いいコンビだよ
はい。というわけで、てるてる坊主とキラキラ王子様という珍コンビが発足しましたよ、と。
いや、マジかー!
ギルドに止めてもらおうと思ったのに、「あ。いいんじゃないですか」と、すんなり受け入れられた。なんでもちっこいのが外に出てるのとか、危なっかしかったんだって。元衛兵なら任せられるって、ギルド長からゴーサインが出た。泣いていいですか。
ちっこくないよ!
よいしょ。踏み台常備してくれてて助かる。
「コクシン。それ違う」
葉っぱを摘もうとした手が止まる。
「ほら、裏に斑点あるだろ? これはニセウツギ。薬効はないよ」
「え、うーん。じゃあ、こっちは?」
「ウソウツギ。毒があるよ」
「…なんで見分けにくいのが同じところで茂ってるんだ」
コクシンが頭を抱える。それは植物の生存競争だから、どうしようもない。どの薬草にも、大体似て非なるやつがいる。虫に喰われにくくなるとか、逆に喰われることで生存域を広げるとか。
プチプチと葉を毟りながら、「慣れだよ、慣れ」と笑う俺。
コンビになった際、敬語や遠慮はなしにしようということになった。流石に戸惑ったが、コクシンが楽しそうなのでいいことにする。
俺はようやくEランクに上がった。コクシンもEランクだ。元衛兵という実力を鑑みて、Eからということになったらしい。
「採取は難しいな」
それでもコクシンは俺に聞きながらせっせと葉を摘んでいる。年下に教わることに、なんの抵抗もないらしい。偉そうにしたり、知ったか振りをしたりもない。そういうところ、本当にすごいと思う。
「っ、コクシン警戒!」
不意に聞こえた俺達以外の音に、コクシンは慌てず右手を柄にかけた。周囲を探る。コクシンも俺も索敵はない。目と音が頼りだ。
「…鹿?」
呟きが聞こえるとともに、俺の目にもそれが捉えられた。
子犬くらいの大きさの小さな鹿だ。ただし、子鹿ではないし豆鹿でもない。
「魔物だよ。すばしっこくて!」
目が合った途端、ダンっと踏み込んできた。頭の、体格の割に立派な角を俺に向けて。それを身をひねることで躱し、腰のナイフを抜く。
「すっごい好戦的なんで気を付けて!」
再び俺に向かってきた。いやなんで俺よ!?
がふっ!
飛び込んできた鹿の頭が、コクシンの剣の鞘でかち上げられる。ちょっ、それあぶないっ! 角が目の前をぐいんって通った!
俺の焦りはともかく、いいのが一発入った。脳震盪を起こしたのか、クラクラしている。
「角は折らないでね。肉は食えるから」
頷き、コクシンが斬りかかる。
ずばぁ!!
「いや、なんで真っ二つぅ!?」
思わず叫んだ。
あれ? という顔でコクシンがこっちを見る。
「肉食べるって言ったじゃん」
「だから、切り刻まなかっただろう?」
え、なに。細切れがデフォなの? 怖っ。あなた今まで人間の相手してたんじゃないの?
「流石に人は切り刻まない。基本、魔物は排除対象として学んでいたから…」
まぁそうか。兵士が出張るときは、ちまちま素材取ってられない事態の時だよね。
かりかり困ったようにこめかみを掻くコクシン。悪気ないのはわかるんだが。冒険者は、素材が大事ですよ。あと、肉。こいつの肉は筋張ってるけど、煮込むと美味しいと聞いたことがある。
コクシンに見張りをしてもらいつつ、解体していく。まず、角。これは薬になるし、装飾にもなる。腹から内臓を抜き、血抜きも済ませて埋める。あ、皮も剥いで捨てとこう。はっ、そういや魔石! 掘り返して魔石をゲット。だいたい心臓の近くにある。
「手際がいいな」
「そのうちコクシンにもやってもらうからね。大きい獲物とか、俺無理」
馬乗りになって捌くとか、嫌すぎる。
生活魔法で水を出して、血を洗い流す。
「そういえばコクシンって、風魔法で匂いを散らすとかできる?」
「? なんだって?」
「だから、こう捌くと血の匂いがするだろ? それに他の魔物が寄ってくるから、風魔法で散らせないかなって」
「……?」
うん。これは通じてないし、出来ない感じか。お皿を作ったりしたときも不思議そうにされたけど、俺のは応用が行き過ぎるらしい。
「風魔法というのは、こういうのだぞ」
コクシンが手の平を突き出す。ぼふんっと音がして、数m先の木の皮が弾けた。
「あと、こういうの」
地面に手を向けると、コクシンを中心にした小さな竜巻ができた。草を散らしてすぐに消える。
「ふんふん。それから?」
「……」
え、マジで? 終わり?
衝撃の事実にぽかんとする俺を、憮然とした表情でコクシンが睨んでくる。
「…だから、風魔法はあまり人気がない」
いやいや、えー? カマイタチすらないってこと? 風魔法最強よ? だいたいこういうのって、自然現象から真似しようとするんじゃないんだろうか。ないのか? 俺がゲーム脳すぎるってのか?
「えーと、じゃあ、風で、こういう形の刃をイメージした物を飛ばす…感じやってみて。あ、人がいないところに向けてな!」
地面にガリガリと三日月を描く。こっちが向かう先でー薄さはこれぐらいでーと説明していく。やって見せることができればいいのだが、チートじゃない俺には使えない。
「えーと、薄い、風の刃…」
ぶつぶつとイメージをふくらませるコクシン。多分出来る。真面目な彼は“出来る訳がない”とは考えない。たぶん、俺が言うのだから出来るはずだと考える。あとは魔力操作の精度か。スキル化はしていないけど、制御出来てるからそのうち付くんじゃないのかな。
しゅっ!
風が空気を割く音がした。ただ目標とした木にダメージはない。なにか掴んだのか、二度三度頷く。
ぱしゅっ!! びしっ!
今度は木に刃傷のようなものがついた。俺の目にも、斬撃のような白い線が飛んでいったのが見えた。
「レイト!」
「うんうん。そんな感じ。コクシンすごいな、これだけで出来るようになるとか」
嬉しそうに振り向くコクシン。犬か君は。ないはずの尻尾が見えるぞ。
「もうちょっとスピード上げてみて。俺のイメージ的には、さっきみたいに真っ二つに出来るくらいの威力があるはずなんだ」
頷いたコクシンがもう一度構える。と、グラッとその体が揺れて蹲ってしまった。びっくりして駆け寄る。
「コクシン!?」
「あー、頭割れる…」
「あ、魔力切れか。ゴメン、休憩、いや、依頼の分は摘んだし、もう帰ろう」
新しいことするときって、魔力多めに食うんだよな。楽しくてつい忘れてたわ。




