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舞い散る花


 桜っぽく見えたけど、近づいてみると桜よりひとつひとつの花が大きい。白い花びら四枚が大きく開いていて、雌しべや雄しべらしきものはなく枝に不規則にくっついている。葉っぱはなく、つぼみ状態のものもひとつもない。

 なんか、とりあえず花を咲かせといた! みたいな感じ。香りもない。


「すごぉい」


 ミルコが目をキラキラさせながら見上げている。


 うん。すごくはあるな。ひっきりなしに散っていく花は、見事としかいいようがない。だがちょっとばかしチープな気もする。


 首が痛くなったのか、ミルコは四つ足から座り込んで真上を向く体勢になった。そんなミルコをコクシンがそっと抱き上げる。片手に剣を持ったまま。

 シュヴァルツはラダに登って、そろってポカンとしている。まあ、シュヴァルツは見た目変わらないけど。

 てか。


「いや、俺はいいから!」


 コクシン、こっち見ない! 大丈夫。こんなところで座り込んだりはしないから。さすがに抱っこはもうご勘弁願いたい。いや、最初からだけど! まあ、いざというときは小脇に抱えてダッシュしてもらって構いませんが。歩幅の問題でな!


「きれいだけど、不思議な花だね」


 ラダがスッと手を上げて、ふわふわと舞い落ちてくる花を手に取ろうとする。

 確かに、植物の法則をいろいろ無視してそうだ。


「えっ、なにこれ」


 花がラダの手のひらの上ですうっと消えてしまった。

 不思議な光景に、俺もわくわくと手を伸ばす。


 桜のように花びらが散っているのではなく、花ごと落ちてきていた。軽いのか、ゆるくカーブを描いた花が右に左にふわんふわんと揺れる。

 タイミングを合わせて手のひらの上に受けると、触った感触がないくせに、触れたと思った瞬間に消えていった。


「幻影か何かかな?」


「……存在はしているようだが」


 首を傾げる俺の横で、コクシンが剣を持っている右手を軽く振る。その動きで風が起きたのか、舞い落ちてくる花が軌道を変えてゆらりと揺れた。


「ふぅん。不思議だね、触れないけど確かにある、なんて」


 ラダが棒をぶんぶんと振った。棒に当たって消える花、ふわりと避ける花、我関せずと散る花。

 っていうか、ラダには花を愛でる感情ないのか?


 ざあっと一瞬強く風が吹いた。

 一斉に白い花が舞い散る。


 桜吹雪って、こんな感じだっけな。ふと考える。

 桜、花見、というワードにあまりなじみのない俺は、そういう行事に無関心な人間だったのかもしれない。なんか、テレビのなかの出来事って感じだ。

 でもさっきの桜吹雪に似た光景は、見たことがある気がした。どこで見たんだろう。


「レイト?」


 手を前に出したままぼーっとしていた俺をコクシンが覗き込む。パチパチとまばたきをして、それから「きれいだね」と声に出した。


「……そうだな。だが、じっくり見ていることができないのが残念だ。ザルツさんたちは酒盛りをしていたようだが……」


 俺から目を離さないままコクシンは小さく頷いた。それから木を見上げ、ついでのように右手を振った。

 ギュッと声を上げながらオオミミネズミが吹っ飛ぶ。

 うん。残念ながらこの幻想的な風景に水を差すオオミミネズミの襲撃は相変わらずなのだ。ぼーっとしている場合じゃない。花を楽しみつつオオミミネズミをぶん殴らないといけない。


「このなかで酒盛りしてたとか、逆にそっちのが不思議に思えてくるよね」


 オオミミネズミが強者の気配を察知して寄ってこないんだろうか。それか、ハエを払う牛のシッポ如く、無意識レベルでペシペシしていたのかもしれない。


「下りる、下りる」


 ミルコはもう花に飽きたらしい。腕を緩めたコクシンから滑り下り、たったかと周囲を走り始める。


「花踏めな〜い!」


 きゃっきゃと笑い声が上がった。

 舞い落ちる花は触れることができないのに、下草の上には降り積もっている。だがそう見えるだけで、こっちも触れないらしい。


「ホントだ」


 ラダが降り積もった花を蹴り上げるが、花は一つとして乱れない。一定時間経つと消えるのか、見ていた花がすうっと消えた。そしてまた花が静かに草の上に舞い降りる。


「なんなんだろうね。ただ花が散るだけなんて」


「特別何かがあるわけではないとは聞いていたが……」


 冒険者ギルドで色んな人に聞いてみたが、眺めることしかできない、意味がない仕掛けということだった。ダンジョンだからそういうこともあるだろうさ、みたいな感じで、誰も気に留めていない。

 触れないから回収することができないし、安全地帯というわけでもなさそうだ。

 そういえば、ザルツさんは『白い小さな花弁が降り注ぐ』みたいな表現をしていた気がする。微妙に見た目が違うな。


「あ。木は触れるんだ」


 ペタリと幹に触れてみると、普通にカサカサの樹皮の感触が返ってきた。でも剥ぐことはできなさそう。かさぶたのような一部に爪をかけてみたが、びくともしない。


「本当だ。……えいっ!」


 同じようにペタリと触ったラダが、おもむろに棒を振り上げた、と思ったらフルスイングした。殴られた幹がぼぐっと鈍い音を立てる。


「うぉぉい!? いきなり何してんのっ?」


 びっくりして飛び退ると、ラダはえへっと笑った。


「こう、何か刺激を与えたら変化があるかと思って」


「思ってもいきなり殴るなよ、危ないなぁ」


「レイトに当てるようなヘマはしませんー」


「そうじゃない。そっちじゃなくて……」


 木を殴りつけるのは良くないぞ。いや、良くないことだよな? この世界でも普通しないよな? あ、今クワガタ落とすのに木を蹴った記憶がよみがえったぞ。ごめんなさい!


「……っ! レイト!」


 急にコクシンに名前を呼ばれたと思ったら、腹を抱えるようにして体を持ち上げられた。


「はえ?」


 わけがわからない俺を小脇に抱えて、ぐんっと木から離れるようにバックステップするコクシン。


 離れたらすぐになににコクシンが警戒しているのかわかった。木がブルブルと震えている。前世で見た、機械で強制的に木を揺らして実を収穫するシーンのようだ。揺さぶられてどんどん花が振り落とされていく。


「え、なになになに? 怖っ」


 一拍遅れてラダも飛び退った。怖ってどうみてもフルスイングが原因じゃね? ナニアレ、みたいな顔で俺とコクシンの後ろにそそくさと隠れないでくれる?

 ミルコ……は、ちゃんと離れてるな。

 木は相変わらずブルブルしている。


「魔物だったとか? てか、コクシンありがとう。下ろしてくれていいよ」


 俺を抱えたままだと剣を使いにくかろう、下りますよ。下りますよ? いや、下ろして?


「鑑定は?」


「は? あ、忘れてた」


 下ろす気はないらしいコクシンに言われ、抱えられたままポムと手を打つ。

 声をかけるついでとばかりにコクシンが剣を振った。俺の後ろでオオミミネズミの声がする。もう面倒くさくなってドロップアイテムを拾わなくなった。ここのは大した金額にならないし。そのうちダンジョンに吸収されちゃうだろう。


 鑑定はつい忘れるんだよな。便利だけど、なんだろうとわいわい話す時間が嫌いではないし、謎は謎のままでも問題はない。

 とりあえず安全か危険かが分かれば良し。というか、食えるか食えないかが分かれば良し。いや、危険かどうかを鑑定で見極めるためにも忘れちゃいけないんだが。まあ、今まで何千何万という人たちが立ち寄った場所ではあるだろうから、危険はないはず。


 では今更ながら鑑定。


 へ〜。


 ミルコ経由のシュヴァルツ判定では魔物ではないそうですが、はてさて。


『コウコウカ

ダンジョン内を移動する幻想木。見る人によって多少木や花の形状は変わる。散っていく花は触れられず、意味はない。

木には周辺の空気を清浄にする機能があるが、プレニアヌダンジョン三階層はもともと空気が清浄なので意味はない。』


 えーと、今現在欲しい事象については何もわからないんですが。なんでブルブルしてるのか、そこんところが知りたいんだが。

 っていうか、意味はないって二回も言われてるけど、コウコウカさん、そこんところどうなの。


「どうだ?」


 コクシンに聞かれて、とりあえず得た情報を共有する。


「……清浄」


 コクシンが首を傾げた。どう反応していいやらって感じだよね。


「それが本当なら、アンデッドダンジョンにこそあるべきだと思うが」


「それな」


 以前潜ったことのあるアンデッドダンジョン。鼻がバカになるくらいの臭気が大変だった記憶がある。そういえば消臭剤とか作っちゃったな。

 空気清浄機能が臭いにも有効なら、階段途中の安全地帯にぜひとも欲しかった。そしたらもっと快適に探索ができたんではなかろうか。


「でも、離れられなくなりそう」


 ラダの言葉に、それもそうだなと頷く。そういや鼻がリセットされると大変だったんだ。あのダンジョンはアレでいいのかもしれない。もしかしたら、俺たちが行ってない階層にはあったのかもしれないし。

 それとも、プレニアヌダンジョン固有種だろうか。


「花落ちちゃったー」


 ミルコが残念そうに呟く。

 俺達が鑑定して考察とも呼べない雑談をしている間も花は散り続け、枯れ木の様相になってしまった。


「あっ、木が!」


 ずむんと沈んだ。


 いやいやいや、木としてどうなのその挙動。


 真下に沈んだ幹は、音もなく地面に吸い込まれていく。わさっと広がっていた枝は穴に合わせてきゅっとすぼまり、つっかえることなく沈んでいった。ものの数秒の出来事だ。


 何事もなかったかのように木が沈んでいった地面の穴はふさがり、気付けば草の上に降り積もっていた花は一つもない。


「お花、どっか行っちゃったね」


「……行っちゃったね〜」


 ミルコのさみしげな言葉に同意し、心のなかでは盛大に「え〜!?」と頭を抱えていた。謎を増やされて撤収されたぞ、おい。

 どこ行ったのよ。殴られたことが原因なの? それともタイミングがたまたま合った? わけわかんないんですけどー!


 ぐーっとラダの腹が鳴った。釣られて俺の腹も鳴った。


「よし。じゃあ、四階層に向かおうか」


「階段でご飯だね!」


 切り出したコクシンに、ラダがおーっと手を挙げる。それにミルコとシュヴァルツが賛同するように手を挙げた。


 なかったことになってるぞ、コウコウカ。感動の舞い散る花が腹の音で一気に霧散したぞ、コウコウカ。


 ……まあ、そのうちどこかで見かけるだろう。

 宝箱には関係なさそうだし、ダンジョン七不思議として頭の片隅に置いておけばいいか。


「ご飯、何するー?」


「そうだなぁ」


 



お読みいただきありがとうございます。

リアクション、感想、評価、誤字報告感謝です。


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― 新着の感想 ―
久しぶりの更新ありがとうございます 人によって見る花が違うとなると小さな花の核とか綿毛みたいのに幻影が被さっているとかですかね?風で花が動くならどうにか回収出来そうだけど。
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