ガンちゃんとドロップアイテム
「ガンちゃーん!」
頭がごろりと落ちたガンちゃんが、無惨にもスケルトンに踏み潰され粉々になった。思わず膝をついてしまった俺の横を抜け、コクシンが斬り込む。2体のスケルトンが瞬く間に粉砕され、1体のゾンビがラダの投げた消滅薬によって消え去った。
「レイト。大丈夫か?」
ドロップアイテムを拾ってコクシンが戻ってきた。
「うん。やっぱりだめだったかぁ」
跡形もないガンちゃんにガックリ肩を落とす。埋め込んでいた魔石を拾い上げると、ちょっと欠けているのが分かった。上手くいかないな。
話は少し戻る。
やることがないとぶーたれていてもしょうがないので、なにかないかと考えた末思い付いたのが、『そうだ!土魔法でゴーレム作ろう!』だった。
まず、土人形を作り、動かせるようになるのに結構かかった。階段での休憩中に試行錯誤して、ようやく自立して2足歩行出来るようになった土人形。命名ガンちゃん。頑張っても体高30センチの小さなゴーレムだ。小さいくせに、ゴリゴリと魔力を食う。
改善案として、魔石を埋め込んで動力源っぽくなるようにしてみた。あんまり意味はなかった。ついでに、起動するまでに時間がかかる。
「うーん。土人形を予め作っておいて、魔物と遭遇したときに魔力を通す? それでも時間掛かるよなぁ。そもそも連れ歩くくらいできないと、意味がないような…」
眼の前でガンちゃんがクキクキと左右に腰を振っていた。その度土がポロポロこぼれてしまっている。ふっと俺と繋がっていた魔力が途切れた。ごろっと首が落ちる。
「ぐぬぬ…」
操作が難しい。いや、おかしいな。そもそもゴーレムってこんなのじゃないはずだ。ずももっと即座に作れて敵の足止めとかに使うんじゃなかったっけ。
まぁいい。実戦あるのみだ。俺もゴーレムも成長していくはずだ。
といったわけで、ゴーレムを戦闘に投入しているわけだが。蹴飛ばされるわ、蹴った足のほうが砕けるわ、殴りつけた腕がもげるわ…。惨敗である。
「強度が足りない…」
何が足りないんだ。俺のイメージか?
もう何度目かの復活を遂げたガンちゃんが、クキクキと左右に腰を振っている。いや、その動きは何だ。今そんな指示は出してないはずだが。待機中は大人しくしているように。腰をよじったところで止まるガンちゃん。
「レイト。次行くぞ」
「ほーい」
興味津々で見ていたコクシンも、もういちいち気にかけなくなってきた。ラダは…なんというか、慈愛の目で見てくる。ゴーレムに名前を付けたことを面白がっているようだ。
「行くよ、ガンちゃん」
歩き出したガンちゃんが、ぼこっと音をさせてつんのめって転けて砕けた…。
…ちょっとオネンネしときましょうか。
そんなこんなで、3日目5階層に突入ですよ!
道幅が広くなり、天井も高くなった。相変わらずの洞窟仕様だが、ちょっと装飾が増えた。上の方に松明が点々と設置されている。あと、所々に蔦のような緑があったり、謎の凹みがあった。
「トラップはないって聞いてたんだけどな」
足元にある凹みを覗き込む。道の真ん中に無意味にある。深さ5センチほどだから、たまたまだろうか。ちょうど大人の足が入るくらいの大きさ。躓くようにかな。それとも何かの魔法の跡かな。
「レイトー?」
ラダが近づいてきて、ムギュッと無造作に俺が見ていたくぼみを踏んだ。…何も起こらなかった。なーんだ。ただの凹みか。
「行くよー?」
「はいはい。さっきも言ったけど、こっからは魔法使ってくるからね。ラダは不用意に突撃しないように」
「分かってるよ。まずは、消滅薬の効果確かめるんでしょ」
同じように数滴のもので効くか、確かめないとね。一応、魔物のランクが上がることになるんだろうし。
うちにはタンクがいないので、魔法は基本避けることになる。まぁ、魔法を撃たれる前に攻撃すればいいのだが、威力は知っておきたいので、何発かは撃たせる予定。
「来たぞ!」
先頭のコクシンが立ち止まる。カシャカシャと歩いてきたのは、武装したスケルトン1体だった。革の防具と、刃が欠けた剣を持っている。カタカタ顎を鳴らしながら、腕を振りかぶった。うん待て。剣を持ってない方振りかぶってどうする。
ごしゃ!
ひらりと避けたコクシンが、剣で上から下に砕く。防具はあまり関係ないみたいだ。紙みたいに裂けている。骨の山になったあと消え、出てきたのは大腿骨だった。
「ドロップアイテムは一緒かぁ。強さはどうだった?」
コクシンに聞くと、ちょっと首を傾げた。
「今のやつに関しては、変わらないな」
まぁそうだね。武器で攻撃してなかったし。
「次は剣で受けてみよう。脆そうだったから、大丈夫だと思うが」
「分かった。気をつけてね」
とことこ先へ進むと、曲がり角からゾンビが出てきた。2体だ。すぐさまラダが鞄から消滅薬を取り出す。休憩のたびに追加で作っているので、まだたくさんある。
「ていっ! あっ!」
1本目がひらりと避けられた。ゾンビの手がぼんやりと光る。
「魔法くるぞ!」
ラダが2投目を後ろのゾンビに投げた。音もなく消滅するゾンビ。それと同時に、ぼんやり光るそれをゾンビが投げ付けてきた。左右に避けると、地面に触れたそれがバリッと音を立てた。おぉう、雷か、これ。
「せいっ!」
コクシンがゾンビを真っ二つにした。何かが飛び散り、臭気も強くなる。が、もう慣れたよ、ぶっちゃけ。人間は慣れる生き物なんだね。マスクなしでも、気持ち悪くなくなった。麻痺しているともいう。
「ドロップアイテムは、魔石…これは普通のだな。もう1つは、宝石かな。小さいけど」
薄い赤い色の、何故かカット済みの宝石だった。新品の革袋を取り出し、その中に入れておく。宝石はひとまとめにしておこう。
「今の魔法はなんだろうね?」
ラダが首を傾げた。
「雷じゃない?」
「雷。へぇ~あんな感じなのか」
そういえば、この世界ってあんまり天変地異がないんだよな。嵐も年一回あるかないかくらいだ。雷も身近ではない。静電気は、概念あるのかな。
「とりあえず、魔法には気をつけよう。消滅薬はちゃんと効くみたいだし、これは問題ないかな」
「でも、避けられたよ」
「そういやそうだっけ。まぁでも、投擲持ってるラダが投げるのが一番いいし。そこは頑張ってとしか」
「うーん。瓶だとちょっとブレるのかなぁ」
ラダが腕を組みながらウンウン考え込んでいる。球体に加工する方法を考えたほうがいいかもね。でも数滴分ってことは、パチンコ玉サイズかな。ビーズサイズ? 小さすぎると、投げられないよなぁ。
「ん。レイト、おかわりが来たぞ」
俺が追加のことを「おかわり」と言っていたら、コクシン達もそう言うようになった。
再び角から姿を見せたのは、クライウルフ3頭。こっちを見つけるやいなや、ダッシュしてきた。うーん。好戦的になってきたな。
「俺がやる!」
少ない見せ場だよ! こいつには普通に土魔法が効くからね。指鉄砲で狙って、弾は小さく尖らせて、発射! 1頭目、2頭目、的中! 3頭目は外した。
「でぇい!」
岩を作って上から潰す感じで、フィニッシュ!
「ふぃー」
やっぱり速いなぁ。散弾みたいにしないと、これから先は難しいかもしれない。
「あ。新しいの落ちてるよ!」
ラダがドロップアイテムを拾ってきてくれた。魔石と、肉と、なんだろう。丸い2つの玉。うん? 2つ…?
「えー…『クライウルフのあそこ』」
鑑定結果を読み上げると、ラダが首を傾げた。
「つまりは、睾丸だね」
ビクッとラダが体を震わせた。手から転がり落ちるタマタマ。コクシンも俺も目で追うだけで、拾おうとしない。
「ん、んー。効果はないし、食用でもないし、回収はしないでいいかな」
ドロップアイテムは放置しておくと、そのうちダンジョンが回収していく。ちなみに人間の死体も回収される。生きているうちは大丈夫で、鞄とか持ち物は数日放置していると消えるらしい。
「効果、ないの? オークだと薬になるんだけど」
ラダの言葉に、それなと思う。確か精力剤になるんだっけか。まだ出くわしたことはないけど、女性をさらって云々という奴ららしい。
「俺の鑑定では分からなかったけど、ラダならレシピ出るかもね! 持っとく?」
「う、ん、んん~」
葛藤するラダ。薬師としては持っときたいアイテムなのかもしれない。結局、お持ち帰りすることになった。ガンちゃんがすくって袋に入れてくれたよ! このためにわざわざゴーレムを起動した俺を、コクシンが呆れたように見ていた。ごめんよ、ガンちゃん。いつか活躍の場は来るよ!




