ゴーストのパンツの使い道
「ふひぃー」
帰ってまいりましたよ。仮ではあるが我が家に。荷物を置いて、早速風呂に浸かる俺。今日ばかりは一番風呂をもらった。馬車旅辛いわー。
帰還の道中? 特に何事もなかったよ。新たに肉とオニオンフライをゲット出来たぐらいか。借金2人組はせっかく運んできたからと、アルコンガラはちゃんと持ち帰っていた。多少の値は付くらしいよ。街に着いて1番に、冒険者ギルドへと走っていった。
さてさて、当初の目的だった「ダンジョンを覗いてみる」というミッションはクリアしたわけだが。これからどうしようかな。この街にも結構長く居るな…。せっかくの消滅薬をそのままにしとくのはもったいないけど、もう他の街に行こうかなー。
とりあえず、明日はギルド行ってドロップアイテムを買い取ってもらわないとな。
「あ、クライウルフの肉も買い取ってますよ」
ニコニコとギルド職員のお姉さんが、俺が魔法鞄から出していくアイテムを数えていく。ドロップアイテムの肉は腐りにくいらしい。安いけど需要はあるようだ。
「これは何に使うんですか?」
謎のままだった、ゴーストのパンツを出していく。
「ゴーストの布ですね。これはですね、魔力を通すとある程度思い通りの形になって、固定されるんです。サイズが小さいので、小物とかですかね」
あれ、名前が違うな。こそっと改めて鑑定したら、『ゴーストのパンツ・布』となっていた。地方によって呼び名が違うというアレかな。
「ちょうど彼女が付けてる、それがそうですよ」
隣のカウンターにいる女性に目を向け、ちょいちょいと髪を指さした。黒いバラの花に似た髪飾りがついていた。ちなみにこの世界には黒=喪という考えはない。
「へぇ~。あんなふうになるんですね。誰でもできるんですか?」
「さぁ。どうかしら?」
そこまでの興味はないのか、お姉さんは首を傾げた。面白そうだから、数枚売らずに持っておこう。
あとは骨とか魔石とか、大体の物は売ってしまう。いくつか武器も落ちたのだが、今持ってるのよりだいぶ劣るものなのでこれも売る。属性魔石は3つしか手に入らなかった。ゴーレムには遭遇しなかったし、稼ぎとしてはいまいちだろうな。
査定待ちの間、部屋の隅でゴーストのパンツで遊んでみる。いや、布呼びにしよう。ぽろっと口から出ちゃったら、どんな目で見られることやら。
「何作るの?」
ラダは興味津々のようだ。コクシンは掲示板を見に行っている。
「何にしようかなぁ」
ちょうど正方形だし折り紙を意識して作ってみようかな。簡単なものしかできないが、鶴とかどうだろう。
まず布を手に、魔力を通してみる。ウ~ン、ウ~ン。あ、こうか。広げる感じだな。十分行き渡ったら、鶴のイメージを送り込んでみる。
「わぁ!」
ラダが目を見開く。俺の手のひらの上で、パタパタと布がひとりでに折られていく。なにこれ。おもしれぇな。完成した鶴が動きを止めた。魔力を通すのをやめると、摘んでも解けない。再度魔力を込めることは出来ないようだ。作り直しができないのは、大変だな。
「すごーい! これ鳥だよね!」
…ラダは喜んでくれているが、俺のいたずら心は不発に終わった。足つきの折り鶴にしたのに。元々を知らないラダは、なんの違和感もなく受け入れてしまっている。違うんだ。ナニコレキモーイ!とか言ってほしかったんだ…。
よく作ったなぁ、がに股の鶴。くすっと笑えるその姿が、場を和ませるのに役立ったもんである。
足はハサミを入れないといけないのだが、問題なく形になっている。例えば切り貼りしたものでも、1つの形になるならオッケーってことなんだろう。
「ん。なんだそれ。呪いの人形か?」
戻ってきたコクシンがそう言って首を傾げる。それはそれでひでぇな。頭に乗せるぞ、このやろう。えいっ。しゃがんでいる金髪王子の頭上で立つ折り鶴。やべぇ、笑える…。
「わ、笑うことないだろう!」
ちょっと顔を赤らめて、コクシンは慌てて頭の上から、鶴を取った。ギュッとしても形崩れしない。うーん。作っといて何だけど、こいつどうしよう。
「ブランカさーん」
お。査定が終わったようだ。今、女性名だと振り返った男性諸君。残念だったな、ショタだよ?
「こちらが明細になります。よろしいですか?」
職員のお姉さんが紙を見せてくれる。やっぱり赤字である。まぁ、しょうがない。稼ぎに行ったわけではないと諦めよう。
「ありがとうございます。現金でください。あ、あと、これ差し上げます」
カウンターの上に、ちょこんと立つ折り鶴。おお、立った。と地味に感動していたら、
「なにこれ、かわい~~!」
と、お姉さんが立ち上がって叫んだ。え? 可愛いですかね? コクシンには呪いの人形とか言われましたけど。
「え、これ。ゴーストの布で作ったの? 今? すごいじゃない!」
何やらえらい褒められてテレテレしてしまう。まぁ、頭を撫でられているので、「良くできました~」的なノリだとは思うが。
「せっかくだから、私これ買うわ!」
「えっ、いや、そんなつもりじゃ…」
「その代わり〜もう一個作ってくれない? もちろん材料はこっちで出すわよ」
って、今買い取ったばかりのゴーストの布を差し出してくる。いや、いいんですけどね。なんだなんだと、注目されちゃってるんですけど。助けを求めてコクシンを見ると、そっと気配を消している。ラダはその後ろであわあわしていた。しょうがない。自業自得だ。
「えーと、同じのでいいですか?」
「違うのもできるの? じゃあ違うので!」
注文いただきました~。さて、何にしようかな。そんなにレパートリーはないのだが。兜とか作っても、分かんないよなぁ。あ、カエルにしよう。頭の中で手順を確認する。うんうん。ちゃんと覚えてるな。
「じゃ行きまーす」
魔力を広げ行き渡らせたら、カエルのイメージを送り込む。パタパタ動く布に、おぉ~とどよめきが走る。業務が止まってるんですけど、いいんですかね?
テレレレッテレー! 黒いぴょこぴょこカエル誕生です。残念ながら、布製なのでぴょこぴょこはしませんでした。折り紙だと、お尻押すと跳ねるんだけどなぁ。
「いや~! かわい~~!」
あ、これも可愛いなんですね。良かったです。
「これカエルだよな? よく出来てんなー」
ひょいっとカウンターの上からカエルを摘み上げる、見知らぬおっさん。きっと睨んだ職員のお姉さんが、ぱっとそれを取り返した。
「触らないでください! 私のなんですからぁ」
それから俺を見て、ニコッとして銀貨を数枚握らせてくれた。もちろん布の買取価格以上だ。
「ありがとうね。査定分のお金は今用意するわ。ちょっと待っててね」
奥へと行ったお姉さんが、自分の机に鶴とカエルを並べて「んふふ」と満足気にしている。気に入ってくれたようで何よりである。
それにしても。周囲の目が痛いんですが。作りませんよ? もう作りませんよ? ちょっとそこの人! 「ゴーストの布1枚」とか言って買ってるんじゃありません!
…後日、折り紙教室を開くことで納得してもらった。ゴーストの布でなくても、普通の紙で作れることを説明しましてね。そちらで習得してから、自分で作ってもらう方向で。だって、何体も足の生えた鶴作るの嫌だもの。
お金を受け取り、冒険者ギルドをあとにした。助けてくれなかったコクシンとラダには、お使いという名のお仕置きをする。フッフッフッ。若い女性の店員さんがいる店を選んでやったぜ。しどろもどろするがいい。
買ってきてもらったサンドイッチでお昼ご飯だ。広場には同じように、食事をしている人がちらほら見える。あ。借金2人組だ。虚空を見つめている。見なかったことにしよう。
「うぅぅ。美味しくない…」
フードを深く被ったコクシンが、サンドイッチを見つめて嘆いた。店員さんとそのお友達に囲まれ、存分にキャーキャーされたコクシンのサンドイッチは具全部盛り。サービスでしてくれたようだが、味がケンカをしているもよう。ラダも同じ目にあっている。俺のはノーマルだよ。ぷふふ。
なんだかんだと完食し、さて午後はどうしようと首を傾げる。もう家帰って、まったりしようかな。
「おや。そこに居るのは、ラダかい?」
ん? 誰だ?




