依頼受けない?
とことこと冒険者ギルドに歩いていく。相変わらずのてるてる坊主姿で、隣には同じようにフードを被ったコクシンが歩いている。ラダは、家で昨日採取した薬草で調剤を頑張っていることだろう。
食堂の表に、人だかりができていた。なんだろうと覗き込むと、見覚えのある木片を手にした男たちの姿があった。
「ジェンガか?」
コクシンも気づいたようだ。
男たちは表にテーブルを持ち出して、ジェンガで賭け事をしているようだった。仕事が速いな、木工屋。っていうか、あれ俺が教えたジェンガじゃない…。
1本1本、積んでいっている。もうただの積み木だ。逆にそれほど幅のないブロックをよく積めるなと感心する。倒したら負けというのは変わりないようだ。
「あっちにもある」
突かれてそっちを見ると、子供が集まっていた。こっちはちゃんと俺が教えた積み方で、抜く遊び方をしている。
まぁ楽しければいいさ。
ギルドに入ると、朝の争奪戦の時間はずらしているので閑散としていた。さて、今日は何をしようかな。掲示板に目を向ける。昨日と依頼内容はそんなに変わりがない。山の方の依頼にしようかな。
「おう、ちびっ子」
カウンターの方から、そんな声がかかった。振り向きたくはないが、俺のことだろう。狐の獣人が手招きしていた。とことこ向かう間に、他の職員さんが踏み台を準備していてくれる。ありがとうございます。
「なにかありましたか?」
コクシンとともに並ぶと、職員さんが「依頼を受けないか?」と聞いてきた。まだランクが低いから、指名依頼は来ないはずだ。そもそもそんなに名前が通っているとは思えないし。
首を傾げると、職員さんは笑った。
「近いうちにお前さんらも昇級するだろう。その予行演習だと思えばいい。これなんだがな」
ピラリと見せられた依頼書には、護衛依頼と書かれていた。
「Eランクは護衛依頼受けれないんですよね?」
「だから、予備というか補助だよ。護衛は別のチームが付く。Dランクで力量的には問題ないやつらなんだが、読み書きできるやつがほしいんだ。お前ら2人とも達者だろ」
「読み書きが必要な護衛依頼、ですか?」
たしかに冒険者の中には読み書きできない人も多い。じゃあどうやって依頼を受けるのかというと、依頼書をカウンターに持っていって、職員さんに読んでもらうのだ。多分、見たことのある字面となんとか覚えた数字だけを見て判断しているんだろう。
書面にはそんなことは書かれていない。
「いやぁ、依頼主が学者でな。行き先は遺跡群だ。できれば話が合いそうな人がいいと言われていてな」
「へぇ」
そんな隠れ要望みたいなのもあるんだな。
「でもそれ、その護衛依頼受けたチームと揉めません?」
「大丈夫。了承済みだ。本人たちもそのほうが護衛に集中できるってな」
「まぁそう言われればそうですけど」
ちらりとコクシンを見やる。いつものように「好きにすればいい」という感じだ。
「何日かかるんですか?」
「お、受けてくれるか!」
いや、受けるとはまだ言ってないけど。
職員さんはいそいそと詳しいところを教えてくれた。
行きでおよそ4日。立ち寄れる村は1つ。滞在期間はだいたい1週間を予定。調査内容によっては延長もあり。その分の追加料金は出る。俺たちにはちゃんと護衛分のポイントが付くし、昇級の際に評価が付く。
拘束時間が長いのだけがネックで、報酬ともにこっちにとってもいい話ではある。問題はラダだ。
「あの、魔物は多く出るんですか?」
職員さんは、首を傾げたあと頷いた。
「少なくはないな。その遺跡というのは昔から存在は認知していたが、それほど調査はされていなくてな。中は魔物が巣にしている可能性もある」
「なるほど…」
ラダは待機かな。子供じゃないんだし、1人でもなんとかなるだろう。なんならこの街の薬師と交流をもったっていいんだし。
渋っている俺に職員さんが、「なにかあるのか?」と聞いてきた。コクシンが答える。
「もう1人仲間がいるんだ。冒険者ではないから、どうしようかと思っている」
「あぁ。聞いたことがあるな。薬師だっけ」
うぬぬと腕を組んでしばし考え、ぽんと手を打った。
「あいつらが納得すれば、問題ないだろ。腕はいいんだろ? 安くポーションが使えるとでも言っとけば、1人警護対象が増えても構わんだろう」
えぇ、そんな気軽に言っていいの? っていうか、ラダのほうが嫌がるかもしれないんですけど?
結局、職員さんが双方に話してみるということで、一旦解散となった。しょうがない。ラダに聞いてみよう。
「え。行く!」
躊躇なく答えた。
「危ないかもしれないんだよ?」
「分かってるよ。でも僕だって、レイト直伝の撃退薬とかあるし! き、気絶したりしないように頑張るもん。っていうか、気付け薬作ったし。他の薬師のとこ行くとかやだ!」
目に涙までためて拒否る。いや、無理に交流しろとは言わないよ。家にいたいならそれでもいいのよ? 1ヶ月くらい引きこもってても、問題ないくらいには用意しとくし。
「行くもん」
幼児化するんじゃないよ。
まぁ、行くなら行くでいい。その代わり弱音は聞かないからね。
ギルドに戻り、こっちはオーケーだと告げる。購買でラダの防具を買い求めた。重いのは無理なので、フード付きの軽めのマント、丈夫な靴を買う。鞄は持っているのでいいだろう。武器は…採取兼解体用のナイフでいいか。他に欲しいものはと聞くと、「野菜の種」と答えた。
「え、野菜の? なんで…あ、栽培のスキルか」
「うん。すごく魔力食うんだけど、食べられるぐらいにまで成長させることができるんだ。もし何かあったときに、使えるかと思って」
すごいな。すごいけど、なんで今まで言わなかったんだ?
「…野菜は、好きじゃない…」
ふいっとラダが視線をそらす。外見中身ともに草食動物よりなのに!
流石に種はギルドでは売ってなかったので、ガバルさんのところに買いに行った。売ってるところが分からなかったから行ったんだけど、売ってた。普通に。
にんじん、じゃがいも、葉物、トマト。あとこの世界特有の魔物植物、ルルイヤ。ネギっぽい見た目で、成長し切ると走って逃げる。その前に付けるいわゆる葱坊主の部分が栄養豊富なのらしい。
あと、小麦粉とか干し肉とか、日持ちしそうなものを買い込んでおく。
唐辛子と、生姜、ニンニクもあったので買っておく。




