とりとめもなく思考する
今日は冒険者はおやすみ。コクシンとラダとも別行動中だ。俺は1人ぼーっと街中の広場で人の波を見ていた。花壇の隅に腰掛け、行き交う人々に思いを馳せる。
獣人、馬車、ドワーフ、よくわからない生き物…。
今だにこういう光景にワクワクする。まだまだいくらでも、“初めて見るもの”があるのだ。
目の前を、小さな子が自分の3倍はあるだろう荷物を担いでとっとこ走り抜けた。ドワーフ…いや、ハーフリングかな。背は低いけど大人という場合もある。何なら俺も時々間違えられる。
基本この世界の人たちは丈夫で力持ちだ。そんでもって早熟。立つのも喋るのも早い。結婚も早くて、15くらいで普通に子供がいる。
そりゃ7才で一人旅していても咎められないはずだよ。
魔物がいるからだろうか。今のところ街にいて危険を感じたことはないけど、スタンピードで村や街が蹂躙されることもあるのだそうだ。悠長に赤ちゃんやってられないってことだろうか。
まぁ、平均寿命は短そうだな。と思っていたら、ポーション類のおかげで、そうでもなさそう。総人口がなかなか増えないって方なのかもしれない。
ポーションといえば、あれらの瓶って錬金術師が作っているのだそうだ。いたんだ、錬金術師。しかも魔力から作られているらしい。ガラス窓ほとんど普及してないのに、精巧なガラス瓶があって不思議だったんだよね。正確に言えば、ガラスではないのだろうけど。
いつか作っているところを見てみたいものだ。
スキルってのは優秀なのかそうでないのか、よくわからんな。いや、使い方が普及してないから、そう思うのだろうか。誰がなんのために付けてくれるのか知らないが、わりと大雑把だ。
例えば魔力操作。ラダも同じようなのを持っている。魔力制御。これがどう違うのか、よく分からない。分からないが1つ、思い当たることがある。本人の意識だ。俺はコクシンに魔力操作として、教えた。で、コクシンは魔力操作で覚えた。ラダは師匠に同じように魔力制御と習ったらしい。つまり、本人の意識でスキル名が決定される…。もし俺が、鑑定じゃなく神眼!とか口にしていたらスキル名が神眼になったかもしれない。
まぁ、だから何だという話だが。
自分が分かりやすければいいじゃんということだね。
スキルといえば、今コクシンは剣術スキルを習いに行っている。
昨日の夜、偶には外で食べようと冒険者が多くいる食堂で、ご飯を食べた。味はそれなりだったが、そこで有意義な話が聞けた。
剣術スキルには飛ぶ斬撃とか炎を纏うとか普通にある。ということだ。
これにはコクシンも目を零さんばかりに驚いていた。
どうも、冒険者たちは当たり前に使っていたものを、衛兵たちは取り入れていなかったようだ。コクシンは衛兵としてしか剣術習ってないからね。対人戦に向かないから取り入れなかったのか、同じことやってられるかと取り入れなかったのか、やろうとしてできなかったのか…。
なにはともあれ、コクシンは目をキラキラさせて食いついた。優しい人たちだったので、訓練ついでに教えてくれることになった。今頃、ひゅんひゅん剣を振りまくっていることだろう。
ちなみに俺は辞退した。剣術スキル持ってないし、俺の変な入れ知恵でおかしなことになっても困るし。
この辺がスキルのもどかしいところだ。見たことないものは再現できない、想像できないものは当たり前だが使えない。そして他人のスキルを見る機会はあまりない。学校も道場とかもないからね。貴族でさえ、そのへんは各家でお願いしますということになっているようだ。
いい師匠に出会えることが大事だ。が、大体は秘匿する傾向にあるので、発展しない。
とはいえ、見せれば出来るというものでもないからなぁ。
ポンポンと腰に付けた魔法鞄を叩く。今日は俺が持っている。というより、いちいち俺があれ出してこれ出してというのに答えるのが面倒になったらしい。俺が常備することになった。
まぁ、程よく噂も広まったし、大丈夫だろう。奪うとモゲるという方も、付随してるみたいだから。
そして今は魔法鞄を教育中である。何を言っているかわからないだろう。俺もわからない。どうにも時間停止を覚えられる気配がなくて、魔法鞄自体を褒めて伸ばすことにしてみたのだ。うむ。訳分からんな。
ポンポン。お前は優秀な魔法鞄だ。自力で時間停止ぐらい付けられるはずだ。いけるいける。かっこいい! 最高! 俺の魔法鞄世界一ぃ! ガンバレ、覚えるんだ時間停止という名の至高のスキルをぉ!
とかやってる。心の中で。真面目な顔で。
アホだな。
それはともかく、優しい冒険者たちに、ついでに肉の保存方法を聞いてみた。
そもそもが魔法鞄すら持っていないので、近場の魔物肉の調達依頼しか受けない。荷馬車で行って積んで帰ってくるのだが、どうも血抜きしてない状態だと、2、3日保つようなのだ。うむむむ。これは困った。
食堂のおじさんも、処理された肉は日持ちしないから、だいたい未処理のものが売られてる、と言ってた。
魔力込みの血が影響してるのかな。そういえば、魔石もギルドに着いてから取るとか言ってたな。もちろん、肉が必要ないときは、その場で魔石を取る。
やはり、時間停止は必須。
ちなみに時間停止機能付きの魔法鞄を持っている冒険者はギルドにモテモテだそうである。
ぱりんっ
乾いた音。音がした方を見ると、キラキラと瓶が消えていくところだった。これぞ七不思議ファンタジー。
ポーション瓶は叩きつけると消えるのだ。なので戦闘中に負傷者にぶつけて治すという荒業ができる。もちろん、普通に蓋を開けて飲んでもいい。
瓶が錬金術師作だと知って、なるほどなら消えてもおかしくはないと納得した。まぁ不思議ではあるけどね。
ギャウ。
のたのたと歩くトカゲタイプの騎獣が、意外に可愛らしい声で鳴いた。そういえばチョ○ボっぽいのもいるんだろうか。いやいや、だめだな。馬たちがいるじゃないか。
そろそろ帰るか。ほっとくとラダはいつまでも調剤してるしな。最近は俺のなんちゃってスパイスに興味を示している。計算はなかなか身に付かないが、好きな事はグイグイ吸収できるタイプのようだ。
よっこらと立ち上がり、人波を抜けていく。今日の晩ご飯は何にしようかな。




