表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
239/239

ひかえおろう〜

前に出てきていた階層の説明をちょっと変えました。二階層ごとに風景が変わる感じで行きます。

「コード、でかした! チビ、そのまま持ってろよ!」


「にょあっ?!」


「ミルコっ」


 宝箱を持っているミルコを獣人コードが脇を掴んで抱き上げていた。オールの言葉にコードが「おうよ!」と答える。びっくりしたのか、ミルコは変な声を上げたかと思うと四肢を突っ張った状態で固まった。え、あれ? これ宝箱の作用じゃないよな?


「ずらかるぞ!」


 オールとコードが駆け出した。途中でオールが荷物男を踏んづけて「ぷぎゅ」と鳴かせている。おい、仲間。


「させるかっ!」


 コクシンが手を伸ばす。ぼふっと音がして、見えないなにかに押されたようにオールがつんのめった。風魔法の応用かな。

 コードが一瞬オールを見て足を緩める。今だ! と、土魔法を使おうとした俺より早く、シュヴァルツがコードを駆け上がった。そういやシュヴァルツって足が速いんだったと、頭の片隅で思い出している間にコードの顔に到着。


「ぎゃあ! なんこれっ、喰われるっ?!」


 コードがミルコを掲げ持ったままジタバタしている。シュヴァルツはコードの顔に張り付いているだけだ。食べないよな? あ、口? シュヴァルツの口ってビビるよね。なるほど、至近距離であれ見たらそう考えちゃうか。シュヴァルツもわかっているのかなんなのか、ちょうどコードの目のところにくっついてるし。あとなんか、ぎりぎり締め付けてないか、それ。


「じゃ、じゃあ僕も!」


 ポカッポカポカパコーン!


 ラダが転がったままの荷物男を棒でポカポカしだした。いや、そいつは悪く……いや悪くはあるな。でも荷物の上から殴ったところで大したダメージにならないと思う。


「メー!!」


 ぼふんっ!


 トドメとばかりにミルコが巨大化したかと思うと、シュヴァルツを回収後にコードをワンパン。白目を剥いて倒れるコード。そして、いつの間にかオールはコクシンに縛り上げられていた。


 うん。俺なにもしてない。処すとか言っといて出遅れて見てるだけになっちゃったよ。一歩分踏み出していた足をそっと戻す。ついでに何事もなかったかのようにイスに座り直した。

 なのにみんなは俺の方を見て「褒めて!」みたいないい笑顔だ。えーと、じゃあ、とりあえず拍手を送ります。パチパチ、グッジョブー!

 ……次頑張る。俺だってやればできる子なはず。


「お? こりゃどういう状況だ?」


 心のなかで密かに決意を新たにしていたら、再び見知らぬ声が聞こえた。階下から上がってきたのは、おっちゃん二人組。あ、あれだ。途中で三階層に行くとか言って追い抜いていった人たちだ。

 二人組からコクシンたちの方に視線を戻す。

 エビ反りのオールの足を押さえつけているコクシン、白目を剥いて倒れているコードにもふんと乗っかっているまだ大きいままのミルコ、の上にファイティングポーズのシュヴァルツ、荷物男に棒を掴まれ取り返そうともちゃもちゃしているラダ。そして一人優雅にイスに腰掛け足を組む俺。

 確かに。

 いや、同感ですなとか言ってる場合じゃない。


「ちょっといろいろありまして。今片付けますね」


 とりあえずイスとテーブル、その上のもろもろを全部魔法鞄に突っ込む。一応端に寄ってくつろいでたけど、転がっている人たちが邪魔だからね。


 で、重ねてどういう状況だと聞かれたので、カクカクシカジカと説明。

 宝箱はミルコの手からシュヴァルツに渡っていた。実はファイティングポーズをとっていたその手には宝箱が掲げられていたようだ。俺からは見えてなかったけど。

 で、シュヴァルツがトコトコやってきて俺に返してくれたのだが、宝箱を捧げ持ち蓋をぱかっとさせて「中身無事だよ」と見せてくれたその様が、プロポーズというお題でよく見るアレみたいだった。笑いをこらえつつ、シュヴァルツとミルコを褒め倒しておく。



「なるほど。そりゃあいかんな。人のものを盗るのは泥棒だ」


「いや、でもさぁ」


 現在強盗未遂? の三人組後ろ手に縛られたうえで体育座りでおっちゃんズに叱られ中。不服そうにオールが口をとがらせている。大の大人がやってもかわいくない。


「置いてあったら見るじゃん? ほんで金になりそうなら盗るじゃん」


「アホか。じゃあ、おっぱい見えてたら触っていいのか? 違うだろう」


 おい、おっちゃん。なんだその例え。見ろ、コクシンがすごい顔で睨んでるぞ。おっちゃんも気づいたのか、すいっと目をそらして「じゃなくてだな」と咳払いをした。


「大金あったら豪遊してもいいのかって話だよ」


「いや、それはいいんじゃないか?」


 おっちゃんの片割れが突っ込む。


「いいのか? まあいいのか」


 グダグダですよ、おっちゃん。ていうかこの人たちお酒臭いのですが。ダンジョン内は飲酒オーケーなの? ベロベロではないが、陽気に肩を叩きあっているんだが。


「まあなんだ、人のものを盗るのはアウトだ。まさか、常習犯じゃねぇよな?」


「置いてあったのをちょうだいしようとしただけだって」


「おい、まさかそのリュックの中盗品じゃねーだろうな」


「だいたいは僕たちがちゃんと狩ったものだよ!」


「そりゃ、一部は盗品ってことか?」


「あ」


 オールに代わって言い返した荷物男が固まる。オールとコードが「なにしゃべってんだ!」みたいな顔で荷物男を睨む。そういや、俺こいつだけ名前知らないな。二人が呼ばんから知らないままだ。


「ち、違います! 賭けの戦利品です!」


「ほう」


「あれっ、これもアウトっぽい!?」


「もう黙ってろ! キール」


 オールが身を捩りながら荷物男に頭突きをかました。残念ながら届かず、肩の辺りでゴツっと音がした。

 図らずしも名前を知ることができたぞ。オール、コード、キール。三兄弟かな。


「あ、そういえば、ギルドで誰かがしゃべっていたな。ダンジョン内で賭けを持ちかけてくるパーティーがいるって」


 隣でコクシンがポンと手を打った。


「え? そんな話聞いた?」


「食べてる時にたまたま周囲の話が聞こえてきただけだ。注意喚起とかじゃなくて、イカサマがどうのこうのって話」


 俺が料理に夢中な間に、コクシンは周囲から情報を得ていたらしい。しかしそれが本当なら、犯罪……賭けって犯罪だっけ? イカサマは犯罪か。


「それなら俺も聞いたことがあるな。ドロップアイテムを賭けてゲームをしたらイカサマで根こそぎ持っていかれたってやつ」


 おっちゃんが言うと、座っている三人がそれぞれ明後日の方に視線を飛ばした。自白しているようなものである。


「ダンジョン内で賭けなんてよくあるの?」


 思わず問うと、おっちゃんズが口の端を歪めた。


「あっちゃ困るんだが、珍しいドロップアイテムとかチラつかされて乗っちまうやつはいるみてぇだな」


「ダンジョンに潜ること自体賭けみたいなもんだしな」


「えー……」


 自分の命をベットして稼いでるといえなくもないか。


「冒険者は基本自己責任だが、賭けの話はギルド側にも伝わってるらしいからな。お前らはギルド長と面談コースだろう」


「そんなっ」


 さっきまでただ拗ねていただけのオールが急に慌てだした。ギルド長怖い人なのかな。そういや、司書の元ギルド長のおじいちゃんも一目置かれてる感じだったっけ。


「やりすぎなんだよ、お前らは。イカサマもそうだが、無理やり賭けに持ち込んでる場合もあるらしいな。注意して見といてくれって言われてたんだよ」


「えっ、なんっ……なんでおっさんが」


 コードが思わず漏らした言葉におっちゃんズはニヤリと笑って首にかかっている鎖を取り出してみせた。二人して並べたそれには……。


「え、Aランク……」


 燦然と輝くAランクの文字があった。

 酒臭いおっちゃんズはAランクの超すごい冒険者だったようです?

 ぽかんと見上げる三人組と、「お〜」となぜか拍手をしてしまった俺にならって拍手をするコクシンとラダ。ミルコとシュヴァルツはきょとんとしているのでたぶん分かってない。


「そんなわけで、キリキリ歩けぇい」


 三人一緒に縛り上げた上で歩かせるおっちゃん。地上に帰るところだというので、冒険者ギルドまで同行してくれることになった。キールが背負っていたリュックはおっちゃんの魔法鞄に消えた。


 黒髪短髪でクシャッと笑う感じが人懐っこく見えるほうがザルツさん。茶髪のワイルド系イケメン、無精髭がなければ……なほうは、トリッシュさん。

 剣の前衛二人でAランクまでのし上がった、ダンジョンメインで活動している冒険者だそうだ。年齢は二人とも四十すぎ。


 コクシンとミルコ&シュヴァルツが三人の前を歩いて露払いをしてくれている。


「あ? 酒の匂い? おお、そんな匂うか?」


 クンクンと自分を嗅ぐザルツさん。

 どうしても気になるので聞いてみた。


「三階層でダチと呑んできたんだ」


「あれ? 三階層って魔物出るよね?」


「出ても俺らにゃ大したことねぇよ。片手でちょいとか、ダチの魔法でちゅどんとか」


 お友達は魔法を使うらしい。


「なんでわざわざダンジョンの中で」


「三階層は行ったことねぇか?」


 トリッシュさんの言葉に頷く。


「行ってみりゃわかるよ。どこまでも広がる草原に、ポツポツと大木が見える。その大木のうちいくつかが、そりゃあきれいな花を咲かせてんだよ。白い小さな花弁が止むことなく降り注ぐ……その下で飲む安酒! これが旨いんだよ!」


 降り注ぐ何かを仰ぎ見て両手を広げるトリッシュさん。芝居がかったその仕草が妙にはまっている。


「つまり、花見酒を楽しんでいた、と」


「そう! お前も余裕ができたらダンジョンを楽しむがいいさ。人生酒が大事……じゃなかった、楽しむことが大事だぞ」


 ちなみにお友達はそのままダンジョン攻略に戻っていったらしい。

 ダンジョン内飲酒は自己責任。ただし、酔っ払って他人に迷惑をかけると重い処罰を食らうのだとか。


「俺たちは食らったことはないがな」


 二人はニヤリと笑いながら、後ろから襲ってきたウォーターキャタピラーを一閃した。

もちろん、飲酒の上でのアレコレを推奨するものではありません。飲酒運転ダメ絶対。


お読みいただきありがとうございます。

リアクション、感想、評価、誤字報告感謝です。


双葉社様より書籍、コミックが出ました!

まんがアプリ『がうがう』にてコミック版が連載中です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
どうしようもない連中だな かなり常習犯くさいし説教コースどころか刑罰コースにしてくれ
良かった良かった ダンジョン内は基本自己責任だろうけど、なんのお咎めなしもモヤモヤしちゃいますもんね
レイト達には窃盗に誘拐でそれだけでも普通は重い犯罪だし、余罪が詐欺常習ならそっちも重犯罪。この世界のこの街の法律次第だけど普通に奴隷落ちとかかね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ