仲間にしたそうに見ている。
ぽかんとした俺とラダ。そして、「え、なんでそんなにびっくりしてるの?」みたいなコクシン。
「いやいや、コクシン。なんで俺が面倒見ないといけないのよ」
「? 性格叩き直すって言っただろう」
言ってな…言ったな。いや、言ったけども! 言葉の綾っていうか、ここでちょっと言い含めて、あと頑張れとかするつもりで…。
「レイトは年上だろうがはっきり言うし、薬に関しても詳しいだろ。その辺もついでにアドバイスしてやればいいじゃないか」
「え、薬? 薬師なんですか!?」
あ、ラダが我に返った。こっちに詰め寄ってくる。
「違うよ」
「おばあさまに習ったらしいよ。簡単な薬なら作れる。私も毎晩回復薬飲まされてるよ」
いやいや飲んでるみたいに言うな。あなたの健康を願ってのことなのよ。飲まないと飯作らんとか言った記憶あるけども。慣れたら飲めるって。
「え、『調剤』あるのに冒険者なんですか?」
「スキルはないよ」
「…?」
「あれ。その辺は教わってないのか。簡単なものはレシピさえ知ってれば、スキルがなくても作れる。もちろん本職が作るものよりかは劣るけど」
鞄から俺が昨日作った初級回復薬を取り出し、ラダが作ったものの隣に並べる。
俺のは青汁。ラダのはほうれん草の茹で汁。
つまりは透明度が違う。
「ちなみにこれが市販品」
間にもう1つ出す。絵の具を溶いたような不透明な緑。見事にグラデーションになった。
「ふぉぉ」
興奮したようにテーブルにかじりつくラダ。
「なんで初めて見たようなリアクションなんだ?」
コクシンが首を傾げる。
「師匠の腕が良すぎたのかなぁ。たぶん、ラダに輪をかけた薬馬鹿だったんじゃないかな。それか、最高のもの以外は認めん! みたいなタイプだったか」
ラダにしてみれば、俺のや市販品は失敗作なんじゃないんだろうか。
「ラダさんって、販売してる薬って見たことないの?」
「う、えー…」
ないのか。どういう生活してきたんだ。ギルド行ってるなら見ろよ。他の人が作ったものに興味がないのか、作ることにしか興味がないのか。
「商人になりたいとか言いながら、そのへんの知識ないのなんでなの?」
気まずそうに視線がウロウロするラダ。そういえばこのヘタレいくつなんだ。コクシンは同年代扱いしてるな。20前後か。それにしては箱入りな…。
「待って。ラダさんって家名とかあったりする?」
「ふぇぇ」
あ、なにか面倒くさそうなの引いた。なにかさぁ、タメ口まずいいやこんなヘタレに? みたいな、葛藤があったんだよね。本人気にしてないみたいなんで、もうタメ口でいいや。
「それで苦労してないように見えるのか」
これ俺じゃないですよ。コクシンです。
「い、今はないです。というか、ちょっと大きめの商会の、三男でした」
ラダはとある商会の第二夫人の子供だった。ちなみに養えるのであれば、一夫多妻も一妻多夫もオーケーである。ラダがスキルを授かり薬店に弟子入りして家を離れたあとの話。なんと夫人はライバル店の息子といやんな仲になってしまった。しかもお金や情報を持ち出して貢いだ。バレて刃傷沙汰にまで発展。夫人はとっ捕まり、息子のラダは家名を捨てることになった。子に責任はないが、その頃から商売には向かない質だったラダを、薬師に仕向けるためでもあった。
というのを、師匠が去る際に聞いたのだとか。
なるほど。商人になりたいというのは、家業がそうだったからか。
「いやだからって、ポンコツすぎるだろう」
「ポンコツって言ったぁ」
「自分でヘッポコって言ってただろうに」
「…そういえば言った」
えへへっと眉尻を下げて笑うラダ。
「ラダいくつなの?」
「歳? 15です」
コクシンと俺の反応は微妙だった。実は一番年上だとか言われなくてよかった。15のわりにフケて…げふん。いや15でその言動? みたいな。
「…まぁ、それはそれとして」
「え、聞いといて何もなし?」
「連れて行くって本気? コクシン。俺ら馬よ?」
ラダが俺とコクシンの顔を交互に見る。身長差により軌道が斜めなわけだが。
「この店売ったお金で買えるだろう?」
「え、売るのぉ?」
素っ頓狂な声を上げたラダに、コクシンは肩をすくめてみせた。
「さっきの話聞いてたのか? 自分で立て直せるなら、もちろん無理強いしないよ。頑張れ」
「ふぇぇ」
情けない声を上げながらこっち見られても困る。
「レイトはこのままで店がもつと思うか?」
「え、うーん」
並んでいる薬を見る。現状庭で採れるので作れる薬がこの3種類だけだとしたら、厳しいだろう。
初級回復薬・下剤・毛髪変化剤
……なんでこのラインナップなの? 逆に今までどうやってもたせてたのか、聞きたいくらいだ。
「師匠の薬は売れてた」
つまり今まで師匠が作ったやつを売って糊口をしのいできた。が、それも底をつき自作が売れず、頑張って外に行ってみた、ところで俺たちと会ったんだな。
ちなみに毛髪変化剤というのは、いわゆるヘアカラーだ。俺が生まれた頃に一時期流行ったらしいやつで、付けると毛色などが変化する。ただし何色になるかは分からないという、無駄に博打性がある代物。色どころか毛質や髪型まで変わるというファンタジーにも程がある仕様で、どこぞの令嬢がツルッパゲになり訴訟やらなんやらでご禁制になったとか、ばぁちゃんに聞いたんだけどなぁ。って、これまずいな。
「…とりあえず、この髪のは仕舞っとけ?」
「なんで?」
「それ多分、ご禁制になってる」
「え、うそ。僕使ったことあるけど!」
それでその髪型か! っていうか、良かったなぁそれで。コクシンも知らないようのでカクカクシカジカ。ラダは無言でプルプルしていた。
「そんなわけで、売れるのが初級回復薬と下剤です。無理ですな。」
品質良くても初級回復薬は栄養ドリンク扱いだし、下剤なんてそう使う場面がない。
「ということだ。借金をしてでもいいなら」
「えヤダヤダヤダヤダ」
「じゃあどうするんだ?」
コクシンが追い込んでいく。やけに積極的だな。そんなに連れていきたいの?
「ラダに回復薬を作ってもらえば、苦いの飲まなくていいだろう?」
このやろう。俺のが苦くてヤダってか。良薬口に苦しと言ってな? まぁ、俺も美味いならそれに越したことはない。そうだな。食事に美味さを求めるなら、薬にも求めたっていいよな。
「よし。ラダはこれから回復薬製造機だ!」
肩をポンしてにっこり。したいところだけど届かないので、小首傾げて可愛いアピール。
「え」
「違った。旅に必要な薬を随時作ってくれるって条件で、面倒見たげよう! そうだな。コクシンからは剣とか学ぶといいよ。俺はご飯作るから!」
「…ごはん」
お腹鳴ったね。食い付いたね。コクシン、美味いぞ! とかサムズアップしてる。お昼ご飯にしてついでに店売ろうとか言ってんじゃないよ。ラダの一大事なんだぞ。
「分かった。何持っていけばいい?」
ラダさん?
「とりあえず権利書と…」
コクシンさん?
ちょっと待とうね。即決で決めることじゃないよ。ご飯は作るから、だから、魔法鞄に全部放り込もうとするの止めようかコクシン!




