ここで買うか、次で買うか。迷う〜
「ダンジョン産かぁ。呪いとかもあるんだよね?」
首を傾げると、リンドさんは苦笑した。
「よく知ってるわね。まあでも、微妙な呪いが多いから、気にしないって人は多いわよ。その分安くなるし、性能自体に間違いはないもの。今の技術じゃ作れないようなものもあるしね」
「うちには今あったっけ?」
ニコラがリンドさんに尋ねる。リンドさんは首を横に振った。
「最近は仕入れてないわ。うちに流れてくるのって、それこそ微妙なものだし」
「冒険者ギルドにも、ダンジョン産の在庫はないぞ。つい二、三日前に覗いたんだけどさ」
キナスが思い出したように付け加えた。
「え、お前また何を買ったんだよ。この間新調したばっかだろう?」
ランディーが突っ込むと、キナスは慌てたように「いや、見てただけだよ! 買ってねーって!」と手を振る。そういや武器とかが好きなんだっけ。
「ダンジョン産の装備って、俺らでもダンジョン潜って見つけられるようなもんなの?」
そもそも装備って何がドロップするんだ。
「ナイフぐらいなら、魔物が落とすことはあるが、それ以外は宝箱から出るんだ。宝箱は完全にランダム。まあ、初踏破なら出る確率は高いってのが、冒険者内では常識かな。本当はどうかは知らんし、すごく稀に、1階層でも出ることはある。つまりは運だな」
ランディーの言葉に「運かぁ」と思わず呟く。変なのに出会う運は高いけど、宝箱に出会ったことはまだない。地道に街を移動して探し回ったほうが早いだろうか。
いや、ダンジョン産に限定しなくてもいいんだけど、ロマンはあるよね。サイズ自動調整とかあると便利。あと自動修復、重量軽減。もちろん防御力も必要だけど、見た目もどうせならかっこいいのがいい。普通の服っぽいのに、刃が通らなくて「切れてな〜い!」とかできたら面白い。
「3人は見つけたことあるの?」
ラダが聞くと、3人は顔を見合わせた。
「一度だけあるな。出たのは楽器だったが」
ランディーの答えに、ラダが「楽器も出るの!?」と驚いている。
この世界の楽器っていうと、なんだろうな。皮を張った打楽器とか、縦笛横笛、トランペットっぽいのも見たことあるな。銅鑼とか?
「リクールっていう、弦を張った楽器だ」
ランディーがギターを弾くときのような仕草をした。
「もちろん、ダンジョン産だから、ただ音が鳴るだけじゃねー。癒やし効果がついててな、それで弾いた曲を聞くと回復したり解毒できたりもするんだ」
「えっそれってすごいものじゃん!」
「性能はな。ただし、まるっと一曲弾いて聞かなきゃならねーんだ。なんかリクールを持つと曲というか弾き方? が頭に浮かぶんだけどな。冒険者が悠長に音楽鑑賞してたら、魔物にやられちまうよ。デカくてかさばるし、結局売っちまったな。まあ、いい金にはなった」
肩を竦めるランディーに、ニコラとキナスが笑った。
「ランディーの歌声は最悪だったよな!」
「なにおぅ!」
「俺しばらく眠れんかった」
「うるせーよ。お前らだって似たりよったりだったろうがっ」
えー……歌付きかぁ。ロックかなぁ。癒やしだから、子守歌っぽいやつなのかな。ちょっと聞いてみたかった。
ちなみに吟遊詩人が高額で買ってくれたらしい。癒やし効果を利用して、貴族のサロンとかで披露してるんだとか。
ふーん。ゲームだと吟遊詩人ってジョブがあるけど、この世界の吟遊詩人はバフとか掛けられるのかなぁ。
「興味があるなら、プレニアヌって街に行ってみたらどうかしら。ダンジョン都市よ。このあたりでは1番大きなダンジョンと街なの。武器防具屋もたくさんあるし、掘り出し物が見つかるかもね」
リンドさんが小首を傾げながらそう言った。
ダンジョン都市か。アンデッドダンジョン以外には、まだ潜ったことないんだよな。機会がなくて。そろそろまたチャレンジしてみてもいいかもしれない。いやでも、潜る前に装備を整えるべき?
「ああ、それもいいかもな。あそこは楽しいぞ! 1日武器屋巡りをしても時間が足りねぇくらいだからな」
キナスの目が輝く。
「まあ、武器屋巡りはともかく、冒険者関連の施設や店が揃ってるから、行って損はないと思うよ」
ニコラも賛成のようだ。
コクシンを見上げる。うんと頷く。ラダの方を見上げる。うんうんと頷く。ならば行ってみようじゃないか、ダンジョン都市とやらへ!
リンドさんと3人にお礼を告げて別れる。結局なにも買わずに話をしただけだったけど、リンドさんは「気に入ってないものを売りつける気はないわよ」と笑ってくれた。「これでも売れっ子なのよ」とも。
さて、すぐ出発するべきか、もうしばらくここでお金を稼ぐか。どうしようね?
「とりあえずさ、帽子を買おうよ」
借り家に戻る途中、ラダがそんな事を言いだした。
「なんの帽子?」
「レイトのブタさん帽子」
「……」
思わず立ち止まった俺を、コクシンとラダが不思議そうに振り返る。
「……たしかにダメになっちゃったけどさ、改めて買い直すほどのものでもないよね?」
ロックウルフに串刺しにされてしまったブタさん帽子。ブタさんポシェットはそれなりに気に入ってるけど、帽子は正直どうでもいいんだが。というか、あれをこの街以外で着用するのは勘弁してもらいたい。
「かわいいのに」
「かわいいは求めてないんだよ」
「かわいいのに」
2人してなにさ! 断固拒否する!
「どうしてもって言うなら、2人も同じの被ってよね」
「「……」」
なに、その無言。お互いの頭部見て頷くんじゃないよ。冗談に決まってるだろ。
「それより、冒険者ギルドに寄って帰ろう。プレニアヌへの護衛依頼あるかもだし」
あったら即出発でいいし、なければいくつか依頼を受けてからでいい。羊肉も手に入れたいしな。
冒険者ギルドに入ると、すぐに顔見知りの人に声を掛けられた。といってもギルド職員だが。
「なんだ、山狩手伝ってくれるのか?」
「違います〜。プレニアヌ行きの護衛依頼ないかと思って」
「なんだ。もう出ていっちまうのか? プレニアヌまでは距離があるからな、お前らのランクだとないぞ?」
腰に手を当て、はふーとギルド職員が息をつく。疲れているわけでも呆れているわけでもなく、彼の癖らしい。言葉尻がたまに「はふー」になる。
「え、そうなんだ。そんなに遠かったっけ? このあたりで1番大きなダンジョン都市とは聞いたけど」
街に来たばかりに見たこのあたりの地図を思い浮かべる。縮図が曖昧だったりして、地図で見たよりも近かったり、時間がかかったりはよくある。
「そうだなー、馬車で10日はかかるな。途中山道でクネクネしてるからな、見た目より時間がかかる」
「そうなんだ」
「なんだ。ダンジョンに潜るのか? はふー」
「ダンジョンというか、装備を整えたくてさ。色々考えてたら、ダンジョン産でいいのがあればなぁ〜みたいな」
「お。うちの購買寄ってくか?」
ちょっと一杯呑んでく? みたいなノリで、奥の購買室に連れて行かれる。
「キナスさんがここにはないって言ってなかった?」
こそっと耳打ちしてくるラダに、「しょうがないじゃん」と肩を竦める。この職員さんには、この街に来た初日に俺が絡まれて、助けてもらったという恩があるのだ。軽いノリで話しやすいし、割の良い依頼を紹介してくれたりもした。それに、掘り出し物があるかもしれないしね。
「どういったものを探してるんだ? はーどっこいしょっと」
部屋の入口にいた担当の職員に手を上げ、俺達を案内してくれた職員は丸椅子に腰掛けた。足を組み、「さぁご要望を」と芝居じみた仕草で両手を広げる。
「とりあえず、3人とも防具をグレードアップしたいんだよね。俺は軽くてサイズが合うものがいいな」
次、と、コクシンを見上げる。
「うーん。動きを阻害されないものなら……。あと、あまり高くないものを」
「僕はねぇ、よくわかりません!」
コクシンに続き、ラダも答えるが、誰ひとり具体的な物の名前が出てこない。興味がないにもほどがあるな、俺たち。いや、実際わかんないんだよな。組み合わせっていうか、最適解が。
「うーん、ちょっと待って。はー」
よっこいしょと立ち上がった職員さんは、購買担当の人と話し込み始めた。あんな説明でいいんだろうか。あ、何個か手にして戻ってきたぞ。
「はい、チビちゃんにはこのターバンはどうかな? 中に硬い革が仕込んであって、蒸れない工夫もされてるんだ。金髪のお兄さんには、これ。腕につけるバックラーだ。昨日みたいなことがまたあるかもだしな。はふー。で、そっちの君はこれ。丈夫な靴だよ。棒使いだと、蹴りも使うかなーと思って」
おぉー。なんか色々出てきた〜。
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