あっれー?
「ぶっちゃけますと、窓口になってくださいってことですね」
今度は俺のプレゼンである。
「俺たちは冒険者です。そろそろ移動したいんですよね。でも、これをギルドに教えると、量産を頼まれると思います。ラダを置いていくっていう手もあるんですが」
「えぇ!? やだよひどいよ! 僕も行くからね!?」
がたーんと椅子を鳴らして立ち上がり、座っている俺に被さるように抱きついてくるラダ。
「ということなので、知らぬふりして去ろうかなーとか思ってました。そこで会ったのが師匠ことコーネギーさんです。ラダの師匠であれば、信頼が置けますし、手順の習得改善も早いと思われます。長年店をやっていたなら、ギルドとのやり取りも慣れてらっしゃるでしょうし」
むふーっとコーネギーさんが鼻息をもらした。ラダにどうどうと席に戻ってもらう。
「なるほど。まぁ、なんとなく言いたいことはわかった。こっちで好きにしていいのか?」
ちょっと考える。
普通なら、レシピを売るだけでそれなりのお金が入ってくる。あとは冒険者ギルドが薬師に依頼して作らせるか、レシピをさらに売るかだろう。
今回は間にコーネギーさんを挟みたい。コーネギーさんにレシピを買ってもらうという手もあるが、どうせなら冒険者ギルドに恩を売りたい。
それに消臭剤はともかく、アンデッド消滅薬は素材が特殊だし、人体を害す可能性がある以上、レシピを知る人間を制限したい。その点も、この業界が長いコーネギーさんなら、信頼の置ける人物に心当たりもあるだろう。まぁ、メルさんがいるから大丈夫かな。
そんな感じのことを、つらつらと話してみる。
「ふぅん? そんなに特殊なものなのか? その消滅薬とやらは」
コーネギーさんの言葉に、ラダがちらっと俺を見た。
俺は魔法鞄から保存瓶に入った樹液を取り出した。いろいろ実験の過程で小分けにしていたので、これは渡しても問題ない。本体を教えるかどうか迷ったが、消滅薬は無きゃ困るもんでもないし、無くなったら無くなったでいいんじゃないかな。
「この瓶に入ってるのが、素材の1つ、樹液です。不思議なことに、これ増えるんですよ」
「増える?」
「はい。ほっとくとね。どれぐらい増えるかは、ラダに聞いてください。小分けにして増やしていけば、多分無くならずに作り続けられるはずです」
過剰に作らなければ大丈夫なはずだ。そのへんの管理もお任せである。
詳しい作り方は後でラダに聞いてもらうとして、俺は使用上の注意を中心に喋る。オッケーもらう前に喋っちゃってるけど、まぁいいや。受けてくれそうな雰囲気だし。コーネギーさんの横で、メルさんがメモを取っている。
ラダと喋っていたコーネギーさんが、何度か頷いた。
「レシピは理解した。作る方は問題ないだろう。しかし、中級回復薬も使うのか。値が上がりそうだの」
「まぁ、そのことや使用方法も兼ねて、ギルドと話し合わないといけませんね。明日とか、時間大丈夫ですか?」
「うん? 今からでも構わんぞ?」
確かに昼過ぎだから、行けるといえば行けるけど。伺うようにメルさんを見ると、保存瓶に棒を当てて液体の高さを測っていた。あ、定規ってちゃんとあるんだな。
「私は構いませんよ。さっきの話をまとめて、そうそう、コランの実が必要なのよね? 追加で依頼出さないと。キノコと花も! 回復薬はあるわね。どのレベルのものが…うん? ちょっと増えたかしら?」
メモ書きしつつ、指折しつつ、メルさんがせわしなく行ってらっしゃいと手を振る。いや、そんな数分では増えないはずだけど。再び瓶に定規を当てて、目を細めている。
「…ああなるとしばらく動かん。行くぞ!」
メルさんは研究熱心な人のようだ。ラダも始めるとそんな感じだし、調剤スキル持ちの人は、集中力があるのかな。
瓶とにらめっこを始めたメルさんを残し、冒険者ギルドに向かう。昼過ぎということもあり、ギルド長はお茶していた。俺たち+コーネギーさんを見て、今度は何だとばかりの顔をされた。
「こんにちは」
「おう。戻ってたのか。ダンジョンはどうだった?」
茶菓子を片付けながら、ギルド長が聞いてくる。
「それなりに楽しめました。あ、火炎…じゃなくて、火吹き棒は聞いた通り燃費が悪かったです。低層じゃあ、魔石代のが高く付きました」
「ハハハ」
まぁ、使い道はありそうだから、売らない。ちょっと買い取ってもらおうかなと思ったけど、また死蔵されちゃいそうだしね。
「では。えーお時間をいただきありがとうございます。こちらの方は、この街で薬店をなさってます、コーネギーさんです」
みんなで着席し、まずはコーネギーさんの紹介をする。と、初対面ではなかったらしく、お互い和やかに挨拶を交わしている。素材の依頼に来たときとかに、話をしたことはあったらしい。
ギルド長にコレコレとさっきと同じようにプレゼンする。ただし、レシピの内容は教えない。主に使い方と効果を宣伝する。
「おまえ……ちょっと行ってる間になんてものを…。いや、助かる! あのゴーグルも注文入ってんだ。なんかあったら教えろと言ったのはワシだ。非常に助かる! だがちょっと、間を開けてくんねぇかな」
ギルド長が頭を抱える。
「じゃあ、この話はなかっt「もちろん買うとも!」」
がばっと頭を上げて、睨まれた。なんでだよ。ギルドはお金出すだけでしょ。大変なのは、コーネギーさん宅よ?
「ありがとうございます。で、ですね。消臭剤の方はレシピごと売ります。生活臭にも使えるし、ダンジョン産キノコの使い道が出来ました。高く買ってください。それでお安めに売ってください」
「安くか?」
「出来れば。冒険者のみならず、市民にも使えますし。もちろん利益は出してください。何なら特産にしてください。キノコの買い取りが増えるのは冒険者に利が出ます。ひいてはダンジョンに潜る人も増え、ギルドが潤います。そんでもって、潜る人が増えれば増えるほど、消臭剤は売れます」
効果は実証済みである。あれなら、帰ってきたあと宿や店の人に敬遠もされない。潜っている間は我慢するしかないが、出たあとは臭いに困らない。まぁ、汚れが落ちるわけではないのだが。
「おまえ、本当に幼児か?」
「誰が幼児だ。大人ですー。ぴちぴちの7歳ですー」
言ってる言葉に俺も違和感を感じているのだがね。でも成人してるんだもの。この世界の理が悪いのだ。
「はぁ、分かった。できるだけ高く買う。それで、もう一つの方は?」
ギルド長がお茶を飲む。俺も出されていたお茶を飲んだ。むむ。この間のと違う味。ちょっと、ラダ。こっそり俺の魔法鞄からクッキーを取り出さない。このお茶と合いそうだけども。配りなさいね、みんなに。
「はい。えーそこでご相談が。素材の1つが特殊なので、今のところ俺とコーネギーさんしか持っていません。広く共有するか、独占販売、委託販売?まぁその辺はわかんないけど、どうするかはお2人で話し合ってという感じで」
「いきなりざっくりになったな。要は、物は売るがレシピは出せんということか? だが金は出せと?」
「そうですね。コーネギーさん、どう思います?」
話を振ると、お茶をちょっとすすってから、ふすんと鼻を鳴らした。
「消滅薬のレシピはワシが買おう」
「えっ、でも…」
「それなりに蓄えはあるんでな。あとは冒険者からガッポリ返してもらうわい。店頭にぽんと置いとけば売れるようなもんでもない。値段も高くなる。聞いた感じ、高ランクの冒険者が買っていきそうじゃ。なら、中級回復薬とか他の薬も買っていってもらえるじゃろう。損はないわ」
いや、そう言ってくれるのは嬉しいんだけども。面倒ごと押し付けてるのに、更にお金頂戴とか、どうなのよ。
「んん、んー。分かった。じゃあ、半分うちで出す」
ぽんとギルド長が膝を叩いた。
「いらん。ワシが払うわい」
「いやいやいや。アンデッド消滅薬とか、絶対欲しいんですけど! うちにも置かせてくださいよ!」
「しかしのぉ」
「分かった。聞いただけじゃわからんから、ダンジョンに行こうじゃないか。この目で確かめたい。それで危険だと言うなら諦める。どうだ?」
コーネギーさんがぐぐっと身を乗り出した。
「それはいい意見じゃ! 使い方がどうこう言っとったからの。ワシも実際に使うところを見たかったんじゃ!」
「決まりだ。ちょっと待っていてくれ、スケジュールを確認してくる!」
立ち上がったギルド長がバタバタと部屋を出ていく。「おーい、お茶菓子お出しして〜」とか言いながら。コーネギーさんは満足気にウンウンしている。
おいおい、なんか勝手に話進んでるんですけど。これ、俺たちも同行する流れですかね?
「当たり前じゃ」
入れ直してもらったお茶をすするコーネギーさんのお言葉に、俺たちは顔を見合わせるしかなかった。




