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やればできる。

 もうすぐ次の街へ着こうかという頃、道端で所在無げに座っている人間がいた。旅人というふうにも見えないし、農家でも商人でもなさそうだ。荷物が少ないけど、冒険者かな。俺たちも人のこと言えないし。


 どうする?とコクシンがちらっと見てくる。怪我しているようにも見えないけど、無視して目の前通るのもなぁ。


「どうかしたのか?」


 結局コクシンが馬上から声を掛けた。


 茶色のくせ毛の酷い男だった。長めの後ろを束ねているが、羽箒みたいになっている。気が弱そうな、へにゃっとした笑みを見せた。


「お気遣いなく。採取に出てきたのはいいものの、見つけられなくてね、どうしたものかと考えていただけだよ」


「ああ。冒険者か?」


「いえ。薬師です。といってもヘッポコですけどね」


 ヘッポコな薬師なんて怖いにもほどがある。薬は一歩間違えれば毒になる。実力が足らないとしても、口にすべきではないと思う。


「そうか」


 コクシンもそう思ったのか、興味が失せたようだ。それだけ言って、俺を促して歩き始めた。一瞬なにか言いたそうな顔はしたが、彼は立ち上がりもしなかった。


「頼りないな。あれでは信頼できない」


「酷評だね。まぁ俺も同感。人がいいのはいいとして、自信のないもの処方されたら、治るものも治らない気がするよ」


 この世界、医師というのはいない。病気や怪我はポーションで治す。症状を聞いて、個別対応できる薬を調合するか、回復薬で十分かとか判断するのは薬師だ。それで手に負えないと、祈祷師とかが出張ってくる。

 なので、薬師には偉そうなやつが多い。と、ばぁちゃんが言っていた。威厳があるのはいいけど、履き違えてふんぞり返ったタイプがそこそこ居るらしい。


「しかし、薬師自ら採取するのか?」


 街の門が見えてきた。


「人それぞれじゃないかな。ばぁちゃんは自分で採ってたよ。足りないのは商人から買ってたな。うち冒険者ギルドなかったし」


「ふぅん」


 この辺の産物なのか、やけに白い壁に囲まれた街だ。名前は「ジョナ」。酪農が盛んということで、牛乳が手に入るのではないかと、期待している。あとチーズ。街の半分が山沿いにあって、段々畑のようになっているのが見えた。あそこが酪農しているところかもしれない。


 とりあえず商業ギルドを訪ねる。

 空き家を一日単位で借りれないかと聞いたら、訝しげな顔をされた。馬がいるし、酒場がある宿では落ち着かない、肉を捌くこともある。みたいな説明をしたら、街外れのボロ屋で良ければと紹介された。

 行ってみて雨風は凌げそうなので、安く借りることにした。外観はボロいが、中はしっかりしている。台所も付いているし、ちょっと掃除すれば問題ない。馬小屋もある。蜘蛛の巣払えば使える。


 換気をしつつ、過ごす部屋だけ掃除をする。家具は殆どなかった。ベッドもなかったが、実は魔法鞄に2人分突っ込んでいるので問題ない。


 冒険者ギルドに顔を出すのは明日にして、コクシンには買い物に行ってもらった。普通の鞄を渡し、魔法鞄は俺が預かる。


 そして俺はというと、お風呂の準備である! 街を出る前に大きめの樽とかないかなと探したら、ワインを作るときのタライのでかいのバージョンがあった。水を抜く栓を付けてもらって、鞄に詰め込んできた。

 設置場所は家の裏。男だけだし、周囲に民家無いから衝立はいらないや。でも今後のために、どこかで作ってもらっておかないと。

 俺がお湯を直接出すので、火は焚かなくていい。排水のために、溝だけ掘っておこう。森に捨てる感じで。天然石鹸だから大丈夫。で、ここから上がる……? なんということでしょう。縁にギリ届かねぇ…。踏み台が必要だな、こりゃ。あとすのこも作っとこう。


 コクシンが帰ってくるまで、せっせと日曜大工に精を出した。ちなみに木材なんかも鞄に詰め込んである。入れとくもんだね、なんでも。


 一通り準備が済んだけど、コクシンが帰ってこない。変な輩、ではなく、女の子に集られてるのかもしれない。心配はしない。天然スルースキルを持ってるから。


 よぉし。じゃあ、砂糖でも作ろうかな。それとも魔法の練習? あ、お湯をすくうための桶を作ろう。

 うにうにと土が動き手桶の形にはなる。水を入れると、じわーと漏れてきた。溶岩プレート作ったときは、多少油がしみたけど大丈夫だったのに。土か? 工程に問題あるのか? 石を意識してみるか。…出来たけど、重いな。軽い土、石…前世の俺が“あれだあれ”とか言っている。セラミック? うーんいや、ファンタジーなんだし、自前で作ろう軽い土。軽くて丈夫で水漏れしなくて熱にも強くて薄く作れる、そんなご都合素材。出来る出来る。俺なら出来る。


 ぐぬぬぬと魔力とともにイメージを練ること数分。


ててーーん!


 手の中に軽い素材の手桶があった。黄色くて、『ケ○リン』とか描いてあるの、見たことある…。



 ってこれ、プラスチックじゃねーの!!



 待て待て。落ち着け。プラスチックにしては透明度がないし、感触が違う。音はコンコン軽い。落としたら、…傷ひとつなし。水は、漏れない。


「か、鑑定」



『レイトチックで出来た桶

レイトチック/レイトが生み出した化合物。軽くて丈夫で熱や水に強い、加工しやすい“ナニカ”。あくまで土。土に還るので環境に優しい。欠点は概念が存在しないので、作るごとに相当のイメージが必要』



 …え、いや、怖っ。


 なんか、俺の名前が表記されとる。鑑定ですらよくわからないナニカ認定されとる。本当に作れちゃったよ!ご都合素材! どうすんのよ!



 まぁ、作れてしまったものはしょうがない。結構魔力持っていかれたけど、問題なし。ステータスに変化は…なし。説明通り、あくまで土魔法の範囲ということだ。

 他に鑑定出来る人が居ればヤバいけど、聞いたことないし魔導具でも知らない。俺が言わなければ不思議素材でしらばっくれる。何ならダンジョン産と言っておけばいい。ダンジョン産なら“しょうがない”で済む。不思議の宝庫ダンジョンバンザイ!


 よし、落ち着いた。

 とりあえず、黄色はまずいので鞄に仕舞っとこう。もう一個、茶色で作る。文字もなしだ。普通のツルッとした桶…。


「…え、ムズくない?」


 出来たのは普通に土製の失敗作だった。ツルツルはしてるけど、水を通してしまう。


 ええい。レイトチック製だよ。ケ○リンの茶色バージョンだよ。軽くて丈夫で水漏れしないやつ。イメージを固めるんだ。そう、まるでそこにあるように。


テテーン!!


 茶色の謎素材の手桶ができた。


 やればできる。頭痛とともに喜びを噛みしめた。


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― 新着の感想 ―
まあ水も何もないところから(魔力から?)生み出してるし、魔力量でゴリ押したら作れちゃったのか笑
[良い点] レイトチックすげー(゜ロ゜)! 鑑定さんの説明文わかりやすくて良いですね
[良い点] 絶対これ神様的なものが見ながら笑ってるやつ
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