーダーが声を掛けてきた。


「見るのは初めてか?」


 コクリと頷くと、ニヤリと意味深な笑みを浮かべた。


「それは魔法陣だ」


「え、魔法陣!?」


 初耳だ。あるんだこの世界にも。陣というわりには、円っぽくはない。なんかミミズの這ったような文字が幾何学模様に描かれている。


「なんの魔法陣、っていうか、こういうの高いんじゃあ?」


 流石に高価なものは貰えないとビビる俺に、リーダーはひらひらと手を振った。


「それは売りもんじゃねー。知り合いが練習で描いたやつだよ。けど、効果はバッチリあるからな! いい香りが出る魔法陣だ」


 …え。それいつどう使うのが正解?


「ベッドに仕込んどくと女とヤ…」スパーーーン!


 言わせねぇよ!とばかりに、パーティー内の女の人がリーダーの頭を思いっきり叩いた。


「あんた子供に何渡してんのよっ!?」


 いやほんと、なにくれてんだよ。媚薬効果とかないだろうな。なんとなく指で摘んで、でも突っ返すのもあれなんで鞄の底の方にそっとないないしとこう…。





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― 新着の感想 ―
後々役に立つ物をゲット!✌
[良い点] 唐突な我が家w
[良い点] 読み出し始めたばかりですが面白いお話ですね
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