結果オーライってことで
「に、ニルバ様! 大丈夫ですかっ!?」
「うん。すっごい苦いけど。……ん?……ぉ?」
大丈夫大丈夫と頷いていたニルバ様の首が傾き、そのままふわぁっと横に倒れた。慌ててイケメンさんが支える。くわっと恐ろしい顔をこちらに向け、
「貴様! 何を飲ませたっ!?」
「大丈夫ですから、はい、早く馬車に運んで! 早く馬車出して!」
「はっ? 貴様なにを…」
怒りの矛先をそらされ、目を白黒させながら腕の中のニルバ様と俺を見やる。
「数時間で目を覚ましますよ。ただの眠り薬です」
「眠り薬って、おまえ…」
呆れたようにため息をつかれた。いや、そりゃ怒るよねー。でも説明面倒だったんだもん。素直に飲んでくれなそうだしー。
一応ニルバ様の状態を確認し、ただ寝ているだけと判断した2人は、さっさと撤収準備を始めた。おまえもだと、俺も馬車に詰め込まれる。御者は顎髭さんで、イケメンさんと俺が並んで座り、ニルバ様が向かいの座席で横になっていた。なんかにへらっと笑って寝ている…。
「おい。本当に大丈夫なんだろうな?」
イケメンさん、ようやく名前を知れた。グリングさんだって。顎髭さんはグライト。まさかのぐりぐらだった。
「変なものは入れてないんだけどなぁ。気持ちよく寝てるだけだと思うよ」
それにしても、これはたしかに乗り心地が悪いわ。道が悪いせいもあるけど、ケツに大ダメージだ。踏ん張ってないと飛ばされそうだよ。貴族様の馬車はもっとサスが効いてるんだろうか。サスペンションとか、言葉でしか知らないし、馬車魔改造は無理だなぁ。
「レイトといったか」
「え、あハイ」
考え事していたら、隣のグリングさんに睨まれてた。
「今回は我々にも色々思うところがあったから不問にするが、おまえ、これ下手をすると打ち首もんだぞ?」
「ふぇっ?」
変な声出た。いやいや、人助けだよ。毒じゃないよ。
「騙して飲ます意味が分かんねぇ」
「素直に眠り薬ですって言ったら飲んでくれないでしょう?」
ばぁちゃんに聞いたことがある。この世界はポーションで片が付くので、細かい病状に効く薬はあまり知られていない。でも薬師的にはちゃんとあるのだそうだ。売れないから作らないだけで。
そんなわけで眠り薬ですとか、頭痛薬ですとかいっても、信じてもらえないのだ。まぁ馬車酔いに効くとか結局曖昧なこと言っちゃったけど。
「それにしたって、やりようがあるだろうが」
「結果オーライってことで許して」
後で目を覚ましたニルバ様に謝ることを約束させられた。うん。反省だ。
ついでに回復薬でも知らせずに飲ませたりするのは、アウトかどうか聞いてみた。できれば意思確認したほうがいいらしい。野盗に毒薬投げるのは、正当防衛ならいいんじゃないかとのこと。
「恐ろしいこと考えるな、おまえ」
グリングさんに白い目で見られた。なんでだ。魔物にも毒を吐くやつがいる。人間が使って何が悪い。ていうか、魔法にだって毒付与とかあるんじゃないのか?
「魔法にか?」
うーん? とグリングさんは考え込んでしまった。まじか。ないのか? せっかく魔法がある世界なのに?
グリングさんがいうには、魔法もスキルも自己流が主らしい。俺もそうだったけど、授かった瞬間なんとなく使い方がわかった。ばぁちゃんもなんとなくレシピが頭に浮かぶと言っていた。そんで言いふらしたりもしないものらしい。なので他人が何をどう使っているのか、知らないのだとか。もったいないというか、いや、個人情報だからこれが当たり前なのか? 何が使えるのか分かるってことは、弱点も分かるってことだしな。
とりあえず、人間以外には使って良さそうだ。野盗に人権はありません。奴隷行きだし。
そう、この世界奴隷という身分があるんだよな。俺も気をつけよう。さっきちょっとヤバかったし。忘れてた。反省反省。
そんなこんなでゴトゴト揺られ、俺のケツが死にそうになってきたところでようやく街に着いた。
辺境の街、リドフィン。人口3千人ほどの街で、特産物は特に無し。大都市を繋ぐハブ都市として機能している。石造りの大きな外壁と、門が出迎えてくれた。
入るには入街税がいる。が、優しいぐりぐらコンビが払ってくれたよ。やったね! 実はばぁちゃんに少しだけお金もらったんだけど、できるだけ温存しときたいし。
このまま解散! とはならずに、ニルバ様が起きるまで待機。その間に宿の場所と相場を聞いておいた。ほどなくニルバ様の目が覚めた。
「ふぁ~~。よく寝たぁ」
何事もなく、というかとても気持ちよさそうに目覚めてくれた。
「ん? あれ、リドフィン? いつの間に?」
頭上にハテナを並べるニルバ様に、とりあえずごめんなさいする。キョトンとした顔をしたあと、カラカラと笑ってくれた。良かった。打首は免れそうだ。
「ニルバ様、笑い事じゃないです。気軽に口にしないでくださいよ」
グライトさんが苦言を呈す。
「悪かった。いや、今回ばかりは君たちに申し訳ないと思ってたんだよ。ここまで自分がポンコツだとは思わなくて。酔うっていうのは、辛いもんなんだねぇ。あれで良くなるならと飲んだわけだよ」
ニルバ様は頬をポリポリ掻きながら苦笑い。自分でもどうにかならんものかと思っていたところに、俺が現れたのだとか。
「終わり良ければ全て良しってことで」
お前が言うなってツッコまれた…。