その後のあれこれ
「ふぃ~」
久しぶりのお風呂タイムである。
冒険者ギルドでのあれこれが片付いたあと、一度街の外に出た。風呂に入りたかったからだが、今から借りれる物件探すのも面倒だし、街の広場や宿の庭とかでは人目がある。もう外でいんじゃね?と出たわけだ。門から離れて移動し、外壁と森の間のスペースを見つけて風呂とテントを設置した。
ぐでんと縁にアゴを乗せ、温めのお湯を楽しむ。コクシンとラダはすでに入浴済みで、せっせとご飯の準備をしてくれている。
ジノイドとはギルドで別れた。
魔法鞄は気に入ったらしい。ほぼ有り金はたいて買うことになったが、ご飯を詰め込んでご満悦だった。お詫びを込めてということで、ちょっと値引いてもらったらしい。盾を背負っているので、体の前に魔法鞄を抱っこしている。ちょうど食べながら動くのにいいようだ。
こそっと鑑定してみたところ、元々そういう仕様の魔法鞄らしい。たくさん入れても見た目ぺちゃんこの鞄なのに、持ち上げられないという謎仕様。まぁダンジョン産なので、なぜかを考えても無駄だろう。ジノイドにぴったりの、ご都合逸品だ。
「レイト。いい加減上がらないとふやけるぞ?」
ボケーっとしていたら、コクシンが呼びに来た。
「んー」
「体調悪いのか?」
「いやいや、怒涛のような数日だったと思ってな」
「まぁ、そうだな」
コクシンとラダは引っかかるものがなくなったからか、楽しげでいつもよりキビキビしている。
「2人もゆっくりしてたらいいのに」
「私たちはどこかの誰かとは違うからな」
何を気にしているのやら。
「んじゃ、ご飯にしようか」
お湯を抜いて上がる。ホカホカになってだいぶほぐれた気がする。体を拭いて下着姿でストレッチ。うーん。ちょっとは筋肉ついたのかなぁ。服を着込んで焚き火のもとに向かうと、ラダがせっせと肉を回していた。
「おぉ、すごいね」
いわゆる丸焼きというやつだね。棒でぶっ刺した塊肉を回しながら焼いていくスタイル。焼かれているのはボアの子供だ。姿はうり坊だけど、しっかり突進してくる。
「もう焼けてるとは思うけど」
ラダの言葉に頷く。そぎながら食べれば問題無し。パンと野菜、あと、ぶどうのジュース。外だからアルコールはなしです。まぁ、普段からあまり飲まないけど。
「「「いただきまーす!」」」
ナイフでそいだ肉をパンに詰め込む。焼けた脂の香りがたまらない。シンプルだけど、十分美味しい。
「これからどうするんだ?」
久しぶりのゆっくりとしたご飯タイムを楽しみ、今はまったりお茶タイム。デザートといきたいところだが、特になにもない。ほとんど放出しちゃったからな。
「しばらくゆっくりしたいところだけど」
コクシンの問いに答える。ゆっくりしたいのだが、手持ちを考えるとそうもいかない。
「ダンジョン目的で来たけど、情報まだ何も調べてないからなぁ。明日一日のんびりして、ギルド行って情報もらって、食料買う前に依頼いくつか受けてお金作って…。あれ、やることいっぱいだな」
「ギルドか。大変そうだが…」
「そうだねぇ」
途中で副ギルド長が顔を出したのだが、話を聞いて大変お冠だった。何故か俺がハグされ、「こんな小さな子が被害に遭うなんて!」と潰されそうになった。ザマス眼鏡の似合うおばさ…お姉さんで、「ワタクシがしっかりしばき…教育し直してまいりますわ!」と意気込んで他の職員とともに旅立っていった。
そんなわけで、こっちのギルドも一時的に人員不足だ。まぁなんとか回すさ…とギルド長が遠い目をしていたのが印象的だ。
「また変なところに当たるよりかは、ちゃんとしてるここである程度稼いだほうがいいでしょ」
そんなわけで、しばらくこの街にいることが決定。明日はいつものように家を借りるところから始めようと思う。ジノイドと会うこともあるだろうが、その時はその時だ。そういえば、ジノイドの再登録ってしたっけな。お金はちゃんと全部渡したことは覚えてるんだけど。まぁいいか。
「えぇっ! 鉱山送り!?」
思わず声を上げると、「言い方!」とギルド長が顔をしかめた。もちろん、前のギルドの奴らの話ではない。彼らがどうなろうと知ったこっちゃない。ジノイドの話だ。
「鉱山で働くことになりそうだというだけだ。ほら、この間色々詰め込んで実験をしていただろう? あれを見ていた人がいてな。まぁ、わしの知り合いなんだが。鉱山へ食料を持って登り、鉱石を詰めて降りてくる。そういう仕事だ」
「ああ、なるほど。びっくりした。それなら1人で出来そうですね」
頷くと「うん?」と何かに引っかかったように、ギルド長が首を傾げた。
「1人で?」
「あれ、聞いてないんですか。彼『幸運』っていうスキル持ってて、1人のが都合がいいんですが」
どうも他の集団とともに行動予定だったらしい。ぶっちゃけると犯罪者と連れて行く兵士たちのことだが。俺が驚いたのも、鉱山=囚人というイメージがあるからだ。ナニかやらかしたのか、いやいや、またなにか擦り付けられたのかと、思ってしまった。
「はぁ~そういうことをなんであいつは言わないんだ」
「まぁ発揮されないってだけで、支障はないんですけどね」
無事空き家を借り、まったり活動を始めたところでギルド長に捕まった。ちょっと目の下にクマがあるのが不憫でならない。音沙汰がなかったジノイドの就職先が決まりそうだと報告を受けた。
「まぁ、それはともかくな、ローレイ様から君たちへ伝言だ。『すまなかった。きっちりシメ直しておくよ。アレはどんどん有効活用してくれて構わないよ』だそうだ」
「はぁ…」
アレって指輪のことだよね。もう使いたくないんですけど。トラブルに巻き込まれるってことだし。
「ついでに例のギルドの話も聞くか?」
「あーいえ、どうでもいいので」
肩をすくめると、ギルド長は悲しそうに笑った。
「それがいい。聞いたところで、くだらない腹が立つだけの話だ」
とりあえず、俺とコクシンが死んだと処理したやつは判明して、処罰済みらしい。
「んで、聞いたんだが、ダンジョンへ行くんだって?」
ギルド長が離してくれない。お茶に誘われて断りきれず、この間の別室に来ている。仕事はいいのか聞いたら、来客中だからなと答えた。俺たちを理由に休みたいらしい。
「まぁその内ですけどね」
ソファーにコクシンとラダに挟まれて座る。渋っていた2人は見たことないお茶菓子に機嫌を直している。なんだろうな、砂糖菓子かな。
「アンデッドダンジョンだから、人気ないんだわ。行くならしっかり依頼受けてから行くといい」
そう。人気がないと聞いてたからなんでかと思ったら、主に出てくるのがアンデッドだと判明した。ダンジョン初心者には厳しいものがあるが、戦闘能力としては手強くはないらしい。ただめっちゃ臭うので、誰も行きたがらない。ドロップアイテムはそれなりに換金出来そうなものがあるようだが。
「臭いの対策ってあるんですか?」
お菓子を口に運ぶ。ふわっと溶けた。前世の干菓子っぽいな。上品な甘さだ。
ギルド長がずずっとお茶をすすった。
「あったらとっくにうちが導入してる」
そりゃそうか。
「布で口元を覆うとか、強めの香水使うとか、あと、鼻に詰め物するとかだな。そのうち麻痺するが、慣れるまでが地獄だぞ。服にも臭い付くしな」
え、やだなぁ。なんかどんどん行きたくなくなってきた。ニオイ対策かぁ。防護服でも作ってみるかな。でもあれで戦闘は無理っぽいな。使い捨てのつもりで服を用意するか。
「そういえば、宝箱から臭い消しのポーションが出たと聞いたことがあるな」
ふと思いついたようにギルド長がこぼす。
それは消臭剤的なものだろうか。ダンジョンから出たあと使うものか? でも問題は中にいる間だからな。振りまきながらというのは現実的ではない。アンデッドに消臭剤したらマシになるかな。臭い、麻痺か。う~ん。
「ラダさんや」
「えっなに? 怖いんだけど!」
呼び掛けただけじゃないさ。ビクッとしたラダに笑いかける。ここはちょっとラダに頑張ってもらおうかな。上手く行けば商機にもなるよ。それで俺の干菓子こっそり食べたのチャラにしてやんよ。




