俺も持ってる
新しい魔法鞄について直しました。報告ありがとうございます。腰タイプで統一しますね。
俺は学習している。だから、ここでいきなり、テーブルどーん、お風呂どーんって出すのはまずいのは分かる。さて、どこまでなら許容範囲なんだろう。とりあえず、魔法鞄をコクシンに持たせる? あ、指輪も一緒に渡さないと、何かあったときにコクシンが黒焦げになる。……面倒だな。っていうか、今更自重しても無駄じゃね? 存分に使ったうえで気をつけるでいいんじゃね?
「起きてる?」
「うおっ」
ぬっと現れたラダの顔面アップで我に返った。
いつの間にか、コクシンが馬達の世話をしてくれていて、ミルコがちょこちょことその後をついて回っていた。シュヴァルツは鞍を外した馬の背に乗ってウゴウゴしている。マッサージのつもりらしい。
「いや、魔法鞄のことどうしようと考えてて」
「どうって?」
「だから、気をつけろって言われただろ」
「ああ」
ラダは「盗られないようにってやつか」と呟き、う~んと小首を傾げた。
「気をつけるしかないんじゃないの?」
「やっぱり? うん。俺が気を抜かなきゃいいんだよな」
そうだよな。俺も帯刀しとこうかな。つまり、防犯してるから盗るなよってわからせればいいんだよな。
「よし。ってことで、肉を焼くぞー!!」
「「うお~!」」
ラダとミルコが両手を上げて吠えた。
よしよし。じゃあ、なににしようかな。せっかくフォレストディアを買ったんだから、フォレストディアにしよう。凝ったことはせずに、ステーキでいいんじゃないかな。
魔導コンロとフライパンを取り出す。あと、ブロック肉、これはどこの部位だろ、まあいいや。それからナイフと調味料。ワインでファイヤーしてみよう。あと、お皿と、カトラリーと、肉だけだとあれだから、パンとサラダ。サラダは盛り付け済みのを小分けしてたくさん入れてある。んでもってスープも購入したもので、寸胴鍋に入って……。
「たくさん持ってきてるんだなぁ」
「……はっ」
ずるりと寸胴鍋を取り出したところで、さっき忠告してくれたおじさんと目があった。なんとなく、先に止まっていた馬車とは道を挟んで反対側で休むことにしたわけだが、気づけば注目の的だった。複数の目がこっちを見ている。抑え気味にしたつもりが全然だった。だって今更、干し肉かじる夕食とか嫌だし!
「あ〜まあ、便利だしね」
へらっと愛想笑いをすると、おじさんは「違いない」と笑い返してきた。
とん、と、背中に軽く突かれて振り返ると、コクシンが心配そうに見てきた。こくりと頷く。大丈夫。今度は油断しない。ただし、気づかずにやらかしてしまうことにまでは責任は持てない。
こちらの警戒を気にした風もなく、おじさんはこっちにトコトコと歩いてきた。腹がちょっと出ていて、その腹に食い込むように腰につけられたナイフが見える。馬車の御者さんかと思ったけど、商人なのかな?
「俺も持ってるんだよ」
背負っていたリュックを鍵を使って開け、そこから巾着袋を取り出した。
「ほら、これ」
ゆらゆらと揺らせてみせる。
「へぇ~巾着袋タイプのって初めて見た」
「冒険者から買ったんだ。重宝してるよ」
「そういうのは、教えて大丈夫なものなのか?」
隣からコクシンが口を挟んできた。俺も、普通に見せちゃうんだ、って思った。
おじさんは目を細めて笑った。
「まあ、誰彼構わず見せるものではないが、対策はちゃんと取っているぞ。これは俺にしか触れないようになってるし、鍵付きの鞄に入れ、護衛もつけてる。今見せたのは、君に『俺達は気にせず使ってくれ』、と言いたかったからだ」
「あはは」
警戒していたのも自重しようとしていたのもバレていたらしい。
「とはいえ、野営でここまで色々出す人は初めて見たな」
じゃあ遠慮なく、と、テーブルとか出し始めた俺をおじさんは呆れたように見ている。
「え、じゃあ、みんなはどういうふうに使ってるの?」
荷物を入れ生活を便利にするための魔法鞄じゃないのか。首を傾げる俺に、おじさんは腕を組んだ。
それはともかく、ブロック肉を切る。ちょっと筋がありそうだけど、きれいな赤身だ。ステーキサイズに切り出し、一応筋切りしておく。塩コショウをして、熱したフライパンに油を引いてイン! ジュワァ〜! と、心地良いサウンドに癒される。肉が焼ける音っていいよね。
「商人は、まあ、商品を入れてるわな。その場合私用のものはあまり入れない。トラブルになるからな。冒険者は、武器とか防具とか野営道具を入れてはいるが、だいたい戦利品の持ち帰り用にスペースを空けておくのが常識だ」
「え、マジで?」
俺そういうの全然考えてないけど。いっぱいになったら、土とか水を捨てればいいやとか思ってるけど。戦利品か。大物を倒せるようになったら、スペース管理が必要になってくるのかな。
最後に、フライパンにワインをちょろっと入れて火を移す。ボウッ! と大きくなった火に、おじさんが目を丸くしてのけぞった。あ、すみません。事故じゃないです。わざわざこれ用にアルコール度数高いワインを買ったのだ。
いっちょ上がり。次々焼いていくよ。
「ちなみに、俺の魔法鞄には家財道具が入っている」
「家財道具? えぇと、それは色んなところで住むため?」
肉に集中している俺の代わりに、ラダが聞いてくれた。コクシンは俺の横にスタンバっていて、焼けた肉を皿に移しては魔法鞄に突っ込んでいってくれている。
えーと、ミルコ達はどこだ? あ、馬達といるな。ミルコとシュヴァルツは小さいからすぐに視界から消えてしまう。シュヴァルツは一人では勝手にどこか行ったりしないけど、ミルコと組むと暴走しそうで怖い。かといって、じっとしとけというのもな、俺の教育方針は『自由』である。ただし、他人に迷惑をかけない程度に。自由とは何でもしていいってことじゃない。
おじさんはちょっと振り返って、馬車の周辺にいる人達を見た。若い女性と男性、それから歩き始めたばかりくらいの子供が火のそばにいる。あとは周囲に武装した男が数人。あの人達が護衛か。
「俺のじゃなくて、あの若夫婦のものだよ。俺は『引越し屋』なんだ」
「引越し屋!?」
えーなにそれ、この世界で初めて聞いたかも。アリさんとかパンダさんとかが頭をよぎった。そういうあれなの?
とりあえず肉は焼き終わった。先に後片付けしちゃうよ。フライパンをゴシゴシ、セルフで水を出しながら洗う。
「依頼があると、その人の住む場所まで行って家財道具を入れ、一緒に新居まで移動して、入れたものを新居に出して完了だ。多少値は張るが、思い入れのある大きな家具があるとか、あの人達の場合だと、商売道具を全部持って移動できるっていうのが売りだ」
へぇ~と、感心していたら、夫のほうがこっちに歩いてきた。身長が高い、爽やかイケメン。ソバカスがあるのが親しみやすくて良し。
「すごいね。これ、全部君が作ったのかい?」
「ああ、いえ、スープとかは買ったものですよ。これがあるんで」
言いながらフライパンをしまう。代わりにステーキが盛られた皿を出していく。
「よかったら一緒にどうですか? 量はありますけど」
会話の最中だが、もう夕食の時間だし、俺込みの欠食児童が待ち切れない様子だからね、食べちゃうよ。タイミングよくミルコがシュヴァルツを乗せて戻ってきたし。
「いや、もう食事は済ませてあるんだ。ただ、お邪魔じゃなければ会話に混ぜてもらっていいかな」
「俺達はいいですけど、向こうはいいんですか?」
「ああ。どうも息子はオネムのようでな。うるさいから向こうへ行ってろと言われた……」
ちょっと遠い目をした夫さんに、引越し屋のおじさんが小さく笑った。
「お客さんはしゃべるのが好きみたいだね。御者台にいてもずっとしゃべってるな〜って思ってたんだ」
「仕事中はしゃべれないからさ、こういうときじゃないとと思ったんだが、『ちょっと黙って』とか言われちゃったよ」
顔を手で覆って、しくしくと泣く真似をする夫さん。ま、まあ、そういう日もあるって。黙ってたら黙ってたで、険悪になるし。加減って大事。
「じゃあ、お茶でもどうぞ。引越し屋さんもどうですか?」
「ありがとう。もらおうかな」
そんなわけで、食卓に二人増えた。
引越し屋さんは、パトリックという名で、元冒険者だったそうな。素質がなかったのと、魔法鞄を手に入れたのをきっかけに転職したらしい。
若夫婦の夫さんは、ライナスという名で、パン職人だそうだ。ちなみに奥さんはサディさんで、息子さんはジェイくん。
「おーいしー!」
ミルコがもりもりステーキ肉を頬張っている。テーブルの上に座るという、ちょっと行儀が悪い食べ方なのだがしょうがない。赤ちゃん用のイスってあるのかな。ちょうどいいからパトリックさんに聞いてみたら、あるそうな。今度街で探してみよう。
フォレストディアは見た目ほど硬くなくて美味しかった。ステーキは肉を食ってる! 感が強くていいよね。明日は煮込みにしようかな。
「レイト、パンなくなっちゃった」
ラダが空になったカゴを覗き込んだ。チラチラとそれぞれの皿を見る。俺はもうほぼ食べ終わる。コクシンはまだ肉が残ってるな。ラダの皿はきれいになくなってるけど。
「まだ食べるの?」
「もうちょっと食べたいなぁ。ジャムと一緒に出して」
「よく入るね。太るよ」
「太らないし!」
背丈の分を加味しても、ラダはよく食べる。今のところ横には増えてないから、代謝がいいのかなぁ。
そんな事を考えつつ、マリーさんのところで買ってきたロールパンっぽいのを数個、魔法鞄から出してラダの皿に置いてやる。あとジャムだっけ。えーと、オレンジのジャムでいいかな。瓶ごとドンと出す。
「わーい。ありがと~」
「ラダ! ミルコも一個!」
ハイ! と、ミルコが手をあげた。その横でシュヴァルツがちんまりと座っている。シュヴァルツは魔力多めの果物を摂取済みだ。さっきから動いてないし、寝てるのかもしれない。
「私もいいだろうか」
コクシンもか。好きなだけ食べるといいさ。カゴ入りのパンをテーブルの真ん中に出した。




