新スキルキターー!
なぜだ! なぜあれじゃないんだ!? 香りは完全にあれだったじゃないか。懐かしいと思った俺の気持ちを返してくれぇ。
心内で慟哭しつつ、口をゆすぐ。
あー、渋かった。しかし、このえぐ味というか渋みにも覚えがあるんだよなぁ。
「結局食べられないってことか?」
クンクンとコクシンが割った実の匂いを嗅ぐ。香りはいいんだけどな。熱を入れるとどうにかなるんだろうか。
お前は一体何なんだ。
味噌じゃないのか。味噌の香りがするじゃないか。見た目とのミスマッチに頭が混乱する。しかもお前、砂糖大根じゃないのか。前世の俺が言っているぞ。味噌の香りの砂糖とかどうなんだ。っていうか、お前本当なんなの?
ピコン。
「ふぁっ!?」
ナンカデタヨ。
『シューガー/砂糖大根
種ごと実を煮詰めると、砂糖が取れる。灰汁を取るのを忘れないように。実のときの香りは残らない。太りにくいので女性にオススメ。
どこにでも生えているが、寒いところのほうが甘くなる。』
「え、えーーーー?」
ここに来て発現したよ! これ鑑定だよね!
ステータスチェック。
名前:レイト
年齢:7
スキル:魔力操作・弓術・鑑定
魔法:土魔法・生活魔法
「ひゃっほー!」
チート来た! 多分誰も持っていない不思議スキル。前世をフル稼働させてるよ! ま、待てよ。どこまで鑑定できるかが問題だ。
手のひらを見る。『鑑定』……何も出ない。
弓を見る。『鑑定』……
ピコン。
『ネトリの弓
ネトリの木で作られた子供用の弓。しなりがいい。』
出た。っていうか、名前ー。
「レイト? さっきから何1人で百面相してるんだ? もしかして幻覚見えてる?」
ゆさゆさとコクシンが俺の肩を揺さぶる。
大丈夫。正気なはず。
コクシンに向けて『鑑定』……何も出ない。人には使えないってことかな。
もう一度。
『トキイ草
回復薬の主原料。どこにでも生える。1番上から3枚目までにしか薬効はない。そのまま食べても多少は効果がある。搾り滓はお茶に最適。栽培もできる。』
出た。生えてるものにも有効。あとは魔物だが、これはあとにして…。
「解毒剤飲むか?」
心配顔のコクシンが腰を屈めて覗き込んでくる。
「あ、うん。大丈夫。ちょっとスキルが増えたから、ビックリした」
ぽかんとした顔。パクパクと口を動かし、しばらくしてから「なんだってー!?」と絶叫した。うん。驚くよねぇ。スキルや魔法は増える。修練するとか、繰り返すとか、仕事の過程で。それは常識だけど、なかなかその瞬間に立ち会えることはない。いつの間にか覚えていたというものだからね。
「何を覚えたんだ?」
聞いてくるよねぇ。しかし、どこまで喋ったものか。前世のことは言わないでも通じるかな。言ったところで、「へぇ」で終わるだろうけど、彼は。
「『鑑定』っていう、図鑑みたいなやつかな。例えばこの弓を見ると、名前と材質とかが分かる。さっきの実はシューガーっていうらしいよ」
「聞いたことがないな…。それは何でも情報が見える目みたいなものか?」
コクシンが首を傾げる。
「いや、とりあえず人には使えないっぽい。まだ俺とコクシンしか試してないけど。そこに生えてる植物には通じた。魔物は、これからかな…。ステータスと同じように見えてる」
「…なるほど。しかし、それは公には言わないほうがいいな」
俺が言う前にコクシンから言ってくれた。俺もそう思う。自分で買うものの真偽を見るくらいならまだしも、商業ギルドとかに知られたら、俺は使い倒される。たぶん、迷宮品だって分かる。
「あ。コクシンちょっと魔法鞄見せて」
「ん、ああ」
くいっと腰をひねって鞄を俺の方に向けてくれる。
『魔法鞄
次元魔法が掛かった鞄。迷宮品。容量は所持者(登録者)の魔力量により変わる。時間停止機能なし。生物は入れられない。
登録者解除方法:死亡もしくは放棄の意志を持って登録陣に血判』
うん、普通に出たな。レベルが足らないとかはないらしい。
「どうだった?」
「うん。今までで知ってる情報だね。あ、容量は魔力量に左右されるみたい」
「私の?」
「登録者だから、俺も込みかな」
「なるほど。じゃあ、聞いているよりも入る可能性もあるんだな」
「かもね」
自慢じゃないけど、俺多いほうだと思うから。コクシンも少なくはないと思う。これ登録者増やしたら、どんどん増えるのかな。でもセキュリティ上ダメだな。
「しかし、レイトは次々驚かせてくれるな。私も頑張っているつもりなんだが」
あれ、コクシンがちょっとしょげている。
「まぁ俺は小さい頃から色々知りたがりだったから。教会にあった本も全部読んだし。継続は力なりってやつだね」
「継続か。剣は続けているが…」
「もうあるもんね。突き詰めて剣術の上を目指すのか、相性のいい何かを探すのか。俺もまだまだ欲しいのあるよ」
「あるのか?」
「あるよ。索敵とか、結界系とか、接近戦用に武器を鍛えたいし、料理のスキルがあったらどう違うのかとか、身長も欲しいし…」
「いや、身長は関係ないだろ」
ふすっとコクシンが笑う。関係あるよ。威厳というものが違うんだよ。隣にいるのが高身長イケメンだから、チビが目立つんだよ。目立ちたくはないけど、ザコ扱いも嫌だよ。なんなら変身スキルでもいいよ。
「はぁ。私も色々望んでみよう。それで、この実は結局どうするんだ」
忘れるところだった。
「砂糖が作れるらしいから、取れるところのは取っていこう。実1つでどれぐらい取れるかわからないし」
「へぇ、砂糖?ってこれから作られてるのか」
「売られてるのと同じかどうかは…。あ、鑑定すればいいのか」
魔法鞄に手を突っ込んで、瓶に入った砂糖を取り出す。
『砂糖
サトウブリーから精製された砂糖。』
「あ、違った。これはサトウブリーっていうのから作られてるんだって」
「ほう。同じように使えるのか?」
「さぁ。とりあえず作り方が曖昧だから、作ってみないことには分からないね」
せっせと黄色い茄子を収穫していく。
多分塩と同じで、大量に精製しないといけないんじゃないかな。ギルドの人に聞いてみてもいいし。でも、冒険者ギルドの図鑑には載ってなかったと思うけど。




