突撃グレート
ご覧いただけただろうか……。
はい。8月27日ガウガウでレイトのコミック版の連載が始まりましたよ! 動くレイトがキュートです。ぜひともご覧ください。単行本の方もよろしくね!
花畑の中にひょっこり現れたのは、初めて見る魔物だった。ツルンとした流線型の白いボディの卵っぽい……いや、卵だな、これ。白くてダチョウの卵より一回り大きな卵。それがのたりのたりと動いている。
「え、めっちゃ卵。どう見ても卵。卵焼きにしたら何人前だろう……」
ホットケーキもいいな。巨大オムレツだって作れる。どうにかして振り回したら、そのまんま巨大プリンもできるかも! いやその前に、殻を割らずに倒すことはできるのか? 思わず皮算用する俺に、コクシンが無情にも告げる。
「レイト。ここはダンジョンだから卵は残らないと思うんだが……」
「はっ!?」
コクシンを見上げ、愕然とする。そうだよ。ここダンジョンだから、倒したらドロップアイテム化するんだった。デカい卵は消えてしまう。
「いや、でも、卵は卵を落とすんじゃない?」
「そもそも卵なのか、アレ」
そういや、『鑑定』忘れてるわ。とか思ってる間に、卵はゆっくり花畑の向こうへと消えていってしまった。こっちには気づいてなかったのか、ノンアクティブなのか。
「魔物を見た瞬間食べることを考えるなんて、どれだけ飢えてるのよあなた」
呆れたようにアリスに言われた。
「いや、だって。卵だよ? 食べるでしょ」
「勝てるか勝てないかを考えるものよ。それか、金になるかならないか。食べられるか食べられないかじゃないわよ」
「そうそう。ボア系とか肉として馴染みのある魔物ならわかるけど」
ラッカにまで言われた。えぇ~そんなに不思議かな。俺だって全魔物を食い物としてみてるわけじゃないけど。ゴブリンとか臭そうなのは無理だし、ワーム系とか見た目がアウトなのもいるし。
「聞いた話だけど、肉に毒がある魔物もいるから、何でもかんでも食うんじゃないぞ?」
心配された。けど、肉に毒がある魔物がいるのか。それはいい情報を聞いた。初めての魔物は気をつけよう。食うことはやめない。
「それにしても、見たことない魔物だったわね。あまり強そうには見えなかったけど」
「そうだな。次見かけたら、一発当ててみるか。なに落とすか気になるし」
アリスとラッカが話している。こちらも初見のようだ。
「ということだから、もう少し進んでみるわよ」
「はーい」
「どうでもいいけど、あなた達いつまで手を繋いでるのよ。危ないわよ」
アリスの視線が俺達の手元に落ちる。そういや繋いだままだった。というか、握っているのはほぼコクシンである。俺の手パーだし。
「ん? 危ないってなに?」
「魔物が飛びかかってきたりしたら危ないでしょ。とっさに手を引き合ったら、逃げられないわよ」
「ああ、そういうアレね」
俺はまたアブノーマルに見えると言われたのかと思ったよ。まあ、この身長差だし、どう見ても保護者と子どもなんですけどね。
「他になにがあるの?」
「いやいや、なにも」
答えながら、いっこうにコクシンが手を離してくれないので、こっちから手を引っこ抜く。案外すんなり解けた。そのままふら~っと歩き出そうとしたら、ぐいっと後ろに引っ張られた。コクシンが俺のフードを掴んでいる。
「勝手に行かないから」
「ダメだ。また落ちたらどうする」
「俺のせいじゃないし」
「だとしても一人で歩くんじゃない。私のそばにいろ」
コクシンの過保護モードが発動中らしい。あれか。落ちたときの衝撃か。それにしても、相変わらず言葉のチョイスがアレだなぁ。
「……まあ、理由がなんであれ、あまり離れないようにね」
アリスが投げた。しばらく考え込んだあと放棄した。俺はコクシンにフードを掴まれたままである。ていうか、これで落ちたほうが危ないんじゃね。首締まるし。手つなぎより楽だからいいけど。
しゃがんでぶちっと花を一本ちぎってみる。普通に摘める。手触りも茎の青臭さも普通だ。うーん。花束の需要とかあるんだろうか。特になにもない花らしいし、摘み放題なんだけどな。
「あそこに岩が見えるな。なにもないってわけではなさそうだ」
ラッカの声に立ち上がると、たしかに丸っこい岩が見えた。その横には低木が一本。視線をさらに右にやると、遠くに二本の木が並んでいるのが見えた。
「ああいう目印をつないでいって、最終的には最短距離のルートを見つけるんだ。だいたいフィールドタイプのダンジョンの一層は、どっちかの方向に真っすぐ行けば階段があるものなんだけどな」
「ふーん。距離はどれぐらい?」
「それはダンジョンと階層によるとしかいえないな。数分の場合もあるし、一日歩き通しでも着かないとこもあるらしいぜ。魔物は激弱だけど、ただただだだっ広いダンジョン」
「それは辛いなぁ」
ラッカとしゃべりながら歩いていたら、くんっとコクシンがフードを引っ張った。
「来たぞ。さっきのと同じ感じだ」
魔物が来たらしい。さっきのということは、卵だ。今度は忘れずに『鑑定』するぞ。
カラフルな花畑から姿を見せた卵は、さっきのよりもう一回り大きかった。そしてぶち模様だ。うずらかな。
卵がどうやって動いているのかと思ったら、両サイドからカエルの足みたいなのが生えていた。陸上なのに、水かきっぽいのがついた足だ。
顔はない。が、知覚はあるようだ。俺達に気づいて、力を溜めるようにぐぐっと姿勢を低くした。
おっと。忘れずに『鑑定』っと。
『突撃卵グレート
歩く卵。殻は意外にすぐ割れる。攻撃方法は、突撃、ヒップアタック、自爆。たまに中身が腐っている。
ドロップアイテム/魔石、卵、ひよこ』
「……ひよこ?」
ひよこってなんだ。ピヨピヨをゲットするのか? え、てか、魔物から生き物ドロップすんの? まさかひよこ饅頭ではあるまいし、ひよこという名の別のなにかだろうか。
首を傾げる俺にコクシンが身をかがめて「どうした?」と聞いてきた。とりあえずそばにラッカがいるから、鑑定結果はあとだ。
突撃卵グレートがジャンプしてきた。なんていうか、弾丸だな。それなりのスピードではあるが、一直線なので難なく避けられる。
俺とコクシンが左に飛び、ラッカが右に飛びながらナイフを抜いた。
カシャン!!
なんとも軽い音だった。ラッカがすれ違いざまにふるったナイフは、あっけなく突撃卵グレートの殻を叩き割っていた。が。
「うへぇ」
ラッカが卵の中身を浴びてベトベトになってしまった。なぜか黄身はなく、白身だけのベトベト。殻はばらばらになり、地面に落ちたところで消えていった。
ドロップアイテムは……これか。小さな魔石がコロンと落ちていた。拾い上げてラッカに渡そうとしたが、ラッカはテンションだだ下がりだった。
「接敵しての攻撃はやめたほうがよさそうね。硬さはどれくらいだった?」
尋ねるアリスに、ラッカは「もろい」とだけ答えた。洗ってあげたほうがいいんだろうか。
「レイト。次が来たぞ」
「あ、じゃあ。今度は俺が狙ってみてもいい?」
コクシンの『気配察知』で魔物の居場所を指さしてくれる。弓を取り出すと、アリスが頷いてくれた。もろいってことは、俺の威力不足の弓でも倒せるだろう。さいわい歩いているときは遅い。
「せいっ!」
白く蠢く頭を狙って矢を放つ。
カシャン!!
うむ。楽勝である。これならベトベトにならない。拾いに行かなくちゃいけない手間はあるけど。歩き出してすぐに、ぐえっとなった。
「あ、すまない」
慌ててコクシンが横に並んだ。いや、ついてくるんじゃなくて、離してくれればいいのよ? ついてくるのね。そうですか。お好きにおし。
えーと、たぶんこの辺のはず。花のせいでドロップアイテムが見つけにくい。魔石だと見つけられなさそうだな、小さかったし。
「あった」
白くてコロンとした卵だった。残念ながら卵のサイズはグレードダウンするようだ。まあそれでも卵であることには変わりがない。
『ニワトリの卵
食用。生食もできる、普通の卵。』
や、やったー!! やったよ! 食べられる卵だよ。しかも生食できるって、奥さん! こりゃウロウロしまくって数を手に入れなければなるまいて。
「お、卵か。よかったな、食えるじゃん」
追いついたラッカに俺は笑顔で頷いた。後々コクシンに聞いた話によると、俺は近年稀に見る満面の笑顔だったらしい。卵に負けたと地味にショックを受けたそうである。はは。
「もうちょっと回っていい?」
ラッカとアリスが顔を見合わせる。
「そうねぇ。卵は脅威ではなさそうだし、ついでだから階段探してみましょうか」
ということで、また二手に分かれる。双翼の二人はこういう場所もなれているらしいので、自由行動。俺達はロープの届く範囲で動くことになった。
「次、コクシンが倒す?」
「……いや、私は見つける方に尽力するよ。弓の精度を上げるチャンスだろう」
「じゃあ遠慮なく。外して向かってきたら頼むね」
「心得た」
ロープは魔法鞄のベルトに括り付け、入口付近の岩を起点に、円を描くように探索していく。今のうちに鑑定結果を報告しておこう。
「ひよこか。食べられるのか?」
「……そこは考えなかったな。まあとりあえず、ひよこがなんなのかの確認と、あと、このたくさんある花の中に金色のと銀色のがあるっぽいんで、それを探したいんだ」
「花の中に? 気が遠くなりそうだな」
見渡す限りの花畑だもんねぇ。
「いたぞ。右前方」
「はーい」
弓に矢をつがえる。ひよこ来い!




