表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/241

第一冒険者?発見!

 いきなり前言撤回。朝ご飯、食べられなかった。まぁ用意してないもの。ないよね。

 消えて冷えてる焚き火跡を見ながら、反省。街に着いたら、干し肉と堅パンを買おう。あと塩。家からは何も持ってこれなかったからなぁ。



 食べられそうなものを探しつつ、街道をひた走る。周りは代わり映えのない荒野から、徐々にまた木々の姿が増えてきた。途中で果物を発見。


「…すっぱ」


 見たことあるやつだからかじってみたけど、結構酸っぱい。でも食べられないほどでもない。野生のリンゴ、かな。小さいながらも水分があって、腹にも溜まりそう。


 鞄に数個詰め込み、また走る。


 『鑑定』のスキルが欲しい。最低食べ物限定でもいい。毒があるかないか分かるだけでも、冒険の安全度は段違いだろう。もちろん、『インベントリ』も欲しい。大物をでろっと出して、こんなん獲ってきましたけどなにか?とかしたい。『転移』もいいよね。楽したい。


 とはいえ、夢のまた夢のような話だ。スキルは増やすことができる。だが先の3つは、教会の司祭も、薬師のばぁちゃんも知らなかった。教会所蔵の本にも載ってなかった。

 ただし、魔法鞄はあるらしい。ダンジョン産で、めっちゃ高いらしいけど。




「ん…?」


 視界に人工物が見えてきた。馬車だ。道の端の方に寄って、止まっている。商人が使うにしては立派な、箱馬車だった。

 警戒して足を止めると、馬車の影から2人、出てきた。冒険者だろうか、腰に剣をさしている。装備は軽装だが、少なくとも下っ端風ではない。


 しばらく無言で見合う。あ。そういえば俺、今てるてる坊主だった。そりゃ怪しいわ。


 驚かさないようにゆっくりと、フードを取る。ふっと2人の肩から力が抜けたのがわかった。


「びっくりした。坊主はこの辺の村の子か?」


 背が高い方の男が明るい調子で尋ねてくる。ちょっと顔が長いが、まぁイケメンだろう。もう1人は顎髭がむさく見える。


「この辺というか、この先の町から来たけど」


「どれくらいかかる?」


「? 馬車で1日くらい?」


 質問の意図が分からず首を傾げる。


「村とかないか?」


「ないよ。この先には町が1つあるだけ。その先は道もない。森に入る脇道しかないよ」


 俺の言葉に、2人は顔を見合わせて困ったように首を横に振った。なんだろう。馬車壊れたのかな? 見た感じなんともなさそうだけど。


『ゔぅ〜』


 不意に唸り声が聞こえた。ビクッとする俺とは裏腹に、2人はため息をついた。


「大丈夫だ。もう1人居てな。馬車に酔って吐いてるだけだ」


 顎髭のほうがそう説明してくれる。なるほど。それで停車中なのか。


「回復薬は?」


 あれって乗り物酔いにも効くんだっけ?


「もうない」


「売ろうか?」


 ただではあげないよ。自作とはいえ、ないと困るし。ばぁちゃんにもらったのはもったいないから、ますますあげられない。


 イケメンがふるふると首を振った。


「ありがたいが…。すぐにまたぶり返すだろう」


「…よくここまで来たね」


「まったくだ」


 2人して肩をすくめる。


 聞くと、彼らは雇われの護衛らしい。で、へばっている雇い主は、考古学とか神秘とか不思議とか、そういうのが好きな人らしい。俺は知らなかったけど、出てきた町のさらに向こうに大きな滝があるのだとか。それを書物で見つけ、勇んで観に行こうとした。いつも使っていた馬車が調整中だったので、街でレンタルしてきた。ら、乗り心地が悪すぎて酔った。しかも、テンション上がってて途中までは平気だったもんだから、町と街の間でにっちもさっちも行かなくなった。ということのようだ。


「馬に乗るのは?」


 一応聞いてみるが、案の定首を横に振った。っていうか、貴族じゃね? 乗り心地のいい馬車で、この旅行という概念のない世界でウロウロしてる人なんて。それにしては護衛2人とか、少ないけど。


「歩いて…も、無理なんだよね。うーん」


 少し考え、周囲に目をやる。このへんの植生ならあるだろうか。2人に断って林の中に入る。採取はばぁちゃんの手伝いがてらよくやっていたので、大体の目利きはできた。


「何をしてるんだ??」


 ゴリゴリ石の上で草をすりつぶし始める俺に、不思議そうな、しかし青白い顔で男が声を掛けてきた。

 第3の男。貴族疑惑(俺基準)の馬車酔いさんだ。

 言っちゃ何だが普通だった。ヒラヒラの服は着てなかった。文学青年、いや、文学オヤジ…? メガネを掛けた男だ。なにげにこの世界で初めてメガネを見た。


「薬です」


「へぇ。君は薬師の卵なのかい?」


「冒険者の卵です。ばぁちゃんに習ったので簡単なのは作れるんです。で、これを濾してっと」


 コップを借りて、擦り終わった薬草を手で絞り、絞った液体を水で割る。青汁もどきが出来上がった。本来ならこれに魔力を通して丸薬にするのだが、このまま飲んでも効能はちゃんとある。ただ苦いだけで。


 「はい」と、作り笑いで渡す俺とコップを2度見する男。慌てて護衛が待てをかけてくる。そりゃ怪しいものは飲ませられないよね。

 手の平に垂らして、舐めてみせる。うん、苦い。


「なんの薬だ、それ」


「…酔いがマシになる薬」


「いや、その間は何だ」


「まぁ別に無理には勧めないよ。俺には関係ないし。じゃあどうにか頑張って戻ってね!」


 俺が通ったのはたまたまだし、ちょっとずつでも戻れるだろう。歩けばいんだよ、歩けば。じゃ!と手を上げて走り出そうとしたところで、がっと捕まった。


「本当に毒とかじゃないんだね?」


 メガネさん、顔近いです。あ、なんかいい匂いする。ヒョロそうに見えて、存外力が強い。


「違うよ」


「よし。飲むよ!」


「えっ? ニルバ様!?」


 イケメンさんが手を伸ばす前に、メガネさん、もといニルバ様は俺の手から奪い取ったコップをぐいっと煽った。顎髭が悲鳴をあげる。ごきゅっとニルバ様の喉が鳴った。




 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] >文学青年、いや、文学オヤジ…? メガネを掛けた、妙齢の男だ。 『妙齢』は本来なら若い女性を指す言葉ですな。 なので『若い女性的な格好をしたメガネのオッサン』というヤバい代物が爆誕。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ