とりあえずご飯にしよう
お久しぶりです。やっと1話分書けたよ。
そして、その間にコミック版が発売されました! 動くレイトくんをお楽しみください。
「待て、この幼児誘拐犯!」
「いや、この場合従魔泥棒じゃね?」
「もこもこは従魔じゃないだろ!」
「ぬいぐる……」
「獣人だっ!」
「じゃあやっぱり幼児……幼獣?」
「そもそも誘拐でも泥棒でもないですー!」
どどどっと資料室になだれ込んできた男達が個々に喋り、それにラダが半泣きで訴えて叫ぶ。ちょっと……ちょっとかどうかはさておき、目を離した隙になにがあったんだろう。
「とりあえず、その子を離せ!」
「だめぇー!」
「きゃはははっ!」
当の本人は両脇を支えられてラダに高い高いされてすごく楽しそうに笑ってんだけど。
咄嗟にかばうように前に出てくれていたコクシンと顔を見合わせ首を傾げる。これ止めたほうがいいの?
「やかましい!」
戸惑う俺達の後ろから、一喝したのは鼻メガネのおじいちゃん司書さんだった。男達がピタリと動きを止め、おじいちゃんを見てあからさまな『やべ』っという顔をして首をすくめた。
「うるさくして悪かったよ。なあ、おやっさんからも言ってくれよ」
先頭にいた青い髪の男がラダ達を指さす。というかなだれ込んできた男達みんな青い髪だ。兄弟かなにかだろうか。
ていうか、『おやっさん』て。
「連れ去られてきた子どもがあんなになついてるわけないだろう」
「いや、そこは子どもだしさ」
「ミルコ子どもじゃないもん!」
「いい子だからこっち来なさい」
「レイトぉ〜」
半泣きでラダがこっちを見る。えぇ。なんだかよくわかんないけど、こっちに振らないでくれないかな。
「おやっさんもさらってきたのかっ!?」
ふと青い髪の男が、俺を見てそんなことを口走った。
「誰が子どもだ、コラ」
「誰がおやっさんだ、コラ」
俺とおじいちゃんの声がかぶった。俺は首から下げていたギルド証をばばーんと見せつける。もう面倒くさいので、公的身分証で解決。
「お。なんだ。冒険者か。疑って悪かったな」
リーダーらしい一番前にいる青髪の男がニカッと笑った。わかればよし。うん。俺はいつまでちびっ子扱いなんだろうな。背も伸びたと思うんだが。顔か?
「わしには?」
「いや、おやっさんはおやっさんだから。元ギルド長様でしょ」
えっそうなの? ていうか、ギルド長をおやっさん呼ばわりもどうなのか。
「ギルド長?」
コクシンの不思議そうな顔に、おじいちゃんはくいっと片眉を上げた。
「昔の話だ。今はただの物書きだよ。それで、なんでこんな騒ぎになってるんだ? そこの小さいのはこいつらのパーティーメンバーだろう」
「ええっ? そうなのか? でも乱暴につかみ上げられて悲鳴あげてたぞ?」
青髪でマッシュルームカットの男が言う。ラダを見ると、ぶんぶんと首を横に振った。
「スープのせいだよ! アツアツのスープが入った皿が、こう、ばしゃんってなって、とっさにミルコを抱き上げたら、なんていうか、首根っこつかんでて、そしたらミルコが『きゃー!』って……」
しどろもどろに状況を説明するラダ。ミルコ、テーブルの上に載ってご飯食べるからね。どうもその瞬間を青髪のパーティーが見て、小さい子に乱暴をしていると思ったんだろう。
「なーんだ。それならそうと言ってくれればいいのに」
青髪リーダーが腕を組みながら言うと、ラダの目から再び水がびゃっと出た。
「言ってる暇なかったじゃん! いきなり捕まえようとしたでしょ! 剣突きつけてきたでしょ! 話を聞いてくれないそっちのせいだよ!」
威勢のいいことを言っているが、俺の後ろに回って俺を盾にしながらはどうなのよ。まあまあとコクシンが間に入る。
「ところでスープはちゃんと片してきたのか?」
ラダはすいっと目を逸らした。ミルコがその視線の先を見て首を傾げる。何もないよ、ミルコ。
「……私が行ってこよう」
ため息をついたコクシンの言葉に、おじいちゃんが手を出して止める。
「お前らが行ってこい。ついでにこの子らの分も注文をし直せ。もちろんお前らが払うんだぞ。ああ、誤解はちゃんとといておけよ」
「へーい」
青髪パーティーは素直におじいちゃんの言葉に従って回れ右をした。あ、ひとり振り返った。
「嫌いなもんはないか? ちびっ子はなに食えるんだ?」
「あ、ぜんぜん、肉でも野菜でもなんでも食べられます」
「おーし。ちょっと待ってろ」
早とちりはともかくいい人達のようだ。なかなかそのへん気遣う人っていないよ。ちびっ子だろうが肉食わせようとするし、お酒も普通に勧めてくるからな。
もしかして誰か子持ちなのかな。
おじいちゃんは部屋でお弁当を食べるらしいので、ここで一旦別れる。一緒に食べたらいいのにと思ったけど、かたくなに拒否してくる。なに? 愛妻弁当が恥ずかしいとか? 別に笑わないのになぁ。
「よし、食え!」
「「うぉー!」」
テーブルに並べられた料理にラダとミルコが雄叫びを上げた。君達さっき食べてたんじゃないのかよ。まあ、ホカホカと湯気を上げる料理はとても美味しそうだけど。
「本当に全部おごりでいいの?」
青髪パーティーの分もあるらしいけど、結構な量がテーブルに載ってる。質より量! 的な料理が。
「ああ、構わない。俺らが騒いだせいだしな。遠慮せず好きなものを食べろ」
「じゃあ、遠慮なく」
小皿に丸パンと焼いた肉、トマトとチーズを取り分ける。分厚い肉だな、なんだこれ。
俺が手を伸ばしたのを皮切りに、コクシンとラダも小皿に取り分け始めた。ラダ、野菜も取れ。コクシン、俺と丸かぶりはやめろ。あ、ちょっとミルコ捕まえといて! それまたこぼすから! コクシンに抱えられるミルコ。にゅるりとシュヴァルツが顔を出す。おや、おはよう。
「……にぎやかだな。一番気を使ってるように見えるのがちびっ子その二なのが不思議だが」
誰がその二か。
青髪リーダーをじろりと見やる。目の上に傷があって、人好きのする顔だ。俺の視線を受けてぷっと吹き出した。ぬっと手が伸びてきて髪をかき混ぜられる。やめて、ぐらぐらします。
「……レイトが食べられないだろう」
その手をぺんとはたき落とすコクシン。止めてくれたのはうれしいが、俺の皿に追い肉するのはやめろ。配分というものがあってだな……なに、食べたことない味? それは食わねば。
「そのスープ食ってみろ。ここで一番高額の、あればラッキーなスープだぞ」
青髪マッシュルームがそう勧めてきた。小さめの深皿に白いスープが盛られている。シチューかな。緑色の野菜と、ニンジン、あとなにかの肉。これが高額ってどういうことだ。
「あ、ミルコがこぼしたの!」
「み、ミルコ、しー!」
ラダが慌ててミルコの口を塞ごうとするが、時すでに遅し。なに、君ら二人でお高いご飯食べてたの? まあいいけどさ。高額っていっても所詮冒険者ギルドの食堂でしょ。
「……」
青髪リーダーが笑いをこらえながらメニュー表を俺に見せてきた。指さす先には『シロトビウオのショースープ 時価』の文字。おい。時価ってなんだ。この世界にそんな値段設定あるのか。
脇からのぞき込んでいたコクシンがすっと指を伸ばしてきた。メニュー表の一番上を指す。『各種肉の盛り合わせデカ盛り四人前』。ぱっと見た感じ、それが一番値が張るようだ。
「これより高いってことか?」
コクシンの問いに、青髪達は深く頷いた。
「……ほほぅ」
「すっ勧められてさ! 美味しいって、あの、ミルコが食べたいって! ね?」
ラダくん。君にはもう一度金銭感覚というものを教えねばならぬようだね。お金ないっていってるでしょうが!
「あれ。ていうか、そんな高いの俺達の分出してくれたら、結構な出費になるんじゃ。いいの?」
スープは俺達の前にそれぞれ置かれている。青髪リーダーがにっと笑った。
「まあ、痛手っちゃ痛手だが、調子が良けりゃ一日で稼ぎ直せる」
「へぇ、すごい」
「こう見えてAランクなんだぞ、俺達。後輩に奢るのも高ランクの使命だ」
ふふんと鼻を鳴らすリーダーに、ハーフアップの青髪が「今日の酒代がぁ〜って泣いてたのは誰だ」とボソリと呟く。すぐに「あいたぁ!」とイスの上で飛び上がった。つま先を押さえてるから、足を踏まれたんだろう。
とりあえず高額なスープをすくって口に運んだ。ミルク……ではないな、どっちかというとガラスープ的なお味。あっさりなのに濃厚でおいしい。一口大の肉は軽く歯を当てただけでほどけた。柔らかいささみ、いや、鱈? あ、シーチキン?
「ふむ。柔らかいだけではないな。噛むと甘みがあって美味い」
うんうんとコクシンが頷く。
ほどけるほど柔らかいけど、溶けるわけじゃない。噛むとじゅわっとした旨味と甘味があふれてきた。濃厚なスープと混じると、さらに美味しく感じる。一度食べたら、お値段に苦悩しつつもまた頼みたくなるお味だ。
「なんで高いの? あまり獲れないから?」
ごくごく。スープも飲み干せるぅ。
「ダンジョン食材だ。魔法鞄持ちがいればある程度の量を持ち出せるんだが、このシロトビウオってのは、なんでか性能のいい魔法鞄でも中で腐っていくんだ。だから手に入れたらすぐに帰還しないと売れない代物になっちまう。そんなわけで、その場で食っちまうことが多い。結果、地上での値段が跳ね上がるってわけさ」
青髪リーダーが肩をすくめる。
マジか。そんな特殊な食材、もといドロップもあるんだ。てことは、中では高級食材が食べ放題ってこと!?
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