改造しよう
さて、精霊の雫だが。鑑定した結果、ラダが言った通り所有者の命を1回だけ守ってくれるというものだった。そして身につけていないとだめっぽい。ということで、見張りがてら1人になった時間で工作中だ。
「うーん。難しいな」
自由の利くレイトチックで、精霊の雫をはめ込める台座みたいなものを作ろうと思ったんだけど、上手くいかない。ものがものだけに、加工に出すわけにいかないしなぁ。
「針金みたいなので巻いとくかな」
見る人が見れば分かるらしいから、できるだけ隠したい。こう、鳥の巣みたいにぐるぐる巻きにして、ちらっと隙間ができるくらいにしとけばいいんじゃなかろうか。針金、あったかな。うーん、ないな。レイトチックで超小型鳥かごみたいなの作るか。余計難しいな。
「あ」
なにか良いものはないかと魔法鞄を漁っていたら、ヴォラーレの街の彫金師たちがくれたアクセに目が止まった。どれかサイズが合いそうなものあるんじゃないんだろうか。
そうして出来上がったのがこちらでございます。
なんということでしょう。顔の怖い太陽みたいなキャラのペンダントトップ。その口には精霊の雫が咥えられております! 醸し出されるシュールさと神秘さが相まって、とても痛々しい作品になってしまいました!
ちょうどハマるところがあるのが、これしかなかった。元々丸い宝石がはまってたんだけど、留め金が大きいのでティアドロップ型のでもなんとか留められた。
出来たものの、こういうのが趣味だと思われると嫌だな。まぁ、せっかく貰った、というかねじ込まれたものだし、恥ずかしいからと仕舞っていては意味がない。羞恥より命が大事。冒険者証のタグと一緒に首にぶら下げとこう。いや待てよ。ギルドでピッとするとき見られるな…。タグとは別にしとくか。革紐通して首にかけておこう。
ちなみに。例の指輪はなかった事にしている。多分鑑定したら、〇〇家の紋章が入った指輪とか出るんだろう。平伏しなきゃいけないような名前が出てきたら、怖いじゃない。迂闊に捨てて悪用されても困るし。もう死蔵するしかないよね。
空が明るくなってきた。ゴソゴソとテントからコクシンが這い出てきた。
「おはよう。早いね」
声をかけると周囲を見渡し、それから頷いた。自分が寝ている間に異変がなかったか、確認しているんだろう。
「おはよう。何も来なかった?」
「静かなもんだよ」
「良かった。もう少しいいか? 魔法鞄を貸してくれ。狩りついでに丸太を入れてくる」
いつもならバトンタッチして朝食作りを任せ、俺はちょっとだけ寝るのだが。
「いいけど、まだ薪作るの?」
チラッとコクシンは地べたで寝ているジノイドを見やった。雨の日以外はたいていそのまんま転がって寝るらしい。ちなみにいつかの疑問だが、普通に横向きで寝てた。盾を枕にして。
「…ジノイドには手厳しいね」
俺がそう言うと、ムスッとした顔を隠さず、コクシンは顔を洗ってからストレッチを始めた。
「ずっと行動を共にするのか?」
「ん? いや、次の街までだよ。なんというか、俺たちとはペースというかスタイルが合わないしね」
迷いもあったのだが、幸運スキルを聞くと彼は一人のほうがいいと思う。戦力としても微妙だと分かったし。盾が大きいので、基本待ちのスタイルだ。獲物を探してウロウロする冒険者には向いてない。いや、ダンジョンなら役に立つかもしれないけど。もれなく襲ってくるらしいからね。
「ならいいが。気づいてるか?レイト。そいつ、ガンドラから助けたときも、ギルドのいざこざのときも、感謝の言葉1つないんだよ。ご飯のときだってそうだ」
「…へぇ、そうだっけ?」
指摘され首を傾げる。全然気にしてなかった。いただきますは…あれは真似しただけか。感謝ねぇ。
「私が言うのも何だが、不器用だとか口下手だとかですむ問題じゃないと思う」
「あー…」
まぁたしかに。コクシンは口数は少ないけど、わりとストレートに言うもんな。俺が何も言わないから、溜め込んでたのか。
「ありがとうって、言われ慣れてないから気にしてなかったわ。ほら、俺の生まれたところってアレだったじゃん? して当たり前で、怒られることはあっても感謝されたことなんかないんだよね。俺にありがとう言う人なんて、教会の人だけだったんじゃないかな」
相手をしてくれていた薬師のばぁちゃんも、そういう人じゃなかった。駄賃だと飯を食わせてくれたり、飴玉をくれたりで、言葉にはしなかった。
コクシンがなんとも言えない顔をしていた。
「まぁ、言いたいことは分かった。これ以上は関わる気はないよ。とはいえ、就職先くらいはなぁ」
「レイトがそこまでする必要ないと思うんだが」
「いやだって、あいつのお金俺預かってるしさ。冒険者証取り消したままなのも俺のせいだし。街に着いたからって、お金渡して「じゃあな」はないだろ。いや、ジノイドは気にしないだろうけどな?」
多分、「そうか」と言って、とりあえず飯屋に行くんだろう。そんで大金持ってるのを誰かに見られて、良くない連中に目を付けられるのだ。俺らと離れてすぐ身ぐるみ剥がされたジノイドとか見たくない。まぁのらりくらりと生き抜いていくんだろうけども。
「構い過ぎだと思う。いい大人なんだから、放っておけばいいんだよ」
「お、おう…」
コクシンが立ち上がり、魔法鞄を腰に付けながら言う。あまりにもっともな言葉に、今度はこっちが言葉を失う。正直手を離すタイミングを測りかねてズルズルしているのは分かっている。構い過ぎか、なるほど。
「じゃ、行ってくる」
「あ、うん。気をつけて」
コクシンを見送り、小さく息をついた。空を見上げる。今日も晴天だ。頑張っても街に着くのは明日だろう。明日までだ。そう言い聞かせた。
特に何事もなく、ダンジョンが近くにあるという街に着いた。ロンガという名らしい。ダンジョンがあるからと言って、冒険者の姿が目立つわけでもない。むしろ前の街より寂れている。
「じゃあ、俺は飯に「行かせん!」」
案の定飯屋に直行しようとしたジノイドを捕まえる。が、俺の体重では止めることすらできず、引きずられることになった。
「待て待て! 自分勝手に動くな!」
コクシンが立ち塞がって止めてくれた。
「先にギルド行くよ。ご飯はそのへんの屋台で買えばいい。どっちにしろ、いまお金持ってないだろ」
「…そうだった」
ジノイドはすっかりぺちゃんこになってしまった袋を、物悲しそうに見つめてから頷いた。ここであの金貨を渡す訳にはいかない。しおれたジノイドを連れ、途中の屋台で山盛りの串肉を買い込む。もちろんジノイドのお金の中から俺が出す。ほら、芋串も食べときなさい。腹持ちするから。
冒険者ギルドに到着。デカいのに囲まれているからか、絡まれることもなくカウンターについた。ここはマトモだといいんだが。
「こんにちは。新規登録ですか?」
3人に囲まれた俺を見て、受付嬢はそう言った。いやいや、俺じゃないよ。
「登録は彼だけです。それで、コボルトの魔石とか売りたいので、それもお願いしたいです」
言いながら自分のギルド証と、袋詰の魔石を出す。間違って精霊の雫の方出さないように気を付けないと。ちなみに俺の改造にコクシンとラダはドン引きだった。近いうちにまた作り直すことを誓わされた。
「かしこまりました。お預かりします」
両手でタグを受け取る受付嬢。うん。ここはしっかりとしていそうだ。街1つ違うだけで、随分な差だ。
「…あら?」
受付嬢が首を傾げた。え、なにさ。俺何もしてないよ?




