シュヴァルツの歌
お久しぶりです。
シュヴァルツ目線の話です。
最後にお知らせがありますヨ。
ああ、僕は離れちゃダメなのに。
いきなりの風に、僕はとっさに力を入れたけれど、間に合わなかった。風に乗ってどんどん飛ばされてしまっている。
あっという間にレイト達の姿が見えなくなってしまった。
レイトは僕を探しに来てくれるだろうか。
いや。僕が戻らないと!
僕は足手まといじゃない。だから。
風が弱くなったところで、枝に巻き付いて体を止めた。どれくらい飛ばされたんだろう。
「!」
止まったと思った風が、今度は逆に吹き始めた。今度は飛ばされないように、しっかりと枝にしがみつく。
ん? この風に乗ったら戻れるのかな。いやいやダメだ。だってこの風の先には、黒くて怖いのがいるんだもの。
白いお馬さんに乗ったキラキラした人が呼び出した、黒くて怖くて浮いてる存在。お空で風を吸い込んでるから、飛ばされたらきっと食べられてしまう。
黒くてバサバサしてるあの人の下に、レイト達がいるはず。
あ、風が止んだ。早く戻らないと。
「あらあら」
「っ!」
不意に聞こえた声に、僕はびっくりして掴んでいた枝から転がり落ちてしまった。いた……痛くない。痛くないぞ。こんなの平気だし。
「あらあら。真っ白な変わった子。どこから来たのかしら」
見上げた先には、木の洞からひょっこりと顔をのぞかせた、懐かしい姿があった。白黒縞々のもっちりボディーに、ゆらゆらとした手足。僕とよく似た、ちょっと違う、本物。
「おや本当だ。君は真っ白だねぇ」
もう一人いた。先のが女の人で、あとのが男の人。同じ洞から顔を出して僕を見ている。
「ご、ごめんなさい」
思わず謝ると、キョトンとされた。
「やぁねぇ。どうして謝るのかしら」
しゅるしゅると木を滑って二人が降りてきた。僕と同じ『コ』だけど、知らない人達。
「だって、真っ白の僕は、おかしいから……」
二人は顔を見合わせた。
「それがなぁに? 色が違うくらいどうってことないわよ」
「そうそう。おかしいからって謝る必要はないね」
あ、あれ? そうなのかな? でも僕はずっと遠巻きにされてた。良くないことじゃなかったんだろうか。
「ふふ。まあ、内気な群れならそうなるのかもね。おかしいと言うなら、私達だってそうよ」
女の人がそっと腕を伸ばして、ひっくり返ったままだった僕を起こしてくれた。
「私達は群れでいるものでしょう? 家族よりも群れを大事にする生き物なの。でもね、私達はお互いしか大事ではなくて、だから群れを出て二人で暮らしているの。おかしいでしょう?」
二人が頬を寄せ合ってピッタリとくっついた。これあれだ。レイトが言ってた、『ラブラブ』だ。ぽかんと見上げる僕に彼女は「うふふ」と笑ってみせた。
「気にしなさんな。変化を嫌がる人はいるものよ」
「う、うん」
そう。僕はもうそんなに気にはしていない。さっきはちょっと出ちゃったけど、レイト達が『きれいで可愛い』と言ってくれるから、大丈夫。
「それで。君は一人かい?」
「あっ! は、早く戻らないとだった!」
黒い人が浮いていたあたりを見ると、もう何もいなかった。白い馬に乗った人もいない。あの大きな植物の魔物はどうしたんだろう。倒せたのかな。また僕は、全然役に立てなかった……。
「どうしたの?」
しょんぼりする僕を、女の人が覗き込んでくる。
「僕、いま人間と一緒にいるんだ。冒険者っていうの。美味しい魔力くれるいい人達なのに、僕は役に立てなくて。せめて魔法とか使えたらいいのに」
じっと短い指を見る。
ミルコは小さくてもとっても強い。時間は短いけど大きくなれるし、みんなと喋れて連携というのを取れるから、羨ましい。僕は魔物を見つけることしかできない。それだって最近は、コクシンが見つけちゃってますます困っている。
魔力を食べてばかりで使えないなんて……。
「あらあら。あなた歌わないの?」
「……うた?」
首を傾げると、二人は顔を見合わせた。
「私達『コ』はね、歌うのよ。それが人間でいう魔法やスキルみたいなものなの」
「眠りの魔法?」
「そうね。それも一つよ」
すうっと女の人が息を吸い込んだ。
ぴゅ~ぷひゅ、ぴぴゅー♪
どこから出ているのか、レイトが時々吹く口笛みたいな音が響いた。
「見ててね」
そう言うと、彼女は地面の石に腕を振り下ろした。
バカッ。
石が真っ二つに割れた! 僕は慌てて石をつついてみた。普通に硬い石だ。
「ふふ。これは『硬化』の歌。慣れると足の一本だけとか、体全体を一定時間硬くすることができるのよ」
ガンゴンゴン。
足を振り下ろすたびに、石は砕け粉々になってしまった。すごい! 僕の手足はふにゃふにゃなのに! これで、えっと、これで僕も魔物を倒せるようになるのかな?
「どうやって音を出すの?」
「歌おうと思えばいい。本能に刻まれているはずだからね。さっきの音を思い出して、頑張ってみてごらん」
男の人の言葉に困惑する。なんかふわっとしてるなぁ。歌おうと思えば歌えるなんて。でも、僕は強くなりたい。思い出して、思い出して……。
「えっと。ぴゅ~ぷひゅ、ぴぴゅー♪」
すごい! 音が出たよ! どこから出てるのかよく分からないけど、体の中から音が溢れて出てきた!
魔力がすっと手足に集まるのが分かった。すごい。レイトに教えてもらっても魔力操作っていうのはできなかったのに。
なんか先っぽが硬くなった気がした。
恐る恐る足踏みしてみる。カチカチ鳴った。すごい。お馬さんみたいになってる、僕。六本の足先が全部硬くて、地面の感触が違っている。
「えいっ!」
手を石に振り下ろしてみた。
ガキン!
「いったぁい!」
ビビビビって衝撃が来た! 殴るって痛い。
「うふふ。ちゃんと練習すれば加減がわかるわよ」
ちなみに石はちょっとえぐれただけだった。難しい。でも、僕にもできた!
「一回でできるなんてすごいじゃないか。じゃあ、俺の歌も覚えていくといいよ」
喜んでいると、男の人がそう言った。
「いいのっ?」
「構わないよ。というかね、こういう歌は群れごとにあって、大人が子供に教えていくものなんだよ。あ、そうそう。眠りの歌はね、習わなくても大人になればひとりでに歌えるようになるからね」
「ふわぁ」
すごいぞ。僕は色々できるようになるみたい!
それから、二つの歌を教えてもらった。
一つは、暗闇の歌。一時的に相手の視界を奪うもの。もう一つは、ビリビリの歌。シビビッてなるんだって。気をつけないと仲間に行っちゃうから、指向性っていうのを持たせないといけないんだとか。練習あるのみって言ってた。
僕たちの歌はあくまで魔力をいただくために魔物を足止めするものだから、殺傷能力がないものばかりだそうだ。
「でも、群れによっては攻撃性のある歌を持ってるかもしれないから、見かけたら交流してみるといいよ」
男の人にはそう教えてもらった。
他の群れかぁ。今まで見かけたことないけど、探そうと思えばいるのかな。色がない僕でも、この人達みたいに優しく教えてくれるだろうか。
やってみよう。
そうだ。変わってることはおかしなことじゃないんだ。
「そういえば、戻らなきゃいけないんじゃなかったの?」
「そうだった!」
言われて我に返る。きっとレイト達は僕を探してくれている。大丈夫だよって、早く戻って伝えないと。
「ふふ。じゃあ、元気でね、真っ白の子」
「気を付けて行くんだよ、白の子」
二人の姿がいきなり消え始めた。
「わぁ。待って待って、僕まだお礼を言ってないよ!」
「大丈夫。聞こえているよ」
もうほとんどスケスケだけど、まだ声は届くみたい。
「えっとえっと、ありがとう! 何も返せないけどっ、大事に歌うね! ありがとう!」
僕は今何も持ってないから、ありがとうしか言えない。それでも二人は笑ってくれた。
姿が消えたら、気配も分からなくなってしまった。すごいなぁ。僕も姿を消してるときは、気配まで消えてるのかなぁ。
って、ぼんやりしている場合じゃなかった。
どこにいるのか分からないけど、木の洞に向かって思い切り手を振った。ありがとうって思い込めていっぱい振った。
あ。硬いのがなくなってる。足硬いと速く走れるのかな。えっと、お馬さんの足はなんで硬いんだっけ……。
よし。戻ろう! 足は速いんだ。大丈夫。方向も分かる。あっちに走れば、きっと出会える。それでお歌を教えてもらったことを話そう。
びゅんびゅん走る。まっすぐ走る。
「シュヴァルツー!」
聞こえた! レイトの声だ。
あっ、あれはコクシン! すごい勢いで走ってくる。僕を見つけてくれたのかな。僕は立ち止まって、ぶんぶん腕を振った。僕は元気だよ。
「シュヴァルツ!」
コクシンにむんずと掴まれて抱え上げられた。ぜぇぜぇ言いながらレイトが追いついて、僕を見てホッとしたように「よかった〜」と笑ってくれた。僕は嬉しくなってレイトにくっついたら、「顔はダメだよ」とコクシンに引っ剥がされた。
聞いて聞いて。ううーん。喋れないって辛い。
あ、そうだ。
僕はコクシンの腕から飛び降りて、枝を拾った。
『 た だ い ま 』
間違ってないはず。見上げたら、めちゃくちゃにモミモミされた。僕帰ってきたよ!




