料理教室
今日は借り屋で料理教室だ。ガバルさんが『調理』のスキル持ちを連れてきた。なんのことはない。奥さんである。そして奥さんの友達ーず。
コクシンが奥さんたちを見た瞬間、そっと気配を消して出て行ってしまった。拗らせまくっておる。まぁ、もとより今日は自由ってことにしてある。ラダは唐揚げ目当てに、俺の助手として頑張る予定。
「えーと、とりあえず現物見せますね」
百聞は一見に如かずというからね。
「こちらは昨日作った一夜干しというものです。その名のとおり、一日干しただけのものです」
ちなみに教えるのが子供だということは通達済みであり、子供に教わるなんて!という人はこの場にいない。
「あら、開いてるの?」
「そうです。そのほうが早く乾くし、味も染みます」
「味?」
「あ、塩水に漬けてあるので。でも、塩漬けの魚ほどしょっぱくはないですよ。まぁ食べてみましょう」
今回のために炭を買ってきた。焼き網は売っていた。ただし七輪がなかったので、俺の自作。焼き網に合わせたので、ちょっとサイズが大きめだ。
「これは?」
と、早速ガバルさんが食いつく。説明が面倒なので、故郷から持ってきたということにしている。
すでに火は熾していたので、網の上に並べるだけだ。
「焼いて食べるのね。炭がいいの?」
奥さんたちも興味津々で覗き込んでくる。
「炭のがじっくり焼けるので。フライパンとかでも焼けますけど、弱めの火がいいですね」
かまどは火の調節が難しい。魔導コンロも細かい調節が利かない。まぁこの辺は火から離すとか、上手いことやってほしい。
ジュワジュワと脂が出てくる。海の魚じゃないけど、十分脂は乗っている。それに伴い、なんとも言えないいい香りが漂う。帰宅時に何処かの換気扇から流れてくる焼き魚の香り、腹が減るわ。
裏返し、丁寧に焼き上げる。
「もういいかな。では、食べてみてください」
皿に取り分け、軽く箸でほぐして食べやすくして、はいどうぞ。我先にとフォークが刺さった。うーん、開きをフォークで食べるのは難しいかな。
「まぁまぁ、ホクホクしてるわね。程よい塩加減で、何も付けずにこれだけで食べられるわ」
「そうね。何に合うかしら。ガイモ?」
「いいわね。パンよりも粥のほうね」
ガイモというのは、いわゆるじゃがいもだ。奥さんたちがあーでもないこーでもないと、魚をつまみながら話している。俺はせっせと骨から身を離していた。
「うーん、その箸というのがないと食べにくそうですね」
ガバルさんが腕を組む。
「そうですね。骨の少ない魚を選ぶか、骨を抜いてから干すか」
「なるほど」
ということで、味に納得いってくれたようなので、実践。持ってきてくれた魚を捌いてもらう。腹開き、背開き、どっちでもいい。それを塩水に漬ける。
「時間は、魚ごとに試してみてください。俺もここに来たばかりで、どういう魚が合うのか把握してませんし」
「これは駄目だったっていうのはある?」
「そうですね、ピリカっていうのは駄目でした。身がグズグズになってしまって」
「ああ、あれね。団子にしちゃうのよね、あれ」
「なるほどー」
なんて井戸端会議をしつつ、漬けている間に唐揚げ行きます。持ってきてくれた鶏もも肉を一口大に。塩胡椒、臭み消しの葉っぱ。
「胡椒か~」
「でもあるとないとじゃ、大違いなんですよねー」
ものは試しと、一部を胡椒なしにする。醤油とかあれば胡椒なしでもいいんだけどな。生姜とか、ニンニクとか。探すの忘れてたな、そういえば。いや、あったっけ? 記憶が曖昧だわー。
「まぁこの辺も好みの味付け探してください。調理法さえ分かれば、アレンジはいくらでも出来ますよ」
しばらく漬けておく。その間に魚の処理。洗って水気を切って、風通しのいい日陰に干してもらう。虫が寄らないように、編みカゴとか作るといいだろう。海辺とかだと、そのまんま干されてたりするけど。
「一日でいいのね?」
「そうですね。正直言えば数時間でいいんですけど、そのへんも適当に…。今干してるのも、多分今晩食べれます。塩分濃度とともに、そのあたりは調節してください」
大まかに教え、あとは丸投げ。だって俺自身適当だもの。こんなもんじゃね?でいつも作ってる。だから細かい計量が必要なお菓子作りはやったことがない。
では、唐揚げ揚げます。大人しかったラダが俄然元気になった。肉を漬け込んでいるボウルを持って、油の横でスタンバっている。危ないよ、そこ。
最初の一個を割ってみる。うんうん、大丈夫。半分こして、俺とラダの口に放り込む。
「おいしー……?」
ラダがにこぉっとしたあと、ちょっと首を傾げた。一昨日と味がちょっと違うな。
次々揚がっていくのを、ガバルさんや奥さんたちも口に入れていく。ホフホフしながら、顔をほころばせている。が、さすがにガバルさんも気づいたらしい。
「味が違いますね。それに少し固めだ」
「ですね。俺が使ったのは山鳥だったんで、元々の鳥の味が違うんでしょう」
「なるほど」
今回のは鶏だが、大体卵を産まなくなったやつなので、肉は少々固めだ。魔物の鳥タイプでもできるだろう。どっちが安いとか手に入りやすいかは知らないけど。
「これはエールに合うわね! 胡椒はやっぱり必要ね」
奥さん、いける口か。美味しいよね、唐揚げとビール。エールが冷えてたら飲むんだけどな、俺も。
そんなこんなで料理教室は終了。
せっかくなんで、調理スキルってのはどういうものか聞いてみた。毒の有無が分かる(食材のみ)、包丁さばきなど手際が良くなる、覚えたレシピは計量要らずで作れる。個人個人でできるできないはあるそうだが。あと、魔力で混ぜるとか、魔力で煮込み時間を短くするとかできる人もいるらしい。
ちょっと羨ましい。めっちゃ欲しい、調理系のスキル。まぁせっせと作ってるし、そのうち得られるんじゃないかな。珍しいスキルではないみたいだし。
ジェンガを受け取りに行った。ぴっちり入る箱付きだった。木目のキレイな木で作られていて、大満足。アイデア料もそこそこもらえた。売れるといいね。
泡だて器もゲット。ブツブツ言いながらも想像以上のものを作ってくれた。小さな俺の手でも、無理なく動かせる重さ。大人用サイズも作ってくれた。
お代のかわりになにか作ってみてくれというので、メレンゲを作ってみた。シャカシャカかき混ぜるのを見ながら、ふむふむ頷いている。
「魔導具にしたら、自動で混ぜられるんじゃないか?」
ハンドミキサーか。それも考えたんだが、この街に魔導具士がいなかった。いつか知り合えたら、作ってもらいたい。でも値が張りそうなんだよなぁ。
小麦粉と、卵黄、バターなんかもさっくり混ぜて、フライパンでふんわり焼き上げる。火加減難しい。あ、蓋貸して…いや、買います。どうでしょう?
「おぉ!」
あとはミツの実を割って、とろ~り。フワフワ美味い。
ヒゲモジャさんは甘党だったらしく、顔をフニャフニャにして食べていた。気を良くしたおっちゃんにトングと油切りも作ってもらった。
ちなみにここにコクシンとラダはいない。残念。
 




