一狩りしてみた
野営地に到着した。街道の脇に広いスペースがあって、皆ここを使うようだ。焚き火の跡があったり、座るのにちょうどいい丸太が転がっていたりする。
御者のおっさんは俺たちを降ろすと、一も二もなく馬たちの世話を始めた。馬が財産だからね。時々あった休憩時も、甲斐甲斐しく世話をしてあげていた。俺もちょっとばかり手伝う。
馬用の桶にダバダバと水を出す。これは水魔法じゃなくて、生活魔法だ。この世界の魔法で出した水は、普通に飲むことができる。なので水を大量に持ち歩かなくてもいいのが便利だ。
「こんなに何度も大丈夫かい?」
御者のおっさん、名前をスクローさんという。スクローさんが心配そうに手元を覗いてくる。
「これぐらいなら平気」
実は普通の生活魔法の水は、コップ1杯ほどの水が出るだけだ。沢山いるときは、連続して使う。その度に魔力を消費するので、魔法使いでない限り数回で尽きるのだとか。
俺は一応魔法使いでもあるし、魔力操作の訓練は自我が芽生えた頃から色々やってたから、多分人より魔力が多いのだと思う。ラノベとかで見た、腹の中で魔力を回すとか、寝る前に使い切ってしまうとか…。数値で見れないのが残念だ。
休憩のたびに水をあげていた俺を覚えてくれたのか、馬たちが俺にスリスリしてくれる。ささくれだった心を癒やしてくれる、ええ子らや。
その間に乗客たちは、それぞれの場所で夕食の準備を始めていた。基本、食事は各自で用意する。スクローさんによれば、食事付きの馬車もあるにはあるらしいけど。
俺も空いた場所を探し、ふと改めて周りを見た。誰も火を熾していない。鞄から携帯食と水筒を取り出しているのみだ。焚き火はしないのか? でも跡はあるよな…。
「あの、火を熾していいですか?」
「は? 誰が面倒見るっていうんだ!?」
俺が聞いたのはスクローさんなのに、クソガキが答えた。面倒ってどういう意味だ?
苦笑しながら代わりに護衛の冒険者パーティーのリーダーらしき人が答えてくれた。
「冬の間はともかく、今の時期はいちいち熾さないよ。それでも火が欲しいなら、自分で用意して自分でちゃんと消火すること。面倒を見るってのはそういうことだよ」
なるほど。
「分かりました。ありがとうございます」
ペコリと頭を下げると、彼は人の良さそうな笑みを見せた。そればかりか、ポンポンと頭を撫ぜてくれた。いや、なにげにこの世界に来て初めてじゃないかなぁ。テレテレモジモジしたら声に出して笑われた。
その向こうでクソガキがじっと見ている。何だこのやろう。
と、ヤツに絡むのは精神衛生上良くないので、スクローさん達に断って周囲の林に入る。もちろん心配はされたし、クソガキには吠えられたが、俺は温かい肉が食いたいのである。ちゃんと乾パンや干し肉は買ってあるけどね。夜ぐらいはちゃんとしたもの食べたい。
まずは何往復かして、枯れ木を積み上げる。火が点きやすいように組むのは後だ。
そんでもって肉。枯れ木を集めながら気配を探る。『気配察知』なんて便利なスキルはないけど、歩く音とかである程度はわかる。今日はウサギだな。
見えたのは茶色のウサギだ。前世のウサギよりだいぶ大きい。角とかは生えてなくて、これは動物の分類に入る。止まって鼻をひくひくさせているウサギを見据えながら、矢を番えた。
シッ!
空気を割く音の直後に、ぎゅっ!とくぐもった声が響いた。慌てず次の矢を構える。が、ウサギはその場にパタリと倒れたまま動かなかった。ふうと息を吐いて、矢を仕舞う。ウサギのもとまで行くと、目の上辺りにヒットしていた。うむうむ。だいたい狙い通り。
その場で血抜きをし、ついでに内臓も抜いておく。穴を掘って、そこに埋めておけば大丈夫。何気に穴を掘るのに土魔法を使ってみた。落とし穴とかも作れそうだな。
「おっ! 大物だな」
周囲を警戒していた冒険者パーティーが俺を出迎えてくれた。心配してくれていたのか、それともほんとに獲ってくるとは思わなかったのか。
手早く枯れ木を組んでいく。枯れ葉を詰め込み、着火。パチパチと燃え上がり、白い煙が立ち上る。それを見ながら、ウサギを捌いていく。このへんは町でもやっていたから慣れている。いや、流石に山の中でだけど。
串も自前で作る。いい感じに火が回ってきたところで、ぶつ切りにした肉に塩を振って串にぶっ刺す。それを遠火になるように焚き火の周りに並べた。
いい感じだ。
ふと気づくと、視線が全部こっちに向いていた。怖っ。え、何? まだ焼けた匂いもしてないよ!