命名しちゃった
グンショーを探してウロウロ。なかなか見つからない。ラダが木の枝に引っかかったり、コクシンが蛇を踏んづけて悲鳴を上げたり、俺が穴に嵌まって泥だらけになったりしたが、見つからない。
もう、帰りたい。
心が折れかけていたら、ようやく見つけた。立ち枯れした木の根元に、白い三日月みたいな形をしたキノコたち。結構な数が出てきていたので、これ幸いと毟る。全採りはいけない。ちょっと残しておくのがマナー。1つ見つけると目が覚えるのか、次々見つけられるようになった。
「しかし、このままだとあまり美味しくなさそうだよな」
手のひらよりちょっと小さいくらいのサイズ。しっかりはしているので、袋に詰め込んでも大丈夫そう。匂いは…うん、土の匂いだな。鑑定さんも美味しいって言ってるから、美味しいんだろうけど。
「レイト、これは?」
コクシンが何かを指差す。キノコは毒ありも多いので、初見のものは基本触らないように2人には言ってある。
星型のキノコだ。
『グンショー/変異種
枯れ木に生えるキノコ。食用。普通種は白くて三日月型をしているが、聖属性の木に生えるものは星型の変異種となる。味に変わりはない。』
「これも、グンショーみたいだね。っていうか、聖属性か」
枯れ木を見上げてみる。真っ直ぐな木だ。生きてる木を探してみよう。植物にも属性があるんだな。
「聖属性?」
「アンデッドに対抗できるものが採れるかもしれない」
首を傾げたラダに答えると、「おぉ!」と喜んで探し始めた。幹だけでは特徴のない木だから、ちょっと時間がかかったが、無事発見。
大きな円錐形に葉を茂らせた木だった。葉は小さくトゲトゲしている。前世のショッピングモールで見た、クリスマスツリーみたいだ。もちろん装飾はないけど。
『ーーー
聖属性の木。触れるとちょっと癒やされる。小枝を玄関に飾ると、厄除けになる。魔物除けにはならない。樹液を精製するとアンデッドに有効なポーションになる。』
これじゃん! 探してたのこれだよ!
名前がないのは、わりとある。この世界の人に認知されていないものだ。なにか有用性がないと名前がつかないことが多い。この木も見た目普通だから、誰も気に留めなかったんだな。
「使えそうか?」
コクシンに頷く。
「樹液を使うみたい。ちょっと取ってみよう」
ナイフで傷を付けるか、穴を空けるか。感覚的に穴でいけそうなので、ぐりっとナイフで穴を空ける。木自体はそんなに固くないみたいで、簡単に空いた。そこに中が空洞の茎を差し込む。すぐにポタポタ水分が出てきたので、慌てて瓶で受ける。木にくくりつけて、しばらく待つことに。
途中で溜まった液を鑑定してみた。
『クリスマスツリーの樹液
聖属性を持つ木の樹液。煮詰めて魔力を込めるとアンデッド除けになる。コランの実の絞り汁、回復薬と調剤するとアンデッド消滅薬ができる。人体には無害。』
「…あらま」
俺の認識のせいで名前が付いてしまった。改めて木の方を鑑定したら、しっかり名前が「クリスマスツリー」になっていた。まぁいいか。
「レイト?」
「や、なんでもない。素材わかったぞ。コランの実と、回復薬、あとこの樹液。これでアンデッド消滅薬が出来るらしい」
「随分物々しい名前だな」
コクシンの言葉に頷く。確かに対抗できるものとは考えていたが、効きすぎな感がある。実際使ってみないとわからないので、とりあえずラダに作ってもらおう。配分まではわからないし。ちなみにコランの実は、さっきラダが採っていた赤い実だ。
しかし、これで目的は達成された。依頼のグンショーもたくさん採れた。あとは、樹液が溜まるのを待つだけだ。幸い落ちてくるスピードが早いので、日を改めるほどでもない。
「ん?」
なにかの足音だ。多分1つ。いや、なにか引きずってるな。コクシンも気づいた。ラダが遅れて気づく頃には、姿が見えていた。
「なんだ、びっくりした。同業か」
出てきたのは普通に人間だった。短く髪を刈り上げた、多分十代の男だ。腰に2本の剣が下がっている。右手には、何かの尻尾が掴まれていた。
「こんにちは」
とりあえず挨拶をしてみる。同業ってことは冒険者かな。彼は俺たちを順繰りに見て、それからふんっと鼻を鳴らした。
「この時間まで成果なしか。でかいのが2人もいて情けないな」
いや、ちょっと何言ってんのかわかんないです。
「今日は採取だからね。それより、臭いから早く向こう行ってくれない?」
にこっと答えると、男はまた鼻を鳴らした。
「血の匂いも耐えられんとは。向いてないぜ、お前」
「そうですか」
ちなみに臭いのはお前だ。この世界の人達は入浴の習慣がない。だからそれなりに体臭はあるけど、こいつは別格だ。体臭と血の臭いで酷い臭いだ。まるで勲章みたいに血がベッタリのまま平然と歩いているが、鼻が曲がりそうである。
こちらにさして興味はないのか、男は何かを引きずって去っていった。傷だらけの、多分狼だと思うんだけど、内臓出たまんまのものだ。
ぷはー。
止めていた呼吸を再開する。
「ふはー。酷い臭いだったねぇ」
こういうときに欲しいぞ、消臭剤。ラダも大きく息をつく。コクシンは無言で風を起こして空気を入れ替えていた。お陰でマシになった。
「もっと言ってやればよかったのに」
コクシンは不満げだ。なにか言い返そうとしていたのを、俺が止めたからね。
「ああいう人は何を言ったって自分の都合のいいように解釈するよ。多分魔法鞄のこと言ったら、今度は金持ちのお遊びかとか言うんだ」
「そうかもしれないが…」
「俺はそれより、ギルドでお姉さんがあれの相手をしなくちゃいけないのかと思うと、可哀想になってくるよ」
営業スマイルで乗り切るのだろう。それとも街中ではもうちょっとマシなんだろうか。
「お、瓶1本分溜まったな。とりあえずこれで今日は帰ろう」
ムカつくやつのことをいつまでも考えていてもしょうがない。
瓶を回収し、茎を引き抜く。
「おぉっ!」
びっくり。穴が塞がったぞ!? まるで逆再生するみたいに、俺がグリグリ空けた穴が消えてしまった。再生能力だろうか。聖属性ってすごいな。
ピトッと幹にくっついてみると、ちょっとささくれだっていた心が穏やかになった気がする。癒やされるってこういうことか。ちょっと枝とか拝借してもいいかな。
俺に倣って2人も木にくっついている。
「あ〜落ち着くぅ」
「うむ。これはいいな」
ということで、1人1本ずつ小枝を持ち帰ることにした。
いいものを見つけたが、公表していいものか微妙だな。乱伐されたら困る。でも、ダンジョンに限らずアンデッドに有効なものができたら、人々の役には立つ。
実験をしつつ様子を見るか。クリスマスツリーがそれなりの数あればいいけど、数本だったら、秘匿かなぁ。
途中角ウサギをゲットして街に帰ってきた。ラダが毛まみれだし俺は泥だらけだったので、一旦借りた家に戻ってお風呂に入ってからギルドに向かう。
とっくに日は暮れていたが、冒険者ギルドの中にはまだまだ人がいた。ここは酒場が併設されているので、にぎやかだ。寂れてる感じがしたけど、ちゃんといるんだな冒険者。
「おかえりなさいませ。ブランカさん、クロコさん、ラダさん」
応対してくれたのは、初めてここに来たとき応対してくれた受付嬢だ。あれやこれで名前を覚えられてしまったが、「いってらっしゃい」とか「おかえりなさい」をくれるのでホッコリする。
ちなみに再登録する際名前は変えた。ブランカが俺で、クロコがコクシンだ。あだ名とか思いつかなかったので、馬の名前で登録した。反応できないと困るから、耳馴染みのある言葉にしてみた。ギルド長には大笑いされたものだが。
「ただいま。これが依頼品のグンショーです」
袋詰のキノコを差し出す。ついでに3人分のギルド証も。彼女は袋を後ろの手の空いている職員に渡し、ギルド証を黒い板にピッとした。
「あと、胴長ひつじの羊毛あるんですけど、売れますか?」
「大丈夫ですよ。買い取りはあちらの…」
右手の方を差し掛けて、「あー…」と困った声を上げた。




