討伐完了
達成感に和んでる場合ではなかった。
奴らを縛り上げるのはコクシンに任せ、俺は御者さんを探す。木に繋いだ馬の近くに倒れているのが見えた。
「大丈夫ですかっ」
駆け寄ると、「うぅ」とうめき声が聞こえた。とりあえずは生きている。後頭部が血に濡れていたので、何かで殴られたのか。
中級の回復薬を取り出し、栓を抜いて傷口に直接ぶちまける。回復薬は飲んでも傷に直接かけても効く。はたしてこれで陥没骨折が治るのか、脳に影響がないのか、そこまではわからない。
「う、な、何が…」
意識が戻ったようだ。
「まだ動かないで。頭を打っています」
「レイト!」
「コクシン。彼を馬車へお願いできる? 出来るだけ、揺らさないように」
「分かった」
そっと御者さんをお姫様抱っこするコクシン。重そうな素振りも見せない。ちょっと悔しいのは内緒だ。
「大丈夫?」
馬車に戻ると、お姉さんたちが場所を空けてくれた。横になってもらって、もう1本中級の回復薬を御者さんに渡す。
「ゆっくり飲んでください」
一瞬戸惑い、彼はちびりちびりと飲み始めた。お金を気にしたのか、めっちゃ苦い味を知っていたのか。
中級の回復薬はだいたい金貨1枚前後する。初級から一気に跳ね上がるが、それだけ効果もある。千切れかけた腕がくっついたとか、貫通した傷も癒やすとか、聞いたことがあるだけだけど。
ちなみに蘇生薬はない。
「あいつらどうする?」
コクシンの言葉に、うーん、と悩む。
正直、放っておきたい。まだ行程は残ってるし、御者さんも万全ではない。雨は上がりそうだが、道はぬかるんでいるだろう。そこを犯罪者を引き連れていくとか、面倒臭すぎる。が、連行して説明したほうがいいんだろうな。
元から野盗なら、斬り捨てるのに…。
とりあえず、夜が明けるのを待つことにした。俺とコクシンで見張りに立つ。御者さんとお姉さんたちは恐縮してたけど、慣れてるから気にしないでね。
朝だ。雨が上がり、日が差し始めた。
馬車から離れたところに、護衛改め盗人たちが3人まとめて、木に縛られていた。うるさかったので、猿ぐつわ的なものをしてもらっている。濡れ鼠で、リーダーの顔色は蒼白だ。…そういえば、治療してやってねーや。潰れてるのかな。ナニがとは言わないけど。
ありもので適当に朝食を摂る。
「問題は、どうやって運ぶかだなぁ」
当然歩かせるのが手っ取り早いが、足が遅くなる。護衛が居なくなるので、それもどうにかしないといけない。
「御者さんは?」
「御者台に乗っているだけならなんとか」
特に後遺症はなさそうだが、ダメージが精神に来ているのか、顔色は良くない。
「うん。馬のお世話は任せておいて。向こうの馬も見ないといけないし」
一応、水と餌はあげてきた。扱いが雑だったのか、尻のあたりが一部擦り切れてしまっていた。なので初級回復薬をあげてきた。馬からしても苦いのか、ひんひん言いながらも飲んでくれた。
「俺とコクシンで護衛するとして、あいつらを馬車に積むのは…」
「しょうがないわよ。縛っとけば大丈夫でしょ。私たちが見張っとくわ」
「護衛は私だけでいい。レイトは馬車に乗って、後ろを警戒してくれ」
うーん。仕方ないな。それが最善かな。念のため、あいつらには眠っといてもらおう。いつぞやお世話になった眠り薬。依頼ついでに採取して作っといて良かった。
粉状の物を少量の水で、こねこね。出来ましたこれを、鼻に詰めます。むぎゅ。暴れないでください、両方に詰めるぞコラ。むぎゅ。あ、猿ぐつわは外しとく。窒息死されると困る。むぎゅ。
数分でイビキをかく人体の出来上がりです。
「…レイト、時々やることがえげつないよな」
失礼な。なぜドン引きか。関節全外しでもええんやぞ?
念のため簀巻きにした3人を馬車に担ぎ込む。やつらの馬の1頭にコクシンが乗り、馬車の前を走る。もう1頭は馬車の後を付いてこれるように繋いでおく。
ゴトゴトと馬車が進んでいく。付いてくる馬も、乗り手が居ないからか軽快な走りだ。このまま行けば昼過ぎには着くだろうということで、ひとまず安心。ごーごーという不快なBGM以外は快適だった。
カズンの街に着いた。
こぢんまりとした街だった。街なかに緑が多い。新築したばかりだという塔が目立っていた。
門番に事の次第を説明する。慌てて関係各所を呼んでくるから、ちょっと待っててくれと言われた。お姉さんたちも、説明のために残ってくれている。
待っている間、お利口に走ってくれていた馬たちを労う。ちょっと飛ばしたからね。うんうん。君たちは蹄鉄やり直してあげたほうがいいねぇ。やつらの持ち馬なのかな。レンタルにしては、小汚い。
まずやってきたのが、御者さんが所属する乗合馬車ギルド。冒険者ギルドと同じくらい、各地にあるギルドだ。貸し馬車をしているところもある。
「ドア! 襲われたって!? 大丈夫かい」
御者さんはドアさんというらしい。やってきた小太りの男性が、ドアさんの周りをぐるぐる回る。
「ああ。大丈夫だ。こちらの人が中級の回復薬を分けてくれてね。ちょっとばかしハゲが残っただけだよ」
回復薬では毛は生えないらしい…。
こちら、と、俺とコクシンが並んで立っていたのだが、小太りの男性は完全にコクシンの方を見ている。いいのよ。コクシンも言い直さなくていいのよ。
「いや、すまない。うちのものが世話になった。代金は必ず払うよ」
「はぁ、でも勝手に使ったし、お気持ちだけで…」
「そうはいかないよ。ドアも馬たちも失うところだったんだ」
「分かりました。数日は居るつもりなので」
「急ぐのかい?」
急ぎはしないけど、まだここニッツと同じ領なんだよね。出るならさっさと出たいし。
そんなこんなを話していたら、冒険者ギルドの人たちと、衛兵の上の方の人が来た。ちらりとコクシンを見ている。知り合いかな。面倒なことにならないといいんだけど。