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魔法って便利

 ハラハラと羽根が散らばっていく。馬車の後部で、俺はロットクロウの羽根を毟っては捨てていっていた。前世でなら怒られ案件だが、こっちでは周りに人が居なければいいらしい。そのうち風で散らばるから、「いんじゃね」だそうだ。

 2羽とも毟り終わると、残った産毛を焼いていく。焚き火の火でやれば楽だけど、馬車の中なので生活魔法の火で炙ってみる。手のひらの上に火種を出して…。難しいな。火が小さいし、片手で鳥を持ち上げながらというのは無理っぽい。


「おい、こんなところで火を出すなよ!」


 しかも坊っちゃんからクレームが入った。まぁ真っ当な意見だ。素直にごめんなさいしておく。


「ふ、ふん! 俺の生活魔法はもっと凄いんだぞ。見せてやんないけどな!」


 なら言うなよ。いや、見せてほしいと言われたいのかな。でも昨日から水も出してないんだけどな。

 生活魔法は規模は違えど、大体の人が使える。なので威張るほどのことではないと思うんだが。


「王都で先生を付けて学んだんだぞ!」


 あーそれを自慢したかったのか。てか生活魔法に先生付けるって、どうなの。


「すごーい、さすがー」


 ここは煽てとけ。


 生活魔法は、種火、コップ一杯ほどの水、こぶし大の明かりの玉、だ。異世界便利魔法の、洗浄とかクリーン系の魔法はない。お風呂がないので切実に欲しいのだが、使えるという人に会ったことがない。でも魔法的に“有り得ないわけではない”という感覚がするから、頑張ればいつか使えるような気がしている。

 この“使える”という本能的な感覚と、イメージ力が魔法の肝だと思う。あと、魔力総量かな。




 特に何事もなく、野営地に到着した。途中2度ほど魔物の襲撃を受けたけど、護衛が難なく処理した。頻度的にも問題ない数のようだ。

 護衛いるの?とか思ってすいませんした。


 今日は獲物があるので、薪集めだけでいい。おこぼれをもらおうと、みんな積極的に拾って来てくれたのですぐに済んだ。もちろん例の2人は傍観だ。いや、オジサンの方は腰を浮かせてチラチラ見てきてたけど。


 火を熾し、産毛を焼いていく。キレイにできたら、ちゃっちゃと捌く。今日も串焼き。鍋とか持っている人がいたら借りようと思ったんだけど、誰も持ってなかった。

 スキレットみたいのとか、まな板、鍋、お玉…。買いたいものリストが増えていく。荷物が増えるけど、食事は大事。登録してお金稼げたら買おう。まぁその前に、武器と防具を揃えないといけないが。


 今日はちょっと味変してみた。枯れ木を拾ってたときに、スパイス的な植物を見つけた。ロッカといって、薬にも使える、というか本来の用途が薬。ピリ辛が楽しめ、胃腸にもいいので愛用していた。


 焦げないように炙ってカラカラにして、細かく砕いて塩とともに肉にまぶせばオーケー。ちゃんとみんなにも許可を取った。


 ジリジリと焼けていくロットクロウの串肉。ウサギより脂はなさそうだ。鳥肉かぁ。唐揚げ食べたい。生姜とニンニクっぽいのはありそうだけど、醤油ないしなぁ。なにより揚油も高そうだ。


「しかし、器用に使うな?」


 うん? 唐揚げに思いを馳せていたら、ハイターにしみじみとなにか言われた。視線が俺の手元に落ちている。


「これ?」


「ああ」


 そうだろうか。

 俺は手持ち無沙汰に土魔法でお皿を作ろうとしていた。簡単に言えば土を操作する魔法だろうと理解し、焼き固めた土器といえばいいのだろうか、そんなものを。

 はじめは分厚い木の板みたいなものができた。徐々に薄く、お皿っぽくはなってきたが、今度は強度が足りない。化学の知識が必要なのかなぁ。


「魔法でこういうのはしない?」


 首を傾げると、ハイターは隣で立っているリリーを見上げた。彼女は「そうね」と肩をすくめてみせる。ちなみに昨日、ハイターの頭を叩いた人である。


「職業柄、攻撃にしか使わないわ。土魔法は、石礫をぶつけるやつかしら?」


「ああ。昼間コイツが使ってたやつな」


「…あれはもう別物だと思うけど」


 呆れられた。でも石をぶつけてはいるんだよ。


「あとはこう、石の壁を作るとか。でもあれ大変だって聞いたわよ? だいたい、魔法使いって魔力を温存しとく癖があるから、生活魔法すら使わないって人もいるわ」


「そうなんだ。便利なのにね」


 そう言った俺の手元で、パキョッと音をさせて皿もどきが砕けた。うーん。なんでだ。

 足元には瓦礫と化したものが散らばっている。


「君、それ疲れないの?」


 リリーが訝しげに聞いてきた。もう何度も失敗してるからね。


「まだ大丈夫かな」


 魔力切れになる感覚は、何回も味わってるから前兆が分かる。ツキンと片頭痛的なものが来るのだ。それを無視して使うと、吐き気がする。最悪ブラックアウトだ。


「総量が異常なのかしら。それとも使い方?」


「異常って…。魔力操作ってスキルはあるよ」


「魔力操作ねぇ。聞いたことはあるけど」


 リリーさんは首を傾げたままだ。納得できなくても、そうなのだ。他人のスキルに深入りするのはタブーだぞ。




「あ。肉焼けたよ!」


 結局、お皿はできなかった。いつか料理映えするお皿作るよ!



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