テンプレキターーー!
その後は何事もなく馬車旅が終了した。坊っちゃんは終始不機嫌で、なにか言いたそうに時折俺を睨んでいた。ほっときましたけど。坊っちゃんと一緒に、俺まで腫れ物のように扱われた。まぁ自業自得だ。ただオジサンは憑き物が落ちたように、清々しい顔してた。この後のことは知らんよ。
最後ゴタゴタしたけど、「時々あること」と、みんな笑ってくれた。肉美味しかったとの言葉ももらった。肉とゴタゴタでプラマイゼロってとこだろうか。
「じゃあな! またどこかで会ったら、一緒に肉狩ろうぜ!」
ハイターたちともハイタッチで別れた。彼らはこの街を拠点にしているらしいので、また会えるだろう。とはいえ、ランクが違うから同じ依頼を受けるのは無理だけど。
ニッツの街は、リドフィンと同じく石造りの街壁に囲まれた楕円形の街だ。雨が多くて、細かな水路が巡らされているのが特徴だろうか。街の直ぐ側、西側は森が迫っている。奥へ入れば入るほど出てくる魔物が強くなるのはどこも同じだ。
南門から入った俺は、街の中心部へと向かった。冒険者ギルドへと足を運ぶ。兎にも角にも登録しないと、始まらないからね。
冒険者ギルドの外観はログハウス風だった。ウエスタンドアではなく、普通の木製のドアだ。剣を重ねたようなイラストの看板がぶら下がっている。
さすがにフードを被ったままでは怪しいので、取ってからドアを開ける。さてさて、何が待ち受けているのか。
中はファンタジーでよくある、カウンターで区切られた銀行とか役所風だった。昼前という時間帯のせいか、あまり人は多くない。入って右側に、ズラッと掲示板がある。左側はいくつかのテーブルと椅子が置いてあった。酒場は併設されていないようだ。
トコトコと歩いて、空いているカウンターの前に行く。む。背伸びしないと机の上が見えない。チビの弊害がこんなところに! よいしょと、机に手を突いて背伸びをしたところで、後ろから声がかかった。
「おいおい、こんなところになんでガキがいるんだぁ?」
お決まりの言葉で絡まれた。振り向くと、ガラの悪い、見るからに下っ端風の男がいた。酒臭い。筋肉が自慢なのか、革鎧からムキッと覗かせているが、それが絶妙にダサい。ビールっ腹だから。バランスどうなってんの。
無言でじっと見上げる俺が怖がっていると思ったのか、頬を歪めて笑った。
「ガキはお家に帰ってママのオッパイ吸ってろよ」
いや、さすがのこの年の子供に言うセリフじゃないと思う。っていうか、俺そんな幼児ですかね。
どうしたもんだかと、対応してくれようとしたお姉さんを見上げる。ちなみに全員受付“嬢”だった。別にキレイなお姉さんを選んだわけではない。
「成人していれば誰でもなれます。御用でないなら後にしていただけませんか」
困惑している、というよりは、面倒くさそうに受付嬢が牽制してくれた。それに嬉しそうにさらに笑みを深める男。こいつ、俺じゃなくて彼女目当てか。
「まぁまぁファルちゃん。それよりお昼一緒にどうよ。奢っちゃうぜ?」
「仕事です。お帰りください。」
バッサリ切った。ファルさん、スンッって顔してる。
よし、用は済んだな。
「すいません。冒険者登録したいんですけど」
「かしこまりました。ではこちらの紙に…」
「おいおいおい! 俺が喋ってんだろうがよ!」
何事もなかったかのように話し始めた俺達に、男がくわっと目を剥いて怒鳴ってくる。いや、終わったじゃん。バッサリやられたじゃん。しつこい男は嫌われるよ。
「大体こんなチビが成人してるわけねーだろ!」
言いながら俺の肩をガシっと掴んで引いた。背伸びしていたので、踏ん張りきれずそのまま後ろにステンと転がってしまった。バキッと背中で鈍い音がした。
「ちょっと、なにしてっ」
「ああああー!!」
思わず立ち上がったお姉さんの声を遮るように、俺の絶叫が響いた。何事かとギルド内にいた人たちの視線がこっちを向く。
背に掛けていた弓を手に取った。
「壊れたー!!」
嘘ではない。弓が中程でポッキリと死んでいた。
「おばぁちゃんに買ってもらったやつなのにー!」
「知らねぇよ。どうせ使わな」
「ちょっとずつ貯めたお金で、買ってくれたのに! まだ一回も使ってないのに! 銀貨5枚もしたのにー! もうお金ないのにー!」
壊れた弓を抱きしめて喚く。泣ければいいけど涙は出ないので、座り込んだままギャン喚き。知るかよみたいな雰囲気だった男が、徐々にオドオドし始めた。
そしてタイミング良くその肩をぽんと叩く人物。
「騒がしいと思ったら、まさかこんな小さな子をいじめてるんじゃないよね?」
アマゾネスキター!
いや、ナイスバディーなお姉さんが来た。さすがにビキニアーマーじゃないけど、谷間がガッツリ見える鎧を着てる。俺は座ってるから見えるのは下乳だけど。腹筋割れてるぅ。
「うるせ……ひっ」
振り払おうとして、男が息を呑んだ。彼女は何もしていない。つまり顔を見てビビったのだろう。ということは有名人だろうか。
「どうなんだい?」
「し、知らねぇよ。勝手に転んだだけだろ」
「へぇ。あたしの目も耄碌しちまったかねぇ、アンタが引っ張ったように見えたんだが」
「ち、違っ、あ、そうだ待ち合わせガッ」
ブルブルと首を横に振り、出来の悪い嘘を吐く男。その肩に徐々に食い込んでいく、キレイにマニキュアが塗られた爪先。
「代わりのもの買えるだけのお金、置いていってやりなよ。偉そうにしてんだから、それぐらいの稼ぎはあるんだろう?」
「な、なんで俺が」
「ん?」
笑顔が怖いですお姉様。
男は周りに助けを求めたが、みんな面白そうにこっちを見ているだけだ。更にギルドに入ってきた人達に、状況がどんどん伝えられている。またかみたいな顔をしている人もいるから、常習犯なんだろう。
さすがにマズイと思ったのか、男は懐から何かを取り出すと、床に投げつけた。チャリーン!
「く、お、覚えてろぉ!」
捨て台詞を吐き、「見てんじゃねーよ」と喚きながら周囲を威嚇しつつ、ドアから出ていった。
どっと笑い声が上がった。指笛も聞こえる。
いやぁ、いいエンターテインメントでしたね。女神様に拍手です。