サル退治
本日の依頼は、グリーンモンキーの討伐だ。その名のとおり茶色と緑が混ざった毛並みの、全長40センチくらいのサルの魔物。畑を荒らすので、駆除依頼が来ている。強くはないけど、すばしっこいらしい。
本日の課題は、コクシンの風魔法の命中率を上げること。なので、すばしっこいサルが相手だ。俺も動く的を狙うのは訓練になるしね。
キッキー!
木から木へと飛びながら、挑発をするように声を上げるサル。なにげにストレス貯まる。
ばしゅっ!
コクシンの手から放たれた風の鎌が、サルの体に掠る。また外れた。いや、俺も大概避けられている。じっとしてない的を狙うのは、難しい。
「うーん。コクシン、剣を振って風魔法出せる?」
「剣で?」
イメージは飛ぶ斬撃だ。だがファンタジー世界とはいえ、斬撃にエフェクトは発生しないらしい。
「えーと、こんな…」
自分でやってみよう。腰のナイフを抜き、振り抜きながら魔法発動。あさっての方に土の塊が飛んでいった。む。意外に難しいな。もう1回、居合抜きの要領で土で、刃を作って…。
べぢいん!
音はあれだけど、狙った軌道で土製の三日月が飛んだ。鋭さまでは再現できず、物理で顔にダメージを受けたサルが地団駄を踏んでいる。
「なるほど」
1つ頷き、ブツブツイメージを作り始めるコクシン。
「っしっ!」
剣先が霞むほどの振り。白く渦を巻いたような風が、ブワッとサルたちに襲いかかった。
「む」
「いいよいいよ。手でやるより全然狙えてる。あとは切れるようにできれば使えるんじゃない?」
見ただけで一発でできるとか、どこまで器用なんだよ。
コクシンは二度三度と振って、徐々に風を細く鋭くさせることに成功していった。ボロボロとサルが木から落ちていく。サルの群れが消える頃には、狙った獲物を倒せるだけのサイズのものを飛ばせるようになっていた。
どやぁ!と振り返るコクシンに拍手する。いや、ほんと凄いわ。
「ふむ。剣を握ったほうが魔法が使いやすいのか? 特になんの付与もない剣だと思ったが」
コクシンがしげしげと自分の手の中の剣を見る。
「剣っていうか、スキルの『剣術』がいい仕事をしたってとこかな。スキルに魔法を組み込んだ感じ。相性がいいのかな」
「相性か。たしかにシックリくる。どれくらいの力を込めればいいのか、なんとなく分かるから。レイトの弓は土魔法を使えるのか?」
「え、どうだろう?」
言われて弓を構えてみる。ここから土魔法って、何をすればいいんだ?
はっと思いつき、矢を仕舞う。土魔法で矢を作って飛ばす。
「っていやいや、これならそのまま飛ばしたほうが速いな。えーと……」
土…石…石にする? 離れたところで発動するのか?
もう一度木の矢を構え、着弾点が固まるイメージを持って、撃つ。
パキキッ
撃った木の表面がゴツゴツとした石に覆われた。
出来るもんだな。ではもういっちょ。矢を使わず、どれくらい遠くで発動するのか。手をかざし、さっきと同じように固まるイメージ。不発。徐々に距離を縮め、約2メートルくらいの範囲内しか発動しないことを確認。
「あれは攻撃になるのか?」
見ていたコクシンが呆れたように聞いてくる。見たところ、20センチ四方の表面に石がくっついているだけだ。たぶん、皮膚についたところで魔物は気にしないだろう。中まで石化するんだろうか。魔物に撃ってみる必要はある。
「分からないけど、足を狙えば足止めぐらいにはなりそうかなとは思うよ」
「なるほど」
「まぁ強度とか範囲とか、要実験ってところかな」
「相変わらず器用なことを考えるな。私も研鑽しよう。一発目のあれは、足止めになりそうだ」
「そうだね。広範囲攻撃ってのは、あると有利だよね」
「うむ」
頷き合い、それはそうとサルの死体を集める。
こいつは食べられない。なので魔石を取り出し、討伐証明部位の尻尾を切り取る。あとは穴に入れて燃やしておこう。立ち昇る煙は焼肉のいい匂い。今日は溶岩プレート焼きにしよう。あ。野菜にするんだった。
「コクシン、ちょっと採取してきていい?」
「うん? 火が落ち着いてからでもいいだろう」
「その辺にいるから」
変なところで過保護を出さないでよ。え、違う? 変なもの引き寄せるから、目の届くところに居ろって? ひどい。なんとかホイホイじゃないし!
「すぐ終わるから」
燃え盛る炎に風を送り込んで、燃焼率を上げるコクシン。昨日教え込んだことが、すっかり身についてらっしゃる…。
まぁ「待て」に反抗するほど俺も子供じゃない。大人しく、周囲に生えているトキイ草を採取しておく。
「で。何を採るんだ?」
燃え尽き、灰になったサルたちを土で埋め、処理終了。
「野菜代わりになるなにか」
「野菜…。買わないのか?」
「買うけども。採れるならタダのがいいじゃない」
「…そうか」
実はお金に余裕が出てきたのだけれども、節約は大事。多分俺が突発的になにか買うから。調味料とか、高くても買っていいって言ったよね? ね?
というわけで、野生のサンチュっぽいのを大量採取。もちろん根こそぎは採らない。ニンニクもゲット。これは薬にも使うので知ってる。あと、唐辛子があった。まぁこっちでは違う名前なんだけど、面倒。ほんと鑑定欲しい。こっちの名前と前世での名前、表記して欲しい。
「レイト。あれは食べられるのか?」
あたりを警戒していたコクシンが、とある木の上を指した。
「んー?」
黄色い下膨れの実がなっている。茄子を一回り大きくした感じだ。どこかで見たことがある。えーと…。
「あ、ばぁちゃんに見せてもらったことがあるんだ。食べられるはずだけど」
じゃあ採ろうと、スパンとコクシンの剣先が枝を切った。背が高い彼なら届くくらいの高さにも実がついてる。ナイフで縦半分に切る。
「本当に食べられるのか?」
コクシンが眉をひそめる。だよね。中には赤黒い果実がみっちり詰まっている。種なのか、黒いツブツブも見える。端的に言ってグロい。
しかし! この香り。コレはあれなんじゃないんだろうか。記憶の中にある、懐かしいあれ。
「いざ、実食!」
ナイフの先でちみっと取り、ぱくり。
「………。違ったぁー!!」
ぶへぇと吐き出す俺を、コクシンがオロオロして見ていた。手には解毒剤が握られている。
そういえば幼少期、ゲームの影響を受けて、わざと服毒して回復してを繰り返すと、耐毒性が得られるんじゃないかと考えたことがあった。正直死ぬ。ゲームのように一瞬で治るものではないし、めちゃめちゃ苦しい。上から下から大変だった。ばぁちゃんにも怒られたし。
「レイト?」
「あーうん。だいじょうぶ。どくじゃない」
「言葉変になってるぞ…?」
大丈夫大丈夫。しかし、これは……。