今日はトンカツです
鍋で油を作っていく。ロックボアが狩れたので、その分厚い脂を溶かしていっている。今日の晩御飯は、トンカツです! 卵ないけど何とかなるなる。本当はボタン鍋がしたかった。味噌はどこですか。
香ばしい脂の香りに、鼻がひくひくなる。隣ではコクシンがパン粉を作ってくれていた。チラチラこっちを見ている。分かるよ、こんなたくさんの油どうすんだ?ってとこだよね。ちゃんとうまいの作るから!
「レイト! もう1頭行った!」
「はぁぁ? ふっざけんな!?」
俺は今絶賛ボアと格闘中だっつーの! お代わりとかいらな…いや、もう、なんでこっち来んの!
接敵中だったボアの足止めようと、ナイフを持っていない方の手を掲げる。壁で食い止めるイメージをしたつもりだったんだが。
プギィィ!!
ボアの悲鳴が響き渡った。
「うわっ」
思わずというようにコクシンが漏らした声。俺も心の中で思った、「うわっ」って。
そこには土の柱で串刺しになったロックボアが居た。円錐型の土の柱だ。しばらくジタバタしていたボアが、事切れ下に血溜まりができていく。
プギィィ!
仲間の惨劇に怒ったのか、俺が相手していたボアが突っ込んでくる。
「えぇい、しつこい!」
ボアの片目は俺の矢で撃ち抜かれている。俺がキレるのは筋違いだな。一撃で仕留められなかった俺の力量不足だ。
今度こそ壁を出す。ドゴッとかなりの音でぶつかったボアは千鳥足だ。
「コクシンお願い」
「任された」
俺が壁を崩すのとほぼ同時に、ボアの首から血しぶきが舞った。ピッと剣を振り、血を払うコクシン。やっぱり剣のが似合うなぁ。
彼の後ろには、既に2頭のボアが横たわっていた。1頭見付けて相手にしたのだが、次々リンクしてきてこうなった。流石に疲れる。
「よし、次は来ないな。血抜きだけでもしときたいんだけど…」
数が多いから、血抜きしている間に次が来るかもしれない。
「大丈夫だろう。さっさと済ませて、さっさと離れよう」
コクシンもすぐに血抜きした肉の旨さを知っている。
魔法で穴を掘り、そこにコクシンが首筋を切ったボアを逆さに突っ込む。貫かれていたやつも土柱を解除して、同様に処置。
周囲を警戒しつつ、少しでも紛れるかと、血溜まりを水で流しておく。
終了したらそのまま鞄に詰め込む。中のものはお互いに干渉しないので、濡れたものとか突っ込んでも大丈夫。今のところ、生きている物は入らない、時間は普通に経過する、水そのままでも入る…ということが分かっている。
そんなこんなで、今日はお疲れなのだ。正直その辺でご飯を買って食べてもいい。だが腹は正直で、強烈に「今日はカツ!」とアピールしてくる。なので作る。作り始めれば疲れも吹き飛ぶ。
適量出来たら、肉を切る。ロースあたりの肉にしよう。加減が分からないから、少し薄めにしておく。中が生だと危ない。
卵がないので、小麦粉を水で溶いたものを付け、パン粉をまとわす。美味ければいいのよ。俺がカツといえばこれがカツなの。
箸の先を油の中に入れて確認。いいでしょう。じゃあ、肉投入!
じゅわわわー!
心地良い音が広がる。これだよ。これが見たかった。黄金色の油の中で泳ぐお肉様。あ、バットがないな。土魔法でお皿を作る。未完成だからこそ、油を吸う皿。このへんも後で考えないとな。
きつね色になってきた。しょわしょわしてきたらいいはず。正直この辺曖昧。前世はそれほど料理をしなかったのかもしれない。
頃合いを見て取り出す。もう1枚投入。鍋がそれほど大きくないからね、まだまだいくよ。あ、揚げている間に最初のを切ってみよう。
ざくっ!
断面は……完璧じゃないでしょうかっ! ちゃんと火が通ってる。肉汁が出てくる。これはもう、食べるしかないね。ザクザクと切り分け、コクシンとともにいただきます!
「うんまーい」
豚より味が濃いんじゃないんだろうか。多少噛みごたえはあるけど、この世界基準で言えば十分柔らかい。噛むたびにじゅわっと肉汁が出てくる。脂身が美味い!
揚げながら食う。行儀が悪いけど、だって熱々のが食べたいんだもの。コクシンのフォークが止まらないんだもの。食べなきゃなくなる。
野菜も食べようね。キャベツはないけど、レタスっぽいのがあるから。残ったらカツサンド作ろう。食パンないけど。ソースないけど。そういえば、何も付けなくても美味いな。塩付けてみよう。うん、美味い。
「これは、止まらないな…」
「いいけどコクシン、食べ過ぎると胸焼けするよ?」
回復薬で治るのかな。胃腸薬はあったから、そのへんの薬草…あ、胃腸にいいロッカは持ってるな。今度作ることあったら、それを味付けついでに使おう。
スーパートンカツタイムが終了した。余は満足である。トキイ草のお茶で口の中をリセット。甘いものが欲しいので、ミツの実を割って、そのままぺろぺろ。
コクシンは…お腹をぽんぽこにして転がっていた。やめて。王子様はそんなことしなくてよ。あ、お腹さすらないで。ていうか、腹筋割れててもぽっこりなるのか…。
明日は野菜を中心としたメニューにしよう。
ところでいま俺たちは、一軒家の庭にいる。
宿を選ぶときに、ダメ元で数日だけ空き家を借りれないか聞いてみたのだ。ドアさんに。そしたら不動産を持ってる商会を紹介してくれて、町外れの一軒家を1日いくらで借りれることになった。
お陰で料理ができる。お酒で騒いでいる声も聞こえない。隣を気にすることもなく寝れる。魔法鞄のこともあって、普通の宿ではセキュリティに不安があったのだ。
他の街でも借りれるか聞いてみよう。
腹をこなし、片付けをして中に戻る。
コクシンは外で剣を振っている。俺も習慣の魔力操作の訓練だ。と思ったけど、弓の訓練を先にしよう。今日ちょっと外したからな。楽だからって魔法に頼るとろくなことにならない。ナイフの取り扱いも、どうにかしないと。
訓練後、タライにお湯を溜めてお風呂代わりにした。腰まで浸かるだけでも、だいぶ疲れが取れる。お湯に浸かる習慣のないコクシンは不思議そうな顔をしていた。
そのうち、彼も入れるサイズのを作ってもらおう。