作って欲しい2
ガチムチの店主が向かいに座り、オヤジはそれぞれにお茶を出したあとお盆を抱えて脇に控えている。親父ばっかりか。がちゃっと、ドアが開いてもう1人親父が増えた。
例の息子がいるのがワンドさん。店主がロドルゴさん。あとから入ってきたのが職人のミゲルさん。
「忙しいところすいません。えっと、作って欲しいのは、こういう木片なんですけど」
家で作ってきた土魔法で作った長方形のブロックを取り出す。
自前で作ろうとしたのだが、どうしても同じサイズにできず、ザラザラになる。レイトチックで作ろうとすると、魔力の消費が半端ない。
「ふん? これぐらいなら、すぐに切り出せるが」
「これを、できるだけ同サイズ、同重量で54個。引っ掛かりがないように、研磨してください」
職人のミゲルさんが首を傾げる。
「ツルツルに磨くのか?」
「あ、いえ、そこまでは。えーとですね」
失敗作をジャラっと出す。
「これじゃだめなのか?」
ロドルゴさんが1本を摘み上げる。
「大きさを揃えられなくて。土だと重いし」
3本ずつ、向きを変えて積む。途中で挫折したので、3段分しかない。
「こんな感じで、出来上がりは54本積み上げます。それで、こうやって、指で1本を抜きます」
1番下のを指でちょいちょいやって抜く。ほんとは一番下から抜くとか、あれなんだけど。
「で、抜いたのを上に。これを2人から多人数でやっていくんですけど」
みんなの頭の上にはてなが浮いている。
「ツルツルにすると、こう組み上げることも難しくなるので、程々にお願いします。まぁ、やってみないとわかんないですよね。できるかできないかだけでも、お聞きしたいんですけど」
ロドルゴさんとミゲルさんが顔を見合わせる。そして頷いた。
「まぁやってみよう。工程は難しくない。いや、同サイズを大量にと言うのは、若いのの練習にもなる。値もさほどかからんだろう」
「ありがとうございます」
あとはミゲルさんと、俺の見本を見ながら細かい打ち合わせ。サイズは正直目分量で作ったから、作りやすいサイズでお願いする。木の種類もおまかせ。よく知らない。まぁ端材でいいんじゃないかな。
「ふむ。時間はあるかい?」
ミゲルさんが聞いてくるのに、頷く。
「とりあえず作ってみる。ちょっと待っていてくれ」
すぐに作ってくれるらしい。寸法表を手にミゲルさんは奥へと行ってしまった。特に木を切る音や、削る音は聞こえない。どうやっているのか見たいものだが。
「あん? だめだ。これはうちの技術だからな」
だめだった。なにか書類仕事をしているロドルゴさんにばっさり断られた。
待つこと半時。
「こりゃあ、なかなか骨が折れるな」
ミゲルさんが戻ってきた。箱にジャラジャラと木片を入れてきていた。収納も考えないとだめか。
「難しいのか?」
ロドルゴさんが首を傾げる。
「なにせサイズが小さいからな。ちょっとでも削りすぎると、やり直しになる。魔力の微調整が肝だな」
木工スキルも魔力使うのか。
箱から1本ずつ取り出し、組み上げていく。さすが本職。歪みがないし、スベスベしている。積み上げていっても傾いてない。1本飛び出してるとかもない。
「どうだ?」
「今のところいい感じですね。じゃあ遊んでみましょうか」
うたた寝をしていたコクシンを起こし、ロドルゴさんとミゲルさん、4人で回す。
簡単なルール説明をして、スタート!
「ぬ」
かしゃーん!
一周回らないうちに、ロドルゴさんが崩してしまった。指が太いからね。しかも力が強くて加減が下手みたいだ。
組み直し、もう一回。大きな大人が、小指とかでちょっちょっとやってるのが面白い。だんだんバランスが怪しくなってきた。俺の番だ。
「…えい」
ツンとするとゆらっと揺れる。ちょっと誰だよ、こんなずらしたの。できるだけゆっくり、引き抜く。
「おいおい、嘘だろー」
いつの間にかみんな声を潜めている。そーっとそーっと、上に乗せる。
「乗せやがった!」
「はい次、親方ね」
「無理無理無理」
ロドルゴさんがそっと首を振る。でも崩すまでがゲームだからね。意を決したロドルゴさんが指を伸ばすが、触れたとたん下から崩れ落ちた。
「むぅ」
「はは。親方の負けですね。まぁ、こんな感じの遊びです」
かしゃかしゃと揃えていく。いい出来だ。重さも申し分ない。
「じゃあ、これ買い取りってことで、いくらになりますか?」
「まぁ待て」
ミゲルさんが待てをかける。ロドルゴさんを部屋の隅に連れていき、ゴニョゴニョしている。コクシンを見やると、「商品化したいって事じゃないか」と肩をすくめた。何気にコクシンは器用に積んでいた。
「よし。商談といこうじゃないか」
言葉通りになった。俺が遊びたかっただけなのに。よくわかんないのでお任せしといた。猫車のときもそうだったけど、特許とかないからね。俺はもらえるならもらっとくよスタンス。
ミゲルさんが「それは試作だ。ちゃんと仕上げるから売ることはできん!」とか言って、1号を回収していってしまった。ラダとも遊びたかった。明日商品化したのをくれるらしい。
帰り道、コクシンは顔を隠せるフード付きのマントを買ってゴキゲンだ。一時しのぎではあるだろうが、本人がそれで気が楽になるなら構わない。
耳付きだけど。
獣人用のフードに三角耳付きのマントだ。俺が可愛いと思って見ていたら、俺が気に入ったのならそれにしようと、コクシンてば迷いもなくお買い上げした。
見上げると、ぴょこりと耳を生やした(ように見える)コクシンと目が合う。かわいいな、コンチクショー。
俺にも勧められた。お断りしたとも。これ以上属性はいらない。というかばぁちゃんにもらったものだし、これが小さくなるまでは買い替えないよ。さてさて何時になることやら。
「ガバルさんに見つからないようにしないとな」
遠い目をしていると、コクシンが呟いた。なに、あの人ケモスキーなの?
「ジェンガっていったっけ? あれ、絶対『是非うちに!』とか言いそうだ」
「あー。そっちね」
言うね。まぁその辺は木工屋と交渉してほしいな。
一夜干しはどうなったかな。今日は貝で何を作ろうか。パスタか。卵まだあるし、そうしよう。
 




