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肉肉野菜

 楽しい楽しい御飯の時間ですよ。


 まずは瓦を用意します。


 いや、鍋にしようと思ってたのに、鍋を買い忘れた。しょうがないので焼肉に変更。鉄網とかないし、鉄板もない。じゃあ溶岩プレートなんてどうだろうと、土魔法で作ってみた。なんか前世の記憶でそういうのがあったのでね。


 出来たのがどう見ても瓦です。


 まぁいい。肉が焼ければいいのだ。


 ちょっと奮発して買った魔導コンロの上に乗せ、火を点ける。ちょうどカセットコンロサイズ。鞄を圧迫するけど、気にしなーい。

 ウサギの脂身をグリグリ塗りたくる。じゅわわわ…と、もうそれだけでいい匂いがする。瓦も割れなさそうだ。お皿は未だに作れないのになぁ。


 小さめに切った野菜を乗せる。肉は大事だけど、野菜も大事。この世界“栄養”なんて言葉はないけど、本能的にバランスよく食べようという意識はある。野菜は塩味でいいや。ぱらぱらり。


 さて本命の肉だよ。葉っぱの上で、臭み消しのスパイスと塩でコネコネしといたから、あとは焼くだけ。


じゃわわわー!!


 熱々の瓦の上で肉が躍る。もう堪んないね。周りの人がこっちを見てるけど、気にしたら負けだ。自作の箸でひっくり返す。箸、便利。トングが欲しいな。


 どうですかね。もういいですかね。お腹が脂を欲してますよ! 乾いた喉を水で潤し、さぁ、いただきます!


「ふぉぉぉ」


 遠火でじっくりもいいけど、強火で一気に焼き上げるのもいい! 弾力のあるウサギ肉は、臭みもなくほのかなスパイスと塩味が次を要求する。こりゃ美味い。モグモグクピっモグモグぷはー!

 野菜も美味しい。ジャガイモっぽい芋と、人参っぽい根菜。あと、シャキシャキの葉物。どれも名前を知らない。故郷じゃ麦ばっか作ってたからな。


「な、なぁ」


 肉に舌鼓をうっていたら、話し掛けられた。昨日親切に教えてくれた、赤い髪の人だ。


「ふぁい?」


「少し分けてくれねぇか? いや、ただでとは言わねぇぞ? といっても、大したもんは持ってないんだが」


 じゅるりと目は瓦の上に釘付けである。デジャヴュだな。まぁ人の居るところですれば、こうなるか。

 余ったら朝食にしようと思ってたんだけどな。


「えと、いいですよ」


 差し出された木皿に、ヒョイヒョイと肉と野菜を入れてあげる。


「変わった道具だな」


「? あ、箸ですか? 故郷で使ってたんです」


 嘘です。

 赤髪の男は「ふーん」と相槌を打ちながら、自分の皿の肉にフォークを刺した。二又のフォークだ。ふんふんと匂いを嗅いでから、パクリと口に運ぶ。


「うぉぉ」


 もぎゅもぎゅする顔がぱあっと笑顔になった。2個3個と口に入れ、俺の手を掴んでブンブン振る。昨日からそうだけど、人懐っこい人だなぁ。


「美味いな、これ! 屋台の肉より食いやすいっていうか、脂がすごい!」


 うん。臭みがない分、噛み締められるからねぇ。喜んでもらえて嬉しいよ。もうちょっと食べるかい?


 お返しだとくれたのは、魔石だった。


「いいんですか?」


 魔石ってお金になるんだよね? そう思ったところで、はっと気付いた。ウサギの魔石取るの忘れた。魔物だから魔石持ってたはずなのに、多分内臓と一緒にぽいしちゃったや。


「構わないよ。これだとその魔導コンロに使えるだろ」


「おー」


 そう。魔導コンロには魔石が内蔵されている。使うと魔石は磨り減るので、定期的に取り替えないといけないと説明を受けた。この魔石が、買うと結構かかる。そのうち自分で取れるだろうと、高を括っていたのだが。


「火属性の魔石だから、火力も上がるはずだ」


「火力…え? 魔石って属性あるんですか!」


 思わず立ち上がった俺を、びっくりしたように赤髪の男が見た。


「え、お、おう。もちろんない魔石のが多い。ただ魔法を使う魔物は、その属性の魔石を落とすことがある。水を出す魔導具には水の魔石、コンロには火の魔石、って感じで使うと効果が高まるんだ」


「ふぉぉ! なるほどぉ。でも魔法使うってことは、魔物も強いんですよね?」


「まぁそうだなぁ」


 ウサギの突進ですら危うい俺じゃあ、倒せるのはいつになることやら。まぁ魔物をバッサバッサ倒していくタイプの冒険者になるつもりはないけど。


「…じゃあ、これも結構な値がするんじゃ」


 手の中にはきれいな赤色の魔石がある。大人の手で握り込めるくらいのサイズだが、正直自前の焼肉とじゃあ釣り合わないような気がする。


「いや、気にするな。言い出したのは俺だ。素直に受け取っておけ」


 男はそう言ってカラカラと笑った。「その気になればいくらでも取れる」とも。やべぇ。この人本当は高ランクなんじゃぁ。ここに居るのって、宿代も払いたくないっていう低ランクばっかりだと思ってた。


「えと、じゃあ、ありがたく貰っておきます。ありがとうございます」


 「いいってことよ!」と、男はご機嫌に自分のテントに帰っていった。またお隣さんだった。すぐに出てきて、反対隣のグループと酒盛りを始める。コミュ強の鬼か。


 一旦落ち着こう。

 座って残りの野菜を平らげた。朝御飯が残らなかったけど、それよりいい物と情報が得られた。

 脂を吸い込んだ瓦は、一応洗っておいた。ヒビも入ってないしまだ使えるだろうけど、また作ればいい。これゴミになるのかな。土に還していいのか? そう考え、明日判断することにした。先送りともいう。


 口の中をゆすぎ、カップの中に薬草茶を作る。それをまったりと飲みながら、今日の反省を行なった。得られた情報もまとめ、メモに書き出す。

 うむ。色々あったが、今日は総じて実り多き一日だった。明日も頑張ろう。




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