VS暴れニワトリ
今年もお世話になりました。
来年もよろしくお願いいたします。
書籍とコミックもよろしくお願いいたします。
薄暗い。そして、めっちゃ眠い。気を抜くと立ったまま寝てしまいそうで、ブルブルと首を横に振った。
「大丈夫か?」
コクシンがかけてくる声に、うんと頷く。隣ではラダが棒に寄りかかったままうつらうつらし、ミルコに至っては、すっかり丸くなって二度寝に入っていた。
「おいおい、大丈夫か? もうそろそろだぞ?」
俺たちの前にいるパーティーが振り返って苦笑した。全員青い髪の男たち。『青蜥蜴』という格好いいパーティー名で、揃いの青い蜥蜴の意匠を身に着けている。もともとは別のパーティーに所属していたが、このダンジョン都市で出会い意気投合してパーティーを組みなおしたのだそうだ。
「……がんばる」
目元をこすり、眠気覚ましに手のひらに生活魔法で水を出して顔を洗う。うん、ちょっとはマシになった。俺が大きく伸びをしている間に、コクシンがラダたちを叩き起こしている。
「う〜〜」
いやいやと丸まろうとするミルコに、コクシンが呆れたように声をかけた。
「だから、部屋にいていいと言ったのに。次からは留守番決定だな」
「ふぉっ!」
ガバッとミルコがいきなり顔を上げた。上に乗っていたシュヴァルツがぽてんと落ちる。さてはシュヴァルツも寝てたな。何事もなかったかのように、屈伸してるけどっ。
「起きる、起きます! 置いてかないでぇ!」
やれやれと肩をすくめるコクシンと、周囲で起こる笑い声。俺たちの周りには、青蜥蜴以外にも冒険者パーティーが三組いる。さすがに眠そうにしているのは俺たちだけで、他はシャキッとしていた。
場所は町の外の麦畑だ。時間は早朝。空が下の方から明るくなってきたころだ。つまり、宿を出たのはまだ真っ暗な時間。普段好きなだけ寝てから出発する俺たちには、早朝集合はきつい。夕方の方にすればよかったと、ちょっと後悔した。
今日の依頼は暴れニワトリ討伐。朝夕二回募集がある。朝の方が暴れニワトリがたくさん来るというので、朝でお願いしてみた。青蜥蜴は引率役。ローカルルールというか、暗黙の了解的なものがあるらしいので、教えてもらいながらのお仕事になる。
まず、朝夕四組ずつしか討伐依頼を受けられない。一組の人数は不問。そして一組、暴れニワトリ四体まで討伐可能。この数は年によって違うようだ。つまり頭数制限されている。
昔、あんまり美味しいので乱獲されて数を減らしてしまったらしい。ならばと、飼うと弱って肉質が悪くなる。なので、減らない程度に、麦畑に影響がない程度に調整しているそうだ。
振り返ると広がる麦畑。その向こうに、うっすらと町を囲む城壁が見えた。麦はいまだ青いが、暴れニワトリは青葉でも実ってても麦が好き、という魔物だ。
視線を戻すと、その先は森になっている。暴れニワトリは朝夕と麦を食べに森からやってくるらしい。
シュヴァルツがソワソワしだした。続いてコクシンがぴくんとなにかを察知する。
「おら、来るぞ」
青蜥蜴リーダーが武器である槍を構えた。相変わらず俺は一番最後に、視認という形で魔物をとらえた。
木々の間から白い体が見え隠れする。いきなり突っ込んでくるというわけではなさそうで、向こうもこっちをうかがっているようだ。一体、二体と到着し、チラチラと仲間の方を見て、まるで『お前行けよ』と押し付け合っているみたいだ。
「暴れニワトリがある程度集まったら、一気になだれ込んでくるぞ。散らばって走ってくるから、こうやって横並びで待ってても手持ち無沙汰になることはない」
暴れニワトリが姿を見せ始めると、冒険者たちは阿吽の呼吸で麦畑を背にする形で横へと広がった。共闘とまではいかないが、パーティーとパーティーの隙間は開けない、そんな感じだ。
「一番端っこになったら、回り込まれないように気を配ること。まあ、無理はしなくていい。このすぐ後ろはまだ大丈夫だからな。焦って他のパーティーに攻撃はしないように」
「獲物の取り合いはめったにないと思っていい。基本は始めの攻撃を当てた奴らのものだ。威張って横取りするような雑魚はそのうち淘汰されるから、関わらんでいい」
「そういうの見つけたら、ギルドに報告するといいよ」
青蜥蜴が口々に教えてくれる。ご飯をおごってくれた時もそうだけど、この人たちってよくしゃべるな。
「まず、最初のは俺たちが相手をする。そう難しい奴らじゃないから、動きをよく見ておくんだぞ」
「はい!」
俺たちもドキドキしながら武器を構える。久しぶりに弓を手にした。これだけ人数がいるなら、練習がてら弓にしようと思って。
「火は使うなよ。ばらばらにするのもアウトだ。討伐依頼だが、あくまで目的は肉だからな!」
「肉!」
マッシュルームカットの男の言葉に、ラダが反応した。昨日、暴れニワトリの肉をゲットできたら唐揚げにしようって言ったら、すっごいはしゃいでたからな。……そのおかげでみんな寝不足なんだが。
「来るぞ!」
だっと森からあふれるように、暴れニワトリが一斉に走り出した。ドドドドっと地面を揺らしながら、一斉に襲いかかってくるさまはちょっと怖い。
暴れニワトリはダチョウサイズの白い大きなニワトリだ。もっとも、ふっくらしているのでダチョウよりも威圧感がある。人間と距離が近くなると、頭を下げて低い体勢を取った。
「まずは足を止める!」
青蜥蜴リーダーが、俺たちから距離を取ってから大きく槍を振った。地を這うような軌道の振りは、踏み込んだ暴れニワトリの左足を捕らえた。蹴り上げる瞬間を邪魔するような攻撃に、暴れニワトリがつんのめるように体勢を崩した。
「そして首!」
髪をハーフアップにしている青蜥蜴が、上に飛んだ。手にはハルバードが握られている。普通よりちょっと大きめのその刃が、軽く振り下ろされただけに見えたのに暴れニワトリの首へと吸い込まれていった。
ぶつんっ! と、生々しい音を立てて首が胴から離れる。
「尻尾はよく動くから、油断しないこと!」
ずどぉんっと前に倒れ込んだ暴れニワトリの尻尾が、びゅんっと鞭のようにリーダーへと振り下ろされた。マッシュルームカットの青蜥蜴が、俺たちの方を見ながらしゅぴっとその尻尾を断ち切る。ん? 今の手刀か? なにで切ったのか見えなかった。
「ていうか、これ、俺たち倒せるのか?」
暴れニワトリにはランク指定がなかったから、俺たちでも余裕だと思ってた。足元に落ちた暴れニワトリの尻尾は、どう見ても普通の尾羽根にしか見えないのに鞭みたいに動いてたぞ。
「うーん、ラダとレイトで足止めして私が首を切る……かな。尻尾はどうしようか」
「ミルコ、どーんするよ?」
コクシンの言葉にミルコが手を挙げる。
「ミルコが足止めして、コクシンが切って俺とラダが尻尾対策?」
「ふぇ」
弓矢じゃどうにもならんな。
「おーい。俺らが倒しちゃうぞ〜」
はっ。悠長に決めてる場合じゃなかった。リーダーの声にはっとそっちを見ると、マッシュルームカットが暴れニワトリにネックブリーカーをかけていた。ジタバタする暴れニワトリをよそに、マッシュルームカットは微動だにしていない。
うわ、マジか。特別筋肉質というわけでもないのに、なんだあの力。
「つ、つよーい!」
ミルコが目をキラキラさせている。戦闘スタイル的に、ミルコが盾役だからなぁ。デカくなったミルコならあれできるかも。
「え、と、とりあえず、一体だけこっちに回してください! あとはお願いしていいですか!?」
「お願いされましたー!」
マッシュルームカットが腕にぐいっと力を入れたのがわかった。ぐぎょー! っと、喚いた暴れニワトリが崩れ落ちる。ひ、ひえー。
「おら、行ったぞ! こっちは気にせず、がんばれー」
リーダーが一体こっちにやってくれた……というか、小突いて進路変更させた暴れニワトリと対峙する。Aランク桁外れだわ〜。
「俺が土魔法で足を止めるから、コクシンが首でラダが尻尾ね! ミルコは大きくなって押さえつけて!」
「「「はい!」」」
シュヴァルツ? あの子は臨機応変で。
とりあえず、弓は魔法鞄にしまって両手を空ける。魔力を込めて、タイミングをよく見て。
「ここー!!」
向かってきた暴れニワトリの足めがけて、土壁を発生させる。凶悪な爪が土壁を粉砕したが、それは予想済みだ。
「ぐぎょっ!?」
ずるっと暴れニワトリが足を滑らせた。土壁は囮で、本命は泥土化である。ちょっと「おっと」ってなったくらいだけど、邪魔はできたからよし。「はぁっ!」「とぅっ!」コクシンとラダが踏み込む。その間にむくむくっと大きく膨れ上がった白いものが割り込んだ。
「えいっ!」
巨大化したミルコが暴れニワトリの頭を地面に押さえつけていた。
「っ!」
首を切り落とそうとしていたコクシンがびっくりしたように慌てて手を引く。
「ミルコ! 離れてっ!」
「ぐぎょ〜!」
「大丈夫〜」
「わ〜、尻尾、尻尾がぁ〜!」
ラダの声に暴れニワトリの下半身の方を見ると、ラダが尻尾をビシバシと棒で打ち据えていた。ちらちらっとミルコとラダを見比べ、コクシンがラダの方へと走っていく。
え、えーと、ん……?
さて、どっちに助太刀しようと一瞬逡巡している間に、暴れニワトリから力が抜けたのがわかった。あれ? コクシン斬ってから行った?
「ミルコ、大丈夫?」
ミルコは興奮冷めやらぬ顔で振り返った。
「ミルコつおい!」
いや、うん。強かったけども。
覗き込むと、暴れニワトリはだらんと舌を出してピクリともしていなかった。気を失ったのか? なんで……っていうか、頭の形変わってんな。頭蓋骨粉砕したのか、この子……。
とりあえず、このあと緊急反省会です。
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