入り乱れるとマズイ
「うあっちゃー!」
真横に着弾した炎の熱さに、思わず横っ飛びになった。
「レイト! 大丈夫かっ!?」
「平気っ!」
コクシンに無事を告げ、突っ込んできたクライウルフに思いっきり岩石を落とす。頭が潰れて体ごと消えた。えーと、次はどいつだ?
「ふぎゃー!」
猫がいる。あ、ラダか。棒を振り回しているが、パニックになっていて当たっていない。付きまとっているのは、ゴーストか。
「ラダ! 落ち着け!」
コクシンの声が聞こえるが、土煙で姿は見えない。乱戦になってしまって、それぞれ位置が離れてしまった。俺がここから攻撃するとラダに当たりそうだ。あ、いや、10倍液ならかぶるくらいなら大丈夫かな。
魔法鞄から、ストックの瓶を取り出す。
「当たりますよう、にっ!」
振りかぶって投げる。ぶわっと膨らんでいるゴーストの肩のあたりに当たった。音もなく消えるゴースト。その向こうにへたり込んでいるラダの姿が見えた。あとは、コクシンの方か。追加来るなよ?
「こ、こわこわこわ…」
ラダがガタプルしている。コクシンは肩で息をついている。俺はマントがちょっと焦げた。
「今のはヤバかったね。ここに来て挟み撃ちされるとは」
「すまない。前に出過ぎた」
「いや、コクシンのせいじゃないよ。ここまでバックアタックなかったから、俺も油断してた。前から来る分には数が多くてもこなせてたけど、分散されるとマズイね」
あたりを警戒しつつ、水で喉を潤す。
現在、6階層に入ってちょっと行ったところ。魔法が増えたところでさほど支障はないと思っていたが、乱戦になるとマズイことがわかった。
放たれる魔法は固定されてなくて、火・水・雷などなどいろんな属性で攻撃してくる。幸い単発の魔法攻撃なのでなんとか直撃は避けられているが。
あと、コクシンしか広範囲攻撃がないのがつらい。俺も頑張れば複数石飛ばせるんだけど。相性悪いんだよな。火炎放射器は調子に乗って連射してたら、火の魔石が残り一個だし。それから、ラダの消滅薬が現状1体ずつしか処理できないのも問題だ。
「うーん。ラダさぁ、消滅薬を霧状にすることできない?」
「き、きり…? って、なに?」
うあーそこからかぁ。
「えーと、小さい水滴状。こんな感じ」
水を口に含んで、誰もいない方を向いてブーッと吹き出す。
「もっと細かく広範囲に出せたらいいけど。これなら複数同時に倒せるでしょ?」
「あーうん。なんとなく分かった。だいぶもったいないことになりそうだけど」
ウンウン頷きながらも首を傾げている。
「そこはもうしょうがないね。薄めると一発で消えてくれないし。これがうまく行けば、瓶代もかからなくなるし。ただ、飛距離でなくなるから接近戦用かな」
「遠距離は、コレまで通りか?」
コクシンの問いに、うーんと唸る。
「一応考えてるのは、ほら、トリモチ投げるように作ったのあるだろ? あんな感じで玉が作れたらと思ってるんだ。小さくなるから、撃ち出す方法考えないとだけど」
トリモチ爆弾は、カラーボールみたいに衝撃で壊れるように作ってある。アンデッド消滅薬も何かでコーティングして玉にして、それこそ銃みたいなもので撃ち出せないかなとか考えている。
「なるほど。使い分けるのか。大変だな」
ラダを見てコクシンが苦笑する。それは作るのが大変だという意味か、戦闘時の判断が大変だという意味か。
「あとは、コクシンの風魔法で飛ばせないかなとも思う」
「うん? 私か?」
え、私も?みたいな顔で、コクシンが目をパチクリする。
「よく風で臭いを散らせてくれてるだろ? アレの応用かな。風の中に水を混ぜて飛び散らせるみたいな…」
ただ霧状にしたものを風で散らすのか、それとも直接コクシンが霧状にできるのかは分からない。どっちにしろ、コクシンにやってもらうと攻撃力が片寄るんだよなぁ。コクシンにはそのまんま風魔法と剣で戦っていてもらいたい。
そんなことをつらつらと喋っていると、おかわりが来た。うん。ダンジョン内で悠長におしゃべりしている場合じゃなかった。
前回の反省を活かし、バラけないように攻撃を仕掛ける。やってきたのは、スケルトン1体とゾンビが2体。あと、クライバット2体。
クライバットは5階層から出てきた、コウモリの魔物だ。攻撃力はさほどないが、上からの攻撃と声で耳をやられる。超音波ではなく、実際の声だ。ガラスを引っ掻くような声を出すので堪らない。
「まず一匹!」
クライバットを指鉄砲で狙う。前世で知っているコウモリよりだいぶ大きいので狙いやすい。腹を撃ち抜く。落ちたクライバットは、コクシンに切り飛ばされたゾンビと混じって消えた。
「次!」
しまった。被膜に当たった。落ちたクライバットが大音量で声を上げる。尻がゾワゾワするような声に思わず俺も声を上げながら、尖らせた岩を落としてとどめを刺す。その頃にはラダがスケルトンを粉砕し、コクシンがもう1体を倒していた。
「ごめん。しくじった」
「いや、大丈夫だが…。あれは何やら精神に来る音だな…」
コクシンが大丈夫と言ってくれるが、顔はしかめっ面だ。体をモゾモゾさせている。分かる。俺もなんか落ち着かない。ちなみにうるさいだけで、本当に精神魔法とかを使われているわけではない。
「はい。全部拾ってきたよ」
「お。ありがと、ラダ。ラダは平気なんだな、あの声」
「うん? まぁゾワゾワはするけど、なんともないよ」
小首を傾げていい笑顔を見せる。意外と丈夫なんだよな、この子。臭いも平気だったし。鈍いのかな。とか失礼なことを考えていたら、ぼこっと頭になにか当たった。
「あ、キノコだ」
頭を擦る俺の代わりに、ラダがそれを拾い上げる。例の紫色のキノコだ。見上げるともさっとコロニーを作っているのが見えた。さっきの攻撃の余波で落ちてきたのかな。
と、拾い上げたラダがパカっと口を開けたまま固まっていた。
「ラダ?」
「れれれれレイト! 来た! 来たよ!」
「お、おおぅ!? なに、なにがっ?」
いきなり揺さぶられて、こっちもアワアワする。
「消臭剤! いまレシピがぴぴっと来た! このキノコで作れるよ!」
「え、ええぇ!?」
ここに来て消臭剤か。俺が鑑定したときは、そんな情報出なかったけどな。もう一回してみよう。
『カカヤキノコ
アンデッドダンジョンに生えるキノコ。毒はないので食用は可能。裏が白いものは消臭剤の素材となる。』
あれ、文が増えてる。俺の鑑定って、俺の興味に従って結果が出るみたいなんだよなぁ。例えば買い取り値段とかは出ないけど、やたらと食用の可否は出る。剥いだ皮にまで「食えるよ!」みたいな文が出て、ツッコんだ覚えがある。初めから、調剤に使える?という意識で見ていたら、出たかもしれないな。
「うん。裏が白いものが調剤に使えそうだね。採っていこうか」
といっても、コクシンでも手が届かない天井部分にある。ここで活躍するのが、ガンちゃんである。うちの子壁歩けるんだよ! まぁ、正確には下半身が壁に埋まってて、地中を移動してる感じなんだけどね。逆さになったガンちゃんが、土塊とともにキノコを落としていってくれた。最終的にリンクの切れたガンちゃんの首が落ちてきて終了。
すべて裏が白いキノコだった。入口付近で採ったものを、鞄から取り出して確認してみる。裏は黒い。うーん。アンデッドに触れると黒くなっちゃうのかな。
余裕があるときにキノコは採ることにするとして。
「このまま進んで大丈夫かな…」
乱戦を避ければまだ行けるかな。でもなぁ。ギリギリを攻めるのもなぁ。今6階層でしょ。10階層までは無理じゃね? 帰るなら今?
「と思ってるんだけど、どう?」
2人に聞いてみる。いつものように顔を見合わせてから、「それでいい」と頷いた。
「んじゃあ、引き返すかぁ」
「ん、待て。足音がする」
コクシンの声に、足を止めて壁際に寄る。




