幸運という名の縛りプレイ
えー、こちらボア肉です。これは鳥肉。こっちはウサギ肉ですね。あ、もう1つ鳥肉。それでこれが謎肉…。って、肉ばっかりやないかい! 野菜はどうした。菜っ葉採って来てねって言ったじゃないよ。
狩り組の戦利品に内心つっこむ俺。魔法鞄から出てきたのは見事に肉ばかりだった。
ちなみに狩り組はコクシンとラダ。ジノイドは打ちひしがれながら、干し肉をかじっている。いや、働いてもいるよ。うちは働かざる者食うべからずだからね。せっせと薪を割っている。片手で斧を振るって薪を量産している。枯れ木がない場所もあるから、薪を貯蓄しておこうと思って、斧買っておいてよかった。
「これ、なんの肉…?」
ボア肉を一口大に切りながら、謎肉を見やる。すでに捌かれて肉の塊になってるから、よくわからん。なんか紫色なんですけど、これ食べたらだめなやつじゃね?
「ソラントベア、小型のクマだ。街で売られてるのを見たことあるから、食べられるはずだよ」
コクシンがそういう。ほんとに?
『ソラントベア
超小型のクマ。普段は穴の中で単独で過ごす。繁殖期には群れになり、狂暴化する。果物や花を食べるため、その肉は見た目によらずとても美味しい。前脚が美味。』
合ってた。疑ってゴメンよ。
「前脚が美味しいんだって」
「…前脚…」
すーっとコクシンが視線をそらす。大きさからいって脚の肉なんてちょっとだもんね。捨てちゃったんだね。
「それより、いっぱい獲ってきたね!」
「あ、ああ。ラダが頑張ってくれたからな」
いかんいかん。今言われてもってやつだな。今のは口に出すべきじゃなかった。
「ラダが?」
警戒のために2人で行かせたんだけど、ラダも戦力になったのか。
「トリモチで鳥とそのソラントベアを獲ったんだ」
「え、マジで。スゴイじゃん」
そのすごいラダは、離れたところで四つん這いになり、ケロケロしていた。
「どうしたの? 回復薬は?」
飲まないのかと聞くと、コクシンが苦笑した。
「反省のためにひとしきり吐くらしい」
いや、なんの反省?
「実は果物を見つけていたんだが、持って帰るとジノイドに食べられるって、その場で全部食べたんだ」
「何やってんの…」
「帰ってくる途中で気持ち悪くなったらしくて」
リバースしていると。それは同情の余地がないね。好きなだけ反省するといいよ。ちろりとコクシンを見上げる。なぜ目を合わせてくれないのかな?
「美味しかった?」
「ななな、なにがだ?」
嘘が下手か。食べたんだね、コクシンも。ひどいよ。魔法鞄には1個も入ってなかったよ!?
まぁいい。捌いた肉を次々焼き始める。量が多いから、塩胡椒で焼くだけにしよう。ゴロゴロ根菜スープも作ってあるし。あとは、パンでいいか。
「全部割れたぞ」
「ジノイド、ありがと。じゃ、ご飯にするか」
「すごいな。美味そうだ」
タダ飯というわけでもない。道中のアレコレ分ということで、お金はもらっている。コクシンに魔法鞄を渡して薪を収納してもらう。その間に俺は配膳だ。ラダも復帰してきた。回復薬を飲んだからか、スッキリした顔をしている。
「すぐ食べられるの?」
「うん。食べる」
胃もメンタルも丈夫だなぁ。肉三昧なのに。
「「「いただきまーす」」」
いつの間にか手を合わせてのいただきますが2人も習慣になっている。俺たちの行動を不思議そうに見て、ジノイドも手を合わせた。
「いたがきます?」
惜しい。
さて、まずは気になる謎肉、ソラントベアから食べてみよう。あまり量がないので、これだけは等配分している。あとは好きなものを好きなだけ食えスタイル。
焼いても紫っぽい。正直食欲がわかない。あまり脂ものってないみたいだし。まぁ鑑定が嘘をつくわけもなかろう。好みは人それぞれだとしても。
「…んっ?」
甘い。脂の甘味とは違う甘さだな。花や果物を食べているせいか、どことなくフルーティーだ。それに柔らかい。美味しいといえば美味しいけど、ガッツリ食べたいときだと「?」ってなる。デザート肉だな。
「面白い味だな」
コクシンも紫の肉片を持って小首を傾げている。
「見たことはあっても食べたことはなかったのか?」
「ああ。高級肉だよ」
へーそうなんだ。まぁ、一匹が小さいもんな。普段は穴にいるってことは、捕まえにくいんだろう。よくそんなの捕らえてきたな。
「ラダが穴の入り口にトリモチ置いて、中に目潰し放り込んだんだ」
「あらまぁ。ラダもなかなかエグいことするじゃない」
「レイトがこうやったら罠として使えるって教えてくれたんでしょ!」
あれー? 俺発でしたか。モグモグしながら抗議するラダに、苦笑する。そういえば、トリモチ作ったときに色々使い道を話したな。問題なく使えているなら何よりだ。
「それよりも、ジノイド」
一人山盛りの皿を前にしているジノイドが顔を上げた。
「気になったんだけど、金遣い荒い割にそれなりの金額持ってるよね。配当減らされたり、しょっちゅうパーティー移り変わってる割に。Dランクってそんなに稼げるの?」
「ああ、いや。大半はスキルによるものだぞ」
「スキル? 盾術か?」
「『幸運』というスキルだ」
肉を咀嚼して飲み込み、ジノイドはポリポリと頬を掻いた。
初めて聞くなぁ。技術的なものばかりじゃないんだな。
「その割には、殺されかけたりしてるけど」
「そうだな。恩恵は受けているんだが、少々使い勝手が悪い」
ジノイドによると、幸運スキルは条件付きパッシブスキルらしい。
効果は、躓いて蹴飛ばした石が希少な鉱石だったり、襲って来た賊をノックアウトしたら結構な懸賞金が掛かっていたり、迷子を助けたら高貴なご令嬢で謝礼金もらえたとか、とか。
なぜか金銭面にしか効果が発揮されないらしい。
そして条件だが、所有者つまりジノイドがひとりのときのみ有効化になる。パーティーを組んでいたり、今みたいに同行者がいると無効となるらしい。
スキルがボッチを強要してくる…。
もうさ。ソロでいいんじゃないかな。一人でいたほうが実入りが良さそうだし、みんなでワイワイするのが好きというタイプでもなさそうだし。
そう言うと、へにょっと耳が倒れた。
「俺は冒険者向いてないんだろうか」
うん、とは言えない。と思っていたら、普通にコクシンが頷いていた。
「んー。あ、人と居れないからそういう性格なのか?」
「?」
あ、これ元々か。
「まず、ジノイドは魔法鞄を買うべきだね」
「でも高いと聞いたぞ」
「俺たちが持ってるので金貨150。出来れば時間停止機能付きのものがいいと思う。食料はもちろん、出来合いのご飯詰め放題だよ。今日のご飯でそれはよく理解してるよね? こんな大きな袋担がなくてもいいんだ。荷物が減れば動きやすくもなる」
「むむむ」
ジノイドはあまり料理をしないみたいだ。焼くぐらいはできるみたいだけど。移動中も食べるのなら屋台で買ったものや、宿屋でつくってもらったものを入れておくといいと思う。
「わかった。探してみよう。今手持ちでいくらあったかな?」
しばらく考えてから、ジノイドは頷いた。魔法鞄を見てみる。えーと、これがジノイドのお金だから…。
「金貨65枚と銀貨36枚」
「ということは」
「足りないね」
ガックリと肩を落とす。まぁ場所によって売値が違うだろうし、もっと容量が少ないのが安くあるかもしれない。ちなみにうちのは未だに底が見えない、いい買い物だったと思っている。
「街に着いたら、ギルドで聞いてみよう」
頷いたジノイドをコクシンが呆れたように見ていた。




