悪夢の始まり
その日、俺は日課である剣術の朝練をしていた。
今どき剣術の稽古などと思っていたが、祖父“勲”たっての願いだったのとやってみると意外と面白いということから今日まで続いている。
朝練は主に庭で一人で素振りをしている。
家は平均的な家と比べれば少し大きいくらいだろうか?
東京郊外というのもおこがましいほどの田舎にあり、そのため庭も広い。
素振りをする程度なら広すぎるくらいだ。
この家に、父と母、それに妹の四人で住んでいるが、父は会社の営業で世界中を飛び回っており、ほとんど家にいないので実質三人みたいなものだ。
別に父がいなくて寂しいということはない。父の仕事がどれだけ重要で大変かは知っているつもりだ。
そういうと父は寂しそうな顔をするが…
そうこうして日課の朝練を終わりにしようかと考えていたとき、
「朝陽〜、朝ごはんよ〜」と、母の呼ぶ声がした。
俺は朝練の片付けをして、家に入った。
居間には眠たそうに顔を擦っていいる妹の“椿”が既に席について、テレビのニュースを見ていた。
「おはよう、椿」
「おはよう〜、お兄ちゃん」
「ほら、二人とも手は洗ったの?椿はついでに顔を洗ってらっしゃい」
2022年4月1日の朝、いつも通りの朝になるはずだった。
テレビのニュース番組にあんなニュースが流れてこなければ…
『私は今、中国の大都市重慶上空にいます!
見えますでしょうか!あの大きな穴を!
直径はおよそ2kmといったところでしょうか?
都市の中心にぽっかりと大きな穴が空いております!
これは一体なんなのでしょうか?
他にもお...』
ガシャーン!!
突然母が朝ごはんのホットケーキの乗った皿を落とした。
俺も椿も大きな音に反応して洗面台から居間へ戻ってきて母を見た。
母は顔を真っ青にして言った。
「じゅ、重慶って、パパの出張先じゃ…」
その日を境に、俺の日常は一転した。
悪夢でも見ているかのように…