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あなたの怖いってなんですか

 元ギルド長と現ギルド長が青い顔をしてソファーにぐったりと座っている。受付嬢さんは出ていってしまったので、部屋には俺たちしかいないのだが、これ、人呼んだほうがいいんだろうか。回復薬いる?

 ソワソワしていたら、アルゴおじいちゃんのほうが先に復活した。


「思ったより強烈だな。……ああ、大丈夫だ」


 回復薬は常備しているらしい。脇の棚から二本取り出し、一本をまだ青い顔で俯いている現ギルド長の前の机の上に置いた。もう一本を開けてぐいっと一気に飲むアルゴおじいちゃん。

 回復薬は、気力というか、精神的なダメージもいくぶんか軽減させてくれるらしい。


「すみません、あの三人が触ったあともケロッとしていたので、ここまでのものとは思わず……」


 とりあえず謝る。アルゴおじいちゃんは手を振って苦笑した。


「いや、触ると言ったのはわしらだ。甘く見とったようだ。いや、経験の差かね……」


 あごに手を当てて首を傾げる。その傍らでようやく復活してきた現ギルド長が、がしっと回復薬の瓶を掴んで口を付けた。『あ゛~〜』と絞り出すような声が漏れる。

 宝箱に俺たち以外が触ると怖い思いをする、その間動けなくなる、という漠然とした認識しかなかったが、人生の経験値によって『怖い』の感じ方が違うのかもしれない。


 すっとコクシンが耳元に口を寄せてきた。


「固まるあの状況については情報ないのか?」


 俺はこくりと頷いた。宝箱を何度鑑定してもそれに関しては何も出てこないのだ。俺たちが持ち主だからだろうか。だとしたら、もし誰かに委譲できたら、また鑑定結果が変わるかもしれない。


「ちなみに、何を見たのかお伺いしても?」


「あ~、わしはあれだ、昔死にかけたときの瞬間だな。予期していなかった魔物に襲撃を受けて、仲間が目の前で……な」


 教えてくれないと思ったら、アルゴおじいちゃんはすんなり口にした。自嘲するように口角を上げたものの、すぐに首を振って顔をそらす。


「覚悟はしていても実際に目の前で起こると動けなくなるもんでな、命からがら他の仲間に引きずられて逃げた。昔はよく夢に見たが……。まさかそれを引きずり出されるとは思わなかったよ」


「……俺は、妻と娘が出てきた。呪いなのか毒なのか、二人の体が黒く蝕まれていく……俺は何もできずそれを見ているしかない。そんな情景だった」


 ギルド長は額に手を当て、長い息を吐いた。


「現実にあったことじゃない。つまり、触った人間が恐怖を感じた場面、恐怖に感じること、二度と触りたくないと思わせる何かを見せるんだろうな」


 それが事実なら、あの三人組、いや触ったのは二人だったか、はどんだけ精神耐性があったんだって話だが。もしくは経験値の差で、ホラーハウス程度の恐怖しか感じてなかったのだろうか。それにしたってメンタル強強でなかろうか。長年のギャンブル生活で身についたのかな。

 ギルド長もそれに思い至ったのか、ニヤリと唇を歪めた。


「せいぜいいい実験た……いい練習台になってくれるだろうよ」


 実験体って言おうとした……。



 改めて宝箱の話に戻る。ギルド長二人は、見つけた場所を記した地図を見ながら、「探索し尽くしたと思っていたが、見つかるもんだな」と首をひねっている。


「出てくる魔物がそう強くはないから、みんな素通りしてしまうのかもしれない」


「ふむ」


「というか、位置的にミルコサイズの子がいないと見つけられないね」


 コクシンの言葉にアルゴおじいちゃんが頷き、さらに俺が付け加える。正直そんなパーティーが俺たち以外にいるのだろうか。まあ、隠し通路が見えるスキルか魔法があれば発見できるかもしれない。聞いたことないけど。


「それで、中身がこれか。お宝……にはとても見えないが、この文面は面白いな」


 俺がぱかっと蓋を開けて見せたオカリナ。地上に持ち出しても相変わらずの鈍色だ。ついでに文言が書かれたカードも見せた。念の為触らないようにしてほしいとは言ってある。


「『岩の蓋を開けよ』か。これは、七、八階層のことか?」


「ふむ。かもしれんな」


 現ギルド長、今更だがナルゴさんというらしい。ちなみにアルゴおじいちゃんとは血縁関係ではないそうだ。

 現ギルド長の言葉にアルゴおじいちゃんが鼻メガネをいじりながら頷く。


「これだけでわかるんですか?」


 俺がそう聞くと、「ちょっと待ってろ」と言い置いてアルゴおじいちゃんが部屋から出ていった。振り返って見送ったら、なんかドア付近……部屋を囲うように? 光の膜みたいなのが見える。


「ああ、あれは防音の簡易結界だ。外の音は入ってくるが、中の音は漏れない。これは、そういう話なんだよ」


 前かがみだった体勢を戻しながら、現ギルド長は「これ」と宝箱のすぐ近くの机を指でコンコンと叩いた。


「え、そんなヤバい話!?」


 なぜかラダが仰け反る。口元に手を当てていつもの「ふぇぇ」ではなく、「ひぇぇ」になっていた。


「そうだ。だからお前たちも人がいるところで出したりぺらぺらしゃべるのは止めとけよ。ああ、あの三人組はきっちり忘れさせてあるからな」


 どうやって忘れさせたのか非常に気になるが、怖いから知らんぷりしておこう。

 というか、めっちゃレア物ってことか。所持してる事自体が狙われる可能性になるってことだよな。うわあ、厳重にしまっ……いや、これ魔法鞄に入んないんじゃん。……手放したくなってきたわ。


「念のために聞くが、ほかにこれのことを知っているやつは居ないな?」


 現ギルド長の言葉に三人で顔を見合わせる。


「ザルツさんとトリッシュさん。あとは、取り次いでくれた受付嬢さん、かな」


「ああ、あの二人は大丈夫だ。よく酒浸りになってるが、口が軽くなることはない。年を食ってるだけあって、そのへんの見極めはたしかだ。ネリアも問題ない」


 受付嬢さんはネリアさんというらしい。というか、酒浸り常習犯に信用があるってすごいな。まあ、酔っぱらっている感じは全くなかったけど。


 アルゴおじいちゃんが戻ってきた。手には二冊の本がある。


「これが七、八階層の様子を描いたものだ」


 と、見せてくれたのはプレニアヌダンジョンの攻略本だった。資料室でSランクの物語に時間を食われて、慌てて頭に詰め込んできたやつ。といってもちょっとずつ進むつもりだったから、先の方は見ていない。


 コクシンとラダとともに目を通す。

 そこに描かれてあるのは、人の背丈ほどの岩がゴロゴロしている風景だった。その岩の一つ一つがでっかいフジツボみたいな形で、上部がパカッと開いて、魔物が出てくる描写がある。


「見ての通り岩の中から魔物が出てくる階層だ。『岩の蓋』って単語にぴったりだろ」


「な、なるほど」


 うーん、つまり、この階層の何処かでオカリナを吹くと音が出て、道が出てくるってことか。いや、次のカードが入った宝箱が見つかるってことかな。


「でも、七階層かぁ。先は長いね」


 俺がちょっと肩を落とすと、アルゴおじいちゃんは「準備をちゃんとしていけば、君たちのランクでも問題ないだろう」と言ってくれた。そうかなぁ。戦力も体力も心もとないと思うのだが。


「で、『アウトロリーデ』に聞き覚えがあってな、探してきたんだ」


 二個目の宝箱すらゲットできるか不安な俺をよそに、アルゴおじいちゃんがもう一冊の本を開いた。ああ、アウトロリーデの宝物ってカードに書いてあったな。

 予想が正しければ七個出てくる。いや、オカリナは道しるべ的なものだから、最終的にゲットできるものが宝物か?


「この辺を読んでみろ」


「はーい」


 指さされた文章に目を通す。現ギルド長も逆側から覗いてくる。見にくくないですか? そっち向きでもいいですよ。あ、………老眼ですか?

 すぐにきゅっと鼻の付け根をつまんで読むのをやめた現ギルド長に、俺はそっと視線を本に戻した。うん、体の衰えはね、しょうがない。


 その本によると、アウトロリーデというのはプレニアヌダンジョンの昔々の名前のようだ。つまり、アウトロリーデダンジョンと呼ばれていたわけだ。だが、ダンジョンに集まる冒険者が増え町になり今の外壁ができた頃に、プレニアヌという町の名がつけられた。それにともないダンジョンの名前も徐々にプレニアヌダンジョンとなったらしい。

 ふむふむ。人の名前じゃなくて、ダンジョンの名称だったのか。ダンジョンボス、いや、ダンジョンマスターとかだったら面白かったのに。


「ところで、これギルドで預かってくれませんか?」


 俺の言葉に現ギルド長がきょとんとした顔をした。


「うちは徴収したりしないぞ」


「いや、魔法鞄に入らないし、攻略できる気がしないんで。もっと上のランクの人に何とか譲渡できないですかね」


 宝探しは楽しそうだが、正直途中で絶対飽きるし、集めきれない。ずっとこのダンジョンに張り付いてるつもりもないしな。俺はウロウロしたい。

 コクシンとラダはちらっと俺を見ただけだ。


「……まあ、焦って攻略する必要はない。ぶっちゃけて言えば、謎解きされていないアーティファクトなんぞ腐るほどある」


 現ギルド長の言葉に今度はこっちがきょとんとなる。


「いくつか集めないと意味をなさない物や、各地にシリーズとして散らばっているらしいという話はよくある。なんならお貴族様が宝物庫に抱え込んじまって、謎解きどころじゃないアーティファクトもある」


「なんとまぁ」


「そんなわけで、急いで攻略せずともかまわないし、集めずとも誰も何も言わない。お前らが全滅したあと誰かが拾って、それで新たな宝探しが始まる。そんなもんだよ」


 えぇ、それってただ珍しいから狙われるってだけじゃなくて、殺してでも奪い取るなんてことになる案件じゃないの。手放したいわぁ。


お読みいただきありがとうございます。

リアクション、感想、評価、誤字報告感謝です。


双葉社様より書籍、コミックが出ております!

まんがアプリ『がうがう』にてコミック版が連載中です。


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― 新着の感想 ―
ギルド長達なんで宝箱に手出してんねん そんな話の流れ前話で有ったか?
この世界の回復薬は本当に応用範囲が広いな。 私も毎日ラダ製の回復薬を飲みたい。 アウトロリーデの祝福が気になるんだけど、レイトはちょっとめんどくさがりなところがありますよね。レイトの興味をさそわれる…
七つ集めると龍が出てきてギャルのパンティが貰えるかもしれないし
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