家を出よう!
異世界の記憶がある俺、レイト。この度ようやく7歳を迎えた。夜中、多分日が替わったその瞬間、ステータスウィンドウが目の前に見えた。ちなみにドキドキして起きてた。
名前:レイト
年齢:7
スキル:魔力操作・弓術
魔法:土魔法・生活魔法
…すごいシンプル。一応ゲームっぽいウィンドウだけど、内容うっすい。まぁ土魔法が使えるということは分かった。けどもうちょっとこう、何かなかったのだろうか。改めて主人公属性じゃなかったことに打ちのめされる7歳の夜…。
朝だ。新しい朝というほどでもないが、門出の朝だ。気合を入れよう。とりあえず話を聞いてもらわなければならん。気合だ。
戦々恐々としながら玄関のドアを叩く。
「はい。…なんだい、飯はまだだよ!」
これ、母親である。俺の顔を見るなり、虫を見るような目で見下ろしてきた。俺が何をしたっていうんだろう。まぁお陰でここになんの未練もないわけだが。
「朝早くごめんなさい。7歳になったので、少しだけ話したいです」
「話? 話も何も…」
明らかに面倒くさそうな顔をするな!
「このままここに居ても足を引っ張るだけだし…」
情けない声で言ってみると、母親はフンと鼻を鳴らした。ドアから横にずれ、アゴで入れと促す。ホントにもう、親が親なら子も子だな。
部屋の中では朝食の準備中だった。俺の皿には乗ったことのない果物の姿がある。肉もある。塊だ。美味しそうには見えないけど。
食卓から目を逸らし、父と母を見る。
「なんだ、こんな時間に」
父親は不機嫌を隠そうともしない。その向こうには、起きてきたばかりらしい長男の姿がある。ちらっと彼を見てから、深く頭を下げた。
「7歳になりました。この家を出て冒険者にでもなろうと思います」
「はっ? 何言ってるんだ、お前」
親の前だから長男の言葉遣いが少しおとなしい。俺はそれをあえて無視する。
「家の仕事に使えそうなスキルはありませんでした。このままではますますお兄様の足を引っ張ってしまいます。優秀と評判のお兄様の名を汚すわけにはいきません。僕が居なくったって誰も困りません。でも居ると困ることも出てくるでしょう」
「い、いや、ちょっ…」
「草を焼いてしまったり、小屋を壊してしまったり、馬に怪我をさせちゃったり…」
まぁ全部長男がやり、俺のせいにされた出来事だが。
「有望なお兄様のために、僕は居ないほうがいいんです」
ちらりと両親の様子を伺う。母親はどうでも良さそう。父親は顎に手をやり、フムと頷く。それに慌てたのはご長男様だが、ここで間髪入れずに、“さす兄”をまくし立てる。だんだん鼻が上向いて伸び始めた。
「まぁまぁ流石は私達の息子ね!」
母親は上機嫌だ。大好きなママンに褒められて、ヤツの顔もとろける。腰に手を当ててふんぞり返り、
「俺に任せておけって。確かにこんなヤツ、居ても居なくても同じだよな! なんたって俺様ってば天才だしな!」
あっはっはっはー! いや、笑ってるけどおまえろくに足し算も出来ねぇよな。俺に全ふりしてたくせに。まぁいい。最後にもう一押し。やつの女性関係をぶちまけておく。
ピタリと長男の動きが止まった。そして母親が笑顔のままヤツに詰め寄る。
「ミリアちゃんって町長の娘さんじゃないの! おまけにカリンちゃんにミロちゃんもだって!? あぁどこに話を持っていけばっ」
「いや、母さん待っ…」
「お嫁さんにっ! あ、でも流石に町長さんのところはまずいかしら? 大丈夫よね? うちの子優秀だし!」
「母さん!」
わちゃわちゃやり始めたので、父親の方に頭を下げ、さっさとその場を離れる。これであの兄はしばらく家から出れない。追ってこられると面倒だからな。
外に出ると、窓から顔半分だけ覗かせている兄その3がいた。恨みがましい目で見ている。俺が居なくなると彼が一番下っ端になるからだろう。知ったこっちゃない。嫌なら家から出ればいいのだ。
ちなみに俺以外は一応家住みだ。たまたま俺の分の部屋がないということで馬小屋になったが、それ以外は俺も彼も似たりよったりな扱いを受けている。
馬小屋に戻り、寝藁の中から鞄と小さな瓶数本を取り出す。森から穫ってきた蔦で作った、リュックタイプの鞄だ。なんとなくランドセルっぽい出来になった。瓶は自作の回復薬。それを鞄に詰め背負う。あと、解体用のナイフと自作の弓矢一式。準備完了。
「ちゃんとご飯貰うんだよ」
数年の同居人であった馬たちの顔をなで、家、もとい馬小屋を出る。
天気は快晴。気分も晴れ晴れ。いざゆかん!