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え。常識じゃないの?

「あれ。コクシンさん」


 北門から帰ってくると、そこにはきらびやかな頭があった。私服姿のキラキラ王子が何やらしょぼくれている。俺の声に苦笑いを浮かべた彼は、「やぁ」と呟いた。


「どうしてこっちに?」


 朝は南門にいませんでしたっけ? 首を傾げると、うん、と苦々しげに頷いた。


「ちょっと出張だよ。領主がいる街まで」


「え。今からですか?」


 日の傾き具合から見て、もう午後3時くらいじゃないだろうか。すぐに日が落ちそうだけど。


「いや、明日早くに発つんだ。今は馬の手配とかをしている」


「へぇ。大変ですね」


 いや、領主のところに何しに行くんだ、この人。仮にも部隊長が一人で移動予定って。聞きたいような聞きたくないような。


「気を付けて行ってきてくださいね」


 結局無難な言葉しか出なかった。彼が決めたのなら、俺が何を言っても無駄だろう。

 街の中の雰囲気は、何一つ変わってはいなかった。対応してくれた門番も、のんびりしている。そりゃそうだろう。大きな後ろ盾でもなければ、告発するには相手が大きすぎる。彼の味方は、どれくらい居るのだろうか。




 コクシンさんと別れ、冒険者ギルドまで戻ってきた。カウンターに歩み寄ると、今日は受付に男の人がいた。ツリ目の若い男だった。今日採ってきた物を確認しながら依頼書を追加で取る。それを持って彼のところに持っていく。

 あ、ちょっと待って。踏み台がない。キョロっと探すと、カウンターの端に置いてあった。

 よいしょ。改めてお願いします。


「ぐふっ。こんにちはっ。報告ですか?」


 笑われた。いや、フルフル震えるぐらいなら、大笑いしてくれていいんですよ。


「はい。ミツの実の依頼です。あと薬草採ってきたので、こっちもお願いします」


 鞄から実が入った袋を取り出す。50個入っている。あとトキイ草、上の葉から3枚を千切らずそのまま茎ごと40本提出。リドリス草、葉っぱで20枚提出。

 一角ウサギは依頼になかった。


「たくさん採ってきたね。じゃあ、確認するからちょっと待っててくれるかな」


「はーい」


 コロコロと実を数え始める受付の人。あ、この人獣人だ。頭の上に耳がピコっと付いていた。


「50個だね。ココに冒険者証かざしてね」


 黒い板にピッとな。これで依頼完了。


「あとはまとめて処理するから、もう一回かざしてくれる?」


「はーい」


 なにかの処理をしている。こっちからは見えないけど、パソコン的なナニカなのかな。ここだけハイテクだ。


「えーと、トキイ草。葉っぱだけでいいんだよ?」


「え?」


 キョトンと見返した俺を、受付さんも不思議そうに見返してくる。


「あれ、でも、上から3枚しか薬効ないから、こうやって分かりやすいように採って来いって、ばぁちゃんに…」


 教えられたんだけどなぁ。


「ああ。間違ってないよ」


 不意に頭上から声が降ってきた。振り仰ぐと痩せぎすの目の鋭い男の顔があった。白い顎髭が生えている。


「ロンドさん、そうなんですか?」


 受付さんの問に、おじいさんが「うむ」とうなずく。


「依頼書にもそう書いておいたのだがな、最初の方は。誰も彼もそれを読まんと葉だけ持ってくるんで、ギルドが選別できずに困ってな。話し合ってその一文消しちまったんだ。まぁ下の葉でも作れんことはないからな」


 へぇ、そうなんだ。


「俺たちからすれば、ボウズみたいに丁寧に採ってきてくれたほうが手間がなくていいんだがな。いい人に教えてもらったな!」


 わははは!と俺の頭を撫ぜる、おじいさんは機嫌が良さそうだ。っていうか、この人どなた?


「うちのギルドにも回復薬とか卸してもらってる、薬師の方ですよ。時折こうやって、買い取りした薬草とか受け取りに来るんです」


 受付さんが説明してくれた。ばぁちゃんとご同業の方でしたか。


「リドリスの葉も虫食いのないキレイなものだ。お前はいい冒険者になれるぞ! 腕ばっかり立って、トキイ草の見分けもできんやつも多いからなぁ」


 なにやら褒められた。薬になるんだからきれいなのを納めるのは当然だよね。魔力でゴリ押しできるとはいえ、いざという時効きが悪かったら、最悪死だ。自分でも作るからこそ、その辺は気を使っている。


 俺が採ってきた薬草を、おじいさんは少し色を付けて買い取ってくれた。


「はい。これで処理は終わりました。お疲れさまです。こちらは今日の報酬金ですよ。内訳はこちらの紙に」


「うぉぉ。ありがとうございます!」


 昨日の小さな“ちゃりっ”って音じゃない。ジャラっと音をさせて置かれた布袋に期待が膨らむ。一枚一枚数え、紙に書かれた金額と間違いがないかを確認。そのうち受け取ってそのまま懐に突っ込んだりするんだろうか。まだお金をもらうってことに慣れない。


「ありましたか?」


 眼の前で数えていた俺を、受付のお兄さんが微笑ましそうに見ていた。恥ずかしっ。


「あ、ありました。ちゃんと! ありがとうございました!」


 ペコリと頭を下げ、ちゃんと踏み台を片付けてからギルドを飛び出る。眼の前で数えるとか失礼なことしちゃった。いや、取引としては当たり前なのかな。今度こそっと聞いてみよう。


 あ。ウサギの角と皮どうしよう。明日でいいか。

 今はそれより買い物だ! コンロ買って、創薬もしよう。野菜と鍋を買って、調味料も欲しい。荷物増えるけど大丈夫かな。とりあえず美味いもの食べてから考えよう。


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