コクシンの憂鬱
私は孤児だった。物心ついた頃には孤児院にいて、小さな子の面倒を見つつ働いた。
街を守る衛兵に憧れた。一度だけ見たことのある、白い金ピカの鎧を着た騎士よりも、門を守る衛兵のがすごく見えた。
平民で孤児には難しいと言われたが、勉強や剣の稽古を頑張った。
7才の成人の日。スキルを授かった。『剣術』『馬術』。『風魔法』も使えるようになった。
研鑽を重ね、衛兵になれた。嬉しかった。これで私も守る人間になれたと。
軋轢はあった。それでも、誇りがあった。
第三部隊長になれた。内実は平民を集めた雑用部隊だった。なんのための研鑽だったのかと、少し悲しくなった。
流れが変わったのは、代官が変わってからだった。
緊急時でないと使えないはずの高速馬車を使う。配給の装備品や食料の質が落ちた。シフトの偏りがある。進言すると、上の考えることだとけんもほろろ。
これでいいのかと悩んだ。これが私の憧れた衛兵なのかと。けれどどうすればいいのかも分からない。
不思議な子供に出会った。
青みがかった黒髪、同じ色の大きな目。小さな体をスッポリとマントで覆い、手紙を手にウロウロしていた。冒険者だとまっすぐに私を見上げ、歳の割に大人びた口調だった。私の疑念を、彼も悟っているようだった。
封蝋のことを聞き、商会で見聞きした上で、知らぬふりをしといたほうが利口だと、言われた気がした。
この街のためにも、あってはならないことだと、進言しようとして途方にくれた。上に倣えで、平民の同僚でさえ耳をふさぐ有様だった。
ならばさらに上の人間に進言してみようと街を発った。あの子供に出会った。複雑そうな顔をしていた。私が何をしに行くのか、理解しているのだと思った。聡い子だ。
私の行動は、なんにもならなかった。
些細な罪をでっちあげられ、牢に入れられた。1日で出されると、衛兵の身分が剥奪されていた。退職金だと、金貨が詰まった袋を渡された。命が惜しければ、さっさとこの領から出ていくことだと。口止め料だった。
生きて帰れることを安堵するべきだと思った。けれど、すべてを否定されたこの私が、帰ってどうなるのかと途方にくれた。帰る場所すらもうなくなるのだ。
ふと、あの少年のことが頭に浮かんだ。
彼はこんな私になんと言うだろうか。呆れるだろうか、同情するだろうか。彼が私の立場だったら、どうするのだろうか。
少し、道が見えた気がした。




