第一冒険者?発見!
いきなり前言撤回。朝ご飯、食べられなかった。まぁ用意してないもの。ないよね。
消えて冷えてる焚き火跡を見ながら、反省。街に着いたら、干し肉と堅パンを買おう。あと塩。家からは何も持ってこれなかったからなぁ。
食べられそうなものを探しつつ、街道をひた走る。周りは代わり映えのない荒野から、徐々にまた木々の姿が増えてきた。途中で果物を発見。
「…すっぱ」
見たことあるやつだからかじってみたけど、結構酸っぱい。でも食べられないほどでもない。野生のリンゴ、かな。小さいながらも水分があって、腹にも溜まりそう。
鞄に数個詰め込み、また走る。
『鑑定』のスキルが欲しい。最低食べ物限定でもいい。毒があるかないか分かるだけでも、冒険の安全度は段違いだろう。もちろん、『インベントリ』も欲しい。大物をでろっと出して、こんなん獲ってきましたけどなにか?とかしたい。『転移』もいいよね。楽したい。
とはいえ、夢のまた夢のような話だ。スキルは増やすことができる。だが先の3つは、教会の司祭も、薬師のばぁちゃんも知らなかった。教会所蔵の本にも載ってなかった。
ただし、魔法鞄はあるらしい。ダンジョン産で、めっちゃ高いらしいけど。
「ん…?」
視界に人工物が見えてきた。馬車だ。道の端の方に寄って、止まっている。商人が使うにしては立派な、箱馬車だった。
警戒して足を止めると、馬車の影から2人、出てきた。冒険者だろうか、腰に剣をさしている。装備は軽装だが、少なくとも下っ端風ではない。
しばらく無言で見合う。あ。そういえば俺、今てるてる坊主だった。そりゃ怪しいわ。
驚かさないようにゆっくりと、フードを取る。ふっと2人の肩から力が抜けたのがわかった。
「びっくりした。坊主はこの辺の村の子か?」
背が高い方の男が明るい調子で尋ねてくる。ちょっと顔が長いが、まぁイケメンだろう。もう1人は顎髭がむさく見える。
「この辺というか、この先の町から来たけど」
「どれくらいかかる?」
「? 馬車で1日くらい?」
質問の意図が分からず首を傾げる。
「村とかないか?」
「ないよ。この先には町が1つあるだけ。その先は道もない。森に入る脇道しかないよ」
俺の言葉に、2人は顔を見合わせて困ったように首を横に振った。なんだろう。馬車壊れたのかな? 見た感じなんともなさそうだけど。
『ゔぅ〜』
不意に唸り声が聞こえた。ビクッとする俺とは裏腹に、2人はため息をついた。
「大丈夫だ。もう1人居てな。馬車に酔って吐いてるだけだ」
顎髭のほうがそう説明してくれる。なるほど。それで停車中なのか。
「回復薬は?」
あれって乗り物酔いにも効くんだっけ?
「もうない」
「売ろうか?」
ただではあげないよ。自作とはいえ、ないと困るし。ばぁちゃんにもらったのはもったいないから、ますますあげられない。
イケメンがふるふると首を振った。
「ありがたいが…。すぐにまたぶり返すだろう」
「…よくここまで来たね」
「まったくだ」
2人して肩をすくめる。
聞くと、彼らは雇われの護衛らしい。で、へばっている雇い主は、考古学とか神秘とか不思議とか、そういうのが好きな人らしい。俺は知らなかったけど、出てきた町のさらに向こうに大きな滝があるのだとか。それを書物で見つけ、勇んで観に行こうとした。いつも使っていた馬車が調整中だったので、街でレンタルしてきた。ら、乗り心地が悪すぎて酔った。しかも、テンション上がってて途中までは平気だったもんだから、町と街の間でにっちもさっちも行かなくなった。ということのようだ。
「馬に乗るのは?」
一応聞いてみるが、案の定首を横に振った。っていうか、貴族じゃね? 乗り心地のいい馬車で、この旅行という概念のない世界でウロウロしてる人なんて。それにしては護衛2人とか、少ないけど。
「歩いて…も、無理なんだよね。うーん」
少し考え、周囲に目をやる。このへんの植生ならあるだろうか。2人に断って林の中に入る。採取はばぁちゃんの手伝いがてらよくやっていたので、大体の目利きはできた。
「何をしてるんだ??」
ゴリゴリ石の上で草をすりつぶし始める俺に、不思議そうな、しかし青白い顔で男が声を掛けてきた。
第3の男。貴族疑惑(俺基準)の馬車酔いさんだ。
言っちゃ何だが普通だった。ヒラヒラの服は着てなかった。文学青年、いや、文学オヤジ…? メガネを掛けた男だ。なにげにこの世界で初めてメガネを見た。
「薬です」
「へぇ。君は薬師の卵なのかい?」
「冒険者の卵です。ばぁちゃんに習ったので簡単なのは作れるんです。で、これを濾してっと」
コップを借りて、擦り終わった薬草を手で絞り、絞った液体を水で割る。青汁もどきが出来上がった。本来ならこれに魔力を通して丸薬にするのだが、このまま飲んでも効能はちゃんとある。ただ苦いだけで。
「はい」と、作り笑いで渡す俺とコップを2度見する男。慌てて護衛が待てをかけてくる。そりゃ怪しいものは飲ませられないよね。
手の平に垂らして、舐めてみせる。うん、苦い。
「なんの薬だ、それ」
「…酔いがマシになる薬」
「いや、その間は何だ」
「まぁ別に無理には勧めないよ。俺には関係ないし。じゃあどうにか頑張って戻ってね!」
俺が通ったのはたまたまだし、ちょっとずつでも戻れるだろう。歩けばいんだよ、歩けば。じゃ!と手を上げて走り出そうとしたところで、がっと捕まった。
「本当に毒とかじゃないんだね?」
メガネさん、顔近いです。あ、なんかいい匂いする。ヒョロそうに見えて、存外力が強い。
「違うよ」
「よし。飲むよ!」
「えっ? ニルバ様!?」
イケメンさんが手を伸ばす前に、メガネさん、もといニルバ様は俺の手から奪い取ったコップをぐいっと煽った。顎髭が悲鳴をあげる。ごきゅっとニルバ様の喉が鳴った。