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悪いのは誰だ。

「護衛の冒険者たちが乗客を襲っただって? そんな馬鹿な!」


 第一声は冒険者ギルド長だった。場所は門横の詰め所だ。


「私達は嘘を言っていないよ」


 コクシンの言葉に、お姉さんたちも頷く。


「いや、しかし彼らはD級の…」


 彼の前には、やつらから拝借したギルド証が3つ。ちなみにやつらはまだ寝ている。もう眠り薬は取っているので、しばけばすぐにでも起きるだろう。


「それも怪しいよ。フォレストウルフ3頭に悪戦苦闘してたんだよ。しかも死体を道のど真ん中に放置して行こうとしてた。そういう教育してないの? 俺は登録したときに教えてもらったよ?」


 聞いたところ、やつらはこの街のギルド所属だとか。あちこち行く俺たちみたいなのもいるし、ずっと同じ街で活動している人たちもいる。

 俺の言葉に、ギルド長がぎりっと歯軋りした。


「しかし、今のところ他に問題が上がってはいなかったはずだが…」


 衛兵長が首を傾げる。コクシンとは特に交流はないらしい。何も言ってこない。


「…いえ。たちの悪いのは居ましたよ」


 言いにくそうに馬車ギルドの人が手を上げた。


「難癖をつけて護衛料を上げようとしたり、乗客とトラブルを起こしたり…」


「む。俺は知らないぞ?」


 衛兵長が入口付近に立つ部下に目をやる。部下はふるふると首を横に振った。


「その度に聴取とかで業務が滞るのは困るし、些細な喧嘩だと言われてしまえば、強くは言えなくて…」


「…なるほど。こちらの対応にも問題があったようだ。留意するよう通告しておこう」


 馬車ギルドの人が頭を下げる。


 さて。問題は冒険者ギルドだ。


「確かに彼らは態度が良くないという報告がありはしたが…しかし、護衛に問題があるほどでは…」


「ちょっと、それ本気で言ってるの?」


 憤慨したのはお姉さんだ。


「あのリーダー、護衛のくせにずっと馬車の中に乗り込んできてたのよ? しかも、ずっとあたしたちをナンパし続けてるの。金目の物チラつかせて、俺の女にならないかとかほざいてんの。胸ばっか見てくるくせに、戦闘になったらへっぴり腰。そのくせこっちの人たちが倒した狼を横取りしたって喚いてんのよ! これで問題なしなら、冒険者ギルド自体信じられないわ」


 うんうん。よっぽど鬱憤が溜まってたんだね。お姉さんの剣幕に、ギルド長は真っ青になっている。


「襲ったというのは、彼女たちに…かい? いや、御者も怪我をさせられているんだっけ」


 衛兵長の言葉に、コクシンがちらりと俺の方を見た。言っていいのか?ってとこかな。コクリと頷く。


「それは、多分これを奪いたかったんでしょう」


 ポンポンと腰のポーチを叩くコクシン。


「魔法鞄です」


 居合わせた人たちが息を呑む。冒険者じゃなくても、高価なものだって認識はありそうだ。


「まさか、それなら襲われて当然だとか、言いませんよね?」


 チロリと冒険者ギルド長を見る。青い顔のままコクコクと頷いた。


「欲しいから殺して奪い取るなんて、そんな本能直結な思考をするとは思いませんでした。御者さんまで襲ったのは、ついでに彼女らを手に入れようと思ったんですかねぇ、護衛さん?」


 さっきから目が覚めてるの、気付いてんのよ?


 両側に衛兵を侍らせ、簀巻きになったままのリーダー。一斉に向いた部屋中の視線に、「ひぃっ」と喉を鳴らした。ミノムシのまま「た、助けて」とか言ってる。何にビビってんだ?


「おい。なにか言いたいことがあるなら今のうちだぞ。お前らはこの後犯罪奴隷として引き渡される」


「「そんなっ」」


 衛兵長の言葉に、リーダーと冒険者ギルド長の悲鳴が重なった。


「当たり前だろう。一般人が巻き込まれてるんだ。御者は死にかけてる」


「ぐっ、し、しかし…」


 冒険者ギルド長はなんとか食い下がろうとしているが、言葉が出てこない。


「ち、違うんだ! 買い取ろうとしたんだが、断わられてカッとなって…」


「そんな話したことありません。しかも、それじゃあ御者さんまで襲ったことの理由になりませんね。カッとなって、皆殺しならしょうがないですむとでも?」


「そ、そうは言ってな…」


「しかもあんた、2人に指示してやらせて自分の手は綺麗なままでいようとしましたね。あ、指示しただけだから無実だとか言わないでくださいよ。あんたが殺せだのなんだの、嫌がってる2人に指示してたんだから。あんたの罪が一番重いよね?」


「うぅ~」


 はー、ちょっとスッキリした。いや俺もさ、これでいてずっと緊張してて、これで御者さんが亡くなってたら、故郷に帰ってたかもしれない。いや、森の中で隠居のほうがいいか。


 そんな俺の心情を察してか、コクシンがポンポンと頭を撫でてくれる。今はやめて。


「弁明は…? ないならこれで終わりだ」


 衛兵長のお言葉。


「た、助けてくれ! 俺はこいつに無理矢理!」


 突然魔法使いが騒ぎ始めた。


「難癖つけるのも、荷物から金を掠め取るのも、女にちょっかい出すのも、全部そうしろって脅されてたんだ!」


「おい黙れ!」


「う、うるさい! お前ばっかりいい目みて、俺たちは見張りや盗みばっかりだ! 報酬金だってお前が使い込むから、俺たちはちょっとしか貰えない。そのくせ文句を言うと殴られる! お前のせいだ!」


「な、このやろう!」


「お、俺もだ! 何でも喋る! だから奴隷だけは!」


「裏切るつもりか、貴様らぁ!」


 うるっさい。

 なんか今、サラッと罪状増えてたよ?

 ミノムシが3つ、ウゴウゴしながら相手を貶し合っている。もう正直聞いていたくない。


「…あとはそっちにおまかせするので、帰っていいですか?」


 ため息をついている衛兵長に丸投げしておく。ちなみに冒険者ギルド長は、頭を抱えてなにか呪いの言葉みたいなのをブツブツ言ってた。嫁さんがどうとか言ってた。減給か左遷かクビか。グルだったら奴隷行きかなぁ。


 「お疲れ〜」と詰め所を出たところで、お姉さんたちとも別れる。食事に誘われたけど、ごめんねしといた。御者さんと馬車ギルドの人は、深々と頭を下げてくれた。無事で良かったね。冒険者ギルドとの関係も改善するといいね。


「乗合馬車が嫌になったんじゃないか?」


 コクシンの苦笑に、俺はため息しか出なかった。


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