見ないでっ!
本日の晩御飯は、山鳥の香草焼きと、なんちゃってすいとんです。昼に仕留めておいた山鳥を、香草とワインとバターで仕上げております。魚醤っぽいのを見つけたので、すいとんも作ってみました。
「豪勢だな」
コクシンへの借金(気持ち的に)返済のためにも、知識をフル稼働させて、頑張った。食材に関しては自由にしていいと、高い胡椒も買っていいことになった。コクシン太っ腹。本当に太らせないように気をつけないと。
「いただきます」
山鳥は文句なしにうまい。弾力のある肉を噛むたびに、肉汁が出てくる。ちょっと味付けが濃かったかも。山鳥自体に味があるからかな。
すいとんは、好き嫌い分かれるかも。魚臭さが気になる。でも俺は好き。そういえばこっちに来てから、魚を食べていない。川魚もいないのかな。食べたくなってきた。
「どう?」
コクシンはうんうんいいながら食べてくれている。美味しいってことかな。でもすいとんの減りがいまいちだな。改善頑張る。
「美味しそうねぇ。乗合馬車でそこまで本格的な調理する人、初めて見たわ」
お嬢さんが羨ましげに見てくる。あげませんよ。物々交換なら考える。俺は女性だからといってむやみに奢ったりしないよ。
「これで頂戴」
渡されたのは飴玉だった。この世界にあるんだなぁ。っていうか、砂糖高いんじゃなかったけ? 聞くと穀物から取れた甘味だって。高いことは高いけど、お客さんからの貰い物だそうな。
お返しに山鳥の方をあげる。それだけだとあれなんで、試しに作ってみたクッキーもどきも付ける。バターを手に入れたときに作ってみたやつだ。
「あ、これ美味しい」
両方好評でした。良き良き。
生活魔法の水で洗い流して、お皿やフライパンなんかをしまっていく。コクシンの腰に付けられた魔法鞄を、ガン見している護衛リーダー。仕事しなさいよ。
「すげぇもん持ってるな。それ高いんだろう?」
獲物を見る目だ。やだねぇ。
こういうのがあるから、なるべく隠す?という提案もしたのだが、結局ダミーの鞄を持ち歩いたりするのが面倒、と大っぴらに使うことにした。
危険より便利が上回った。
「取ろうとしないでね。モゲるよ」
舌なめずりする勢いの男に、牽制。
「は? モゲるって何が?」
「ナニが」
すっと視線を男の股間にやる。見たくねーけどしょうがない。視線の意味に気付いたのか、「ひっ」と内股になった。
「な、なん…」
「曰くつきのものでね、くっついてる主から離そうとしたり危害を加えようとすると、もいじゃうんだって」
怖いよねぇ。と笑うと、男は内股のまま後退った。
「お、俺は何もしてないぞ! 見てただけだからな、うん」
視線が魔法鞄に向いている。本気で呪われた鞄だとでも思ってるのかな。
男が去ってから、コクシンが気味悪そうに「そうなのか?」と小声で聞いてきた。いやなんであんたも信じてんの。そんなのギルドが売り付けるわけ無いじゃん。
「嘘に決まってるでしょ。あれ絶対コクシンから奪おうとしてたよ。ああ言っとけば、少なくとも寝てる隙に盗ろうとかはしないでしょ」
「ああ、そういう…」
そんなピンポイントに決まる呪いとか怖いわ。なんかガールハントに命賭けてるみたいだったから、下半身の話題にしてみた。
何事もなく、夜が明けた。実際近くをウロウロしている気配はあった。俺たちに挟まれるようにしてお嬢さん2人が寝ていたから。いや、なんか身の危険を感じたらしくてね。まぁ分かる。あいつら胸しか見てないもんね。
そんなこんなで朝食。円パンに干し肉をふやかしたものと、パリッと葉野菜を詰めてパクリ。マヨネーズ欲しい。この世界の卵は安全なんだろうか。スキル『浄化』とかあったらいいのにな。
昼前から雨が降り始めた。俺はてるてる坊主になって、用足しのついでに晩ご飯用の肉を探していた。しかし鬱陶しい気配がある。護衛の1人が付いてきている。気づいているよ、という素振りをしてるので、何かしてくることはない。
獲れたのは、蛇だけだった。これは故郷でも獲ってきたやつだから、食える。一応、皮を剥いで肉の状態にしとこう。
夜。蛇肉の蒲焼は、まぁまぁだった。少なかったので干し肉も食べた。雨の日は食事が寂しい。
雨はまだ降っている。俺たちは馬車の中で休んでいた。御者さんは御者台にカバーを掛けて休んでいる。護衛達は、もちろん護衛なので外だ。
ぎゃっ!!
不意に眠りを割く悲鳴が聞こえた。がばりと俺とコクシンが同時に跳ね起きる。遅れて女性2人が起き、お互いを抱くように身を寄せた。
「そのままで」
出ていこうとしたら、コクシンが首を振って自分を指した。頷き、外を窺う。誰も居ないことがおかしい。あいつらどこいったんだ? というか悲鳴の主は…。
御者は?と前から覗いたら、居ない。
そろりとコクシンが滑り出る。
「あ、あたし達は大丈夫だよ」
彼女はそう言ってくれるが、流石に放置もできない。
ぎいん!
離れたところで甲高い音が響いた。剣を打ち合った音だ。人相手ならコクシンに任せておいて大丈夫。
ふいに、人が馬車の後部に取り付いた。口元を覆っていたが、護衛の1人だとまるわかりだ。短剣をこちらに突き付けてきた。確か杖を持っていたやつだが。
「おい、大人しくして…ぎゃん!」
するか。ボーリングサイズを顔面にぶつけてやった。もんどり打って後ろに倒れる男。
「おい、さっさとやれ!」
これはリーダーの声だな。
「い、いやだぁ、モゲたくない〜」
これはもう1人の、双剣使い。っていうかあいつ最低だな。自分がもげたくないからって、人にやらせてやがる。わざわざ3人に聞こえるように言ってやったのに。
天誅は首謀者に向くものだよ。
暗闇に目が慣れると、外にいる3人の姿がハッキリ見える。雨はまだ降っていた。彼女たちを振り返ると、こくりと頷いてくれた。
音をさせないよう滑り出る。剣を交える2人をリーダーが野次を飛ばして見ている。まるっきり馬車の方は警戒していないな。コクシンは余裕そうなので大丈夫。
闇に紛れて回り込む。
指を指し、やつのナニにロックオン。
「ぎゃー!!」
男が股間を押さえて蹲る。気を取られた双剣使いをサクッと叩き伏せ、コクシンがこちらを見た。水も滴るいい男である。